脱毛サロンの帰り道、美容とテクノロジーと資本主義について考えていた

電車の中は、脱毛の広告だらけだ。

私自身もその誘惑ないし圧力に屈したひとりで、新卒の少ない給料を突っ込んで全身医療脱毛7回コースを契約した。

メディアが謳う「美容こそ正義!美しさは善!」なムードからは距離を取りたいと思っていたのに、いざやってみると美容って楽しい。特に効果がすぐ見える医療脱毛は、テンションぶちあげだ。

そんな脱毛サロンの帰り道、このポッドキャストを聴いていた。

TED Talks Dailyの「美の概念をいかに受け入れ、いかに挑戦するか」というテーマのトークだ。

確かに美容は楽しいけど、もう少し色んな意見があってもいいと思っている。それに最近、インターネットで見かける美の基準は厳しすぎる気がする。そんな私に向けたポッドキャストがちょうど配信されていた。

今回のTED Talks DailyのゲストであるElise Huは、大手メディアの韓国支局長として4年間ソウルに駐在した経験から、韓国社会の特徴の一つとして外見重視を挙げる。

外見重視主義

「クマがある、疲れて見えるね」「太った?」など、人に会った時に見た目についてコメントする習慣があるのは、韓国も日本も同じようだ。マッチングアプリでスワイプされる時も、写真付きの履歴書で就職するときも、いつでもどこでも外見で判断される。

美しさが価値になる社会では、外見が綺麗なこと=善とされ、見た目を「改善」しようとすることは正しい努力と捉えられる。

TED Talks Daily

実際、日本のインターネット上に目を向けると、Instagramはインフルエンサーが闊歩するルッキズム帝国だし、Twitterでも「美容への努力=善」とする価値観のツイートがバズっている。

このツイートをした人や、これに共感する人は、外見改善の努力=善・勤勉と捉えていて、美しさの基準を満たしていないのに努力しない=悪・怠惰なのだろう。

容姿が良いことが価値になる社会では、見た目に構わないと、実質的な不利益を被ることになる。だから、外見をより良くするために、人々は時間と労力とお金を費やす

TED Talks Daily

私自身、東京で就職してからすぐに、外見を良くすることの必要性とメリットを認識し、毎月美容に一定のお金と労力をかけている。

全身医療脱毛に通ってもうすぐ1年になるし、定期的に美容院だけでなく眉毛サロンやまつげパーマを行い、Q10のセールでコスメをまとめ買いする生活だ。

欧州にいて外見に無頓着だった学生時代とは比べものにならないほど美容に気を遣っている。そして半分は趣味ではなく、必要な経費であり投資だと認識している。

美の基準とインターネット、そして資本主義

ポッドキャストの後半では、これまでの美の規範についての議論をベースに、加速度的にビジュアル重視になっている現代社会を「Technological gaze」という言葉を用いて分析している。

Techonological gazeという言葉は、メディア批評で使われる「男性のまなざし」から派生してはいるが、「男性のまなざし」が外的なまなざしであることに対して、Technological gazeは、私たちがテクノロジーを通してスクリーン上で自分自身をどう見るか・他者をどう見るかによって作られる内面的なまなざしである、とHuは言う。

私たちはインスタやTikTokの投稿で美人の投稿を見て、それらの美人にできるだけ近づくようなフィルターの自撮りを投稿して、それを見た人がさらに…といったループが、美しさの「正解」を形作っていく。

年々、美しさの「正解」の範囲が狭まり、「不細工」の範囲が広がっていく。そして「改善」する必要がある人が増え、美容業界が儲かる。

その話を聞いてふと思い出すのは、AI生成の美女画像がインターネット上に散乱しているが、どれも同じような顔に見えることだ。今後は、人間がAI美女に寄せて美容整形をする時代が来るのだろうか。

これから読みたい本

ルッキズムが資本主義と強力なタッグを組んでいる東京で、残念ながら私は暫くは美容投資をやめることはできそうもない。

だけど、「カワイイは正義!」に無批判でいることはやめたい。
そのために、ぼちぼち本でも読んでいこうかと思う。

Elise Huの著書はこれらしいが、英語を読むのが面倒だ。英語は日本語の1/3以下のスピードでしか読めない、軟弱な帰国子女なのだ。

美の規範とフェミニズムについてはこの本がメジャーなようなので、まずはこれから読んでみることにする。


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