【エッセイ】恋をすると人間になっちゃう『さとうもかの「Lukewarm」』
やはり歌詞は『共感』と『インパクト』が大切だと思う。
共感に振り切るのであれば、人生における様々なあるあるを音に乗せれば心に響く。
インパクトに振り切るであれば、それこそ意味のない言葉の羅列でも気持ちよく聞ける。
ただ私は、この『共感』と『インパクト』を併せ持つ歌詞が最強だと信じて疑わない。
しっかりと届く人には届いて、けれど届かない人にもインパクトが残る言葉こそが耳ごこちを掌握すると信じている。
そう言った意味で『さとうもか』の「Lukewarm」はサビの『共感』と『インパクト』が、グレネード弾のように心や脳に炸裂する。
やんわりとふんわりと歌いながら、なんと、耳に残るフレーズをぶち抜いてくるのだろうか。
初めてサビを聞いた時に、すぐに心を掴まれた事を覚えている。
恋をすることを色々な言葉で人は例える訳だけど(例えば『槇原敬之』の『モンタージュ』なら「自分の耳が赤くなっていく音を聞いた」など)、「人間になっちゃう」というフレーズの共感力はやられたと感じた。
とても寓話的なのになぜか「分かって」しまう言葉のはめ方なのだ。
更にこの後、ママの言ってた事は~のくだりで、ガーリッシュな感じを出してくるのも良い。
『ママの発言』という言葉は十代二十代だったら共感の代名詞として響く言葉。
巧みなチョイス。
サビ前の『とぅるるるるーん♪』も魔法感をだしており『人間になっちゃう』という歌詞を引き立てていて非常に素晴らしい。
しかし、である。
サビのインパクトだけを見ると『恋』に落ちた子のすてきな歌と思ってしまう本作、タイトルが『Lukewarm』、日本語にすると『ぬるい』という題なのだ。
妙である。
このサビの様子からは、ぬるさを感じられない。
もう少し歌詞を覗く。
更に別の場面では。
恋のすばらしさ、というよりは。
なんか「あーあ、恋しちゃったなあ……」という感じではないだろうか。
『魔法のような恋』ではなく、どちらかと言えば続いていく『日常としての恋』を描いているように感じてしまう。
魔法にかけられたようなサビの歌詞とは対照的に、ぬるくなった恋を描き続けているように聴こえてならない。
これはなかなか一筋縄ではない曲である。
ここが、さとうもかの才能の凄いところだと思う。
「そこを切り取るのか」という部分のチョイス。
さらに、その切り取り方も、TikTokを楽しむような十代の子に伝わるような、インパクトと共感を生む作り方をしてるのが、もう完全降伏という感じ。
(さとうもかの他の曲①.こちらは完全に失恋の歌だが、歌詞の切れ味が本当にエグい。)
(さとうもかの他の曲➁.こちらは最高の夏の恋の歌。あー、こんな夏過ごしてー、こんな恋してー)
ちなみに、この曲はTikTokでも流行っている曲らしい。好き嫌いは置いと
いて、確かにあのSNS、歌詞の『インパクト』が、とても映(ば)えると思う。しかし、凄い歌詞だよなあ。こんな言葉を作れるようになりたいと思う。
僕は初めて聞いた時は、魔女の歌と勝手に思ってました。
共感とインパクトが受け手によって色濃く別れる。
この辺りもシンガーソングライターとしての手腕が振るわれている感じがする。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?