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見知らぬ人との出会い



雨がしとしとと降る寒い冬の夜、翔太は仕事帰りに駅前を歩いていた。街はクリスマスを前に賑やかで、光り輝くイルミネーションが至る所に飾られていたが、翔太の心は少し沈んでいた。仕事はうまくいかず、将来に対する不安が募っていたからだ。

そんな時、駅のベンチにうずくまる一人の男性が目に留まった。薄汚れたコートを羽織り、疲れ果てた様子で震えている。誰も彼に目を向けず、忙しなく通り過ぎていく。

翔太は少しの間、どうするべきか考えたが、意を決してその男性に近づいた。「こんばんは、大丈夫ですか?」と声をかけると、男性はゆっくり顔を上げた。彼の顔はやつれており、目には深い疲労と絶望が浮かんでいた。

「すみません、何かお手伝いできることはありませんか?」翔太が問いかけると、男性は小さな声で「温かい飲み物が欲しい」と答えた。翔太はすぐに近くのコンビニに駆け込み、コーヒーとサンドイッチを買って戻った。

「これ、どうぞ。」翔太は男性にコーヒーとサンドイッチを手渡した。男性は感謝の言葉もなく、それを受け取り、一口ずつ慎重に口に運んだ。その様子を見て、翔太は少しだけ自分の心が軽くなるのを感じた。

「お名前は?」翔太が尋ねると、男性はしばらく沈黙した後、「中村だ」とだけ答えた。それ以上詳しいことは話そうとしなかったが、翔太はそれで十分だと思った。「これからどうするつもりですか?」と聞いても、男性は明確な答えを持っていない様子だった。

「もし、困ったことがあれば、ここに連絡してください。」翔太は自分の名刺を差し出した。男性はそれを受け取り、また深く礼をした。

その後、翔太は自分の生活に戻り、中村というホームレスのことは次第に忘れていった。日常の忙しさに追われ、彼の生活は変わらぬまま続いていた。

しかし、数ヶ月後、翔太は会社で驚くべきニュースを耳にする。会社が新たな取引先として大手企業「ナカムラコーポレーション」との提携を発表したのだ。その発表の場に現れた社長が、あの冬の夜に駅で会った「中村」だった。

「翔太さん、覚えていますか?」中村社長は微笑みながら翔太に歩み寄った。「あの時、助けていただいたこと、心から感謝しています。あなたの親切なおかげで、私は再び立ち上がることができました。」

翔太は驚きとともに、自分の行いがどれほど大きな影響を与えたのかを実感した。中村社長はその後、翔太に新しいプロジェクトの責任者を任せ、彼のキャリアは一気に上向いていく。



人との出会いは偶然ではなく、思いやりの行動は予想もしない形で報われることがある。見かけや状況にとらわれず、目の前の人を大切にすることの大切さが、この物語を通じて示されています。

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