樹璃と枝織は、ユリ熊嵐の夢をみるか?①

 このタイトルの単語が分かっても、首をかしげた人が多いかもしれない。
今からお話するのは、私が少女革命ウテナの完全新作漫画「少女革命ウテナ After The Revolution」に収録された「美しい棘」(樹璃回)を読んでから
「樹璃と枝織の関係は、ユリ熊嵐の銀子と紅羽に繋がっているのでは?」という確信に辿り着いた推論です。
 なのでこのページには、少女革命ウテナ(TV・漫画・劇場版・新作漫画)のネタバレ、ユリ熊嵐のネタバレが多分に含まれますちょっとだけ「輪るピングドラム」のネタバレもあります。以上の作品のネタバレは踏みたくない人はブラウザバック、そもそもタイトルの用語が全く分からない人はバックのち検索、本編を視聴・読書してから部屋をあかるくしてはなれて読んでください。

 今から二十一年前に描かれた「ともだち」の話と、その十八年後に描かれた「ともだち」の話をしよう。


①「ユリ熊嵐」との類似点を読む「美しい棘」

 まず最初に、そもそも「ウテナ」の漫画である美しい棘のどこに別作品である「ユリ熊嵐」と関係があるのかを本編描写と並べて説明します。

 After The Revolutionは、原案に幾原監督本人が噛んでいるためか、ウテナの漫画でありながらウテナ以外の要素も物語のエッセンスとして投入されています。例として西園寺&冬芽回・薫兄妹回では、彼らから両親を奪った「あんなこと」という謎の事件を匂わす新要素が登場しますが、これはウテナ後の幾原監督のアニメ「輪るピングドラム」で、高倉晶馬の口から語られる言葉です。
しかし、樹璃回たる美しい棘では「あんなこと」について全く言及されません。壊れかけた家族の円環をなんとか繋ごうとするピンドラからの引用だからです。
 それとは別に、高槻枝織が漫画キャラとして初めて登場する樹璃回で引用されるのが、幾原監督が意識的に"百合"を描いたアニメ「ユリ熊嵐」です。

 美しい棘での樹璃の回想シーンにて、このような独白があります。

樹璃「私は誰にも愛されず 誰にもみつめてもらえないだろう」

この樹璃の回想にかぶさっているのが、ユリ熊嵐第3話でほのめかされ、第7話ではっきりと捨てられた孤児の過去が判明する、百合城銀子の回想シーンです。

クマ美「お前はいらないクマだ!」
クマ子「誰にも見つけてもらえない、さみしいヒトリカブトだ!」

ユリ熊嵐では、その後銀子は他の孤児たちと一緒に、生きとし生けるもの全てを愛するクマリア様からスキと承認を与えてもらうため、クマリア様の小熊として人間との戦争に駆り出されるのですが、
美しい棘では、枝織という別世界のお姫様に自分を見つけてもらうために、樹璃は「フェンシングの強い人って王子様みたい」という枝織の言葉から、彼女の王子様になるべくフェンシングを始めます。

この時点で、新作漫画での有栖川樹璃にはユリ熊嵐の百合城銀子に関する台詞と、その背景 ───自分は愛されない者だ、自分を見つけてもらう(相手の愛の承認を得る)ためにはもっと強くなって、戦わなければいけない───が重ねられているのが見て取れますが、先の展開がさらにこの別作品のキャラ同士を結びつけていきます。

樹璃「枝織が 私を見つけてくれた…!!」「私を 王子様だと───

一人自主練に励んでフェンシングの腕を磨き、試合で勝利を積み重ねた樹璃が初めて観戦していた枝織に声をかけられるシーンの独白です。

 そもそもこの「見つけてくれた/見つけた」という言い表し方は、ユリ熊嵐で徹頭徹尾様々な出逢いを示す重要なキーワードです。といっても、そういう言い方をしているだけで、その内実は棺を開けたウテナがアンシーに言う「やっと…会えた」であり、幾原監督が長く自作品内で描き続けていたものであります。
少しずつ明らかになる銀子の回想の中では、幾度目かの人間との戦争で銃弾に倒れ、弱者として切り捨てられ、見つけてもらうこと・承認されること・スキを与えてもらうことを望みながらも孤独に死を待つ銀子の元へ、彼女の"声"を聞き取り、断絶の壁を越えた人間の少女・幼少期の椿輝紅羽が現れます。

紅羽「大丈夫、一人ぼっちじゃない。私はあなたのともだちだよ。
      私は、あなたがスキ」
銀子「クマリア、様…」

第8話での銀子がこれを「紅羽は要らないクマだった私を見つけてくれた。私を承認し、スキを与えてくれた」と明言し、ようやく主人公紅羽の前に現れた理由がほぼ明らかになるのですが、紅羽には1話時点で既に銀子ではない泉乃純花という恋人が隣にいたのでした。
この「自分を見つけてくれた相手は、いつの間にか自分以外のものになっていた」というユリ熊嵐での展開が、先の樹璃の独白から枝織の隣に現れる瑠果として使われています。

 7歳からの枝織の許嫁だという、土谷瑠果。
彼こそ枝織の"本物の王子様"なのだと思いつつも、練習中になくしたロケットペンダントを瑠果に持ち去られた事から「枝織の前から消えてしまえ!」と樹璃は悔しさと憎しみを顕にし、
銀子は自分と同じように紅羽に見つけられ、紅羽からもらったスキを諦めない泉乃純花に嫉妬して、彼女がクマに狙われているのを知りながら見殺しにするのでした。

過去から抱いていた樹璃の瑠果に対する羨望は、決闘を経て瑠果が「本当は誰の王子様だったのか」という種明かしに繋がり、樹璃は現実世界での試合後持ち去られたままだったペンダントが胸元にあるのに気が付きます。
 樹璃のペンダントは、TV版・劇場版ともに共通する枝織への恋慕そのものの象徴であり、同時に樹璃の心を縛り付ける強い執着と枝織への隷属の現れですが、ユリ熊嵐でも"星のペンダント"というキーアイテムがあり、本編では銀子が身につけています。

このペンダントもまた、ユリ熊嵐の中で恋慕・承認を含めた好意的感情たる「スキ」の象徴として作中で機能するものですが、紅羽の母・椿輝澪愛が友人のユリーカから二人の「スキを忘れないための誓い」として贈られたペンダントであり、断絶の壁に隔たれた世界で紅羽と離れ離れになる銀子へ澪愛が贈った「スキのお守り」であり、澪愛が紅羽と銀子のあるべき未来を描いた絵本"月の娘と森の娘"の中で娘たちが出逢うきっかけでもあります。

樹璃のペンダントと同じく、これもまた"執着"の要素はあるのですが、銀子にとってはかつて紅羽と分かち合ったスキの記憶に繋がるものであり、澪愛が意図したポジティブな"スキを忘れないためのもの"としての側面が強く、ここで戻ってきた樹璃のペンダントも瑠果によって同程度ネガティブな側面を払拭されたものと考えられます。

 試合に勝利した樹璃に称賛を送り、引退を引き止める枝織に対して「君のために戦うのは辞める」と言う樹璃。
瑠果の死に責任を感じ、それまで彼から"枝織の王子様"を自主的に引き継いで戦ってきた事を明かし、その責務を終わらせ「戦う事が好きな自分」を認めた樹璃に、枝織は「久しぶりに瑠果の夢をみた」と告げます。

枝織「彼は 私と樹璃さんの隣にきて…」
  「『見つけてくれて ぼくを見てくれてありがとう』って」
  「そんなふうなこと言って微笑むと去っていってしまった」

ユリ熊嵐で「見つける」という事は、相手を認識し、相手の存在を承認し、相手にスキを与えるという事。
彼が別れを告げたのは、自分の許嫁として瑠果を見ていた枝織と、"枝織の王子様である"という断絶の先「自分を見つけていた王子様」としての瑠果をようやく見つけた樹璃でした。
瑠果から戻ってきたペンダントには、樹璃が持っていたスキである枝織の写真と一緒に「戦え、樹璃」という彼なりのスキが刻まれていたのでした。


 以上が、個人的に推察している"美しい棘とユリ熊嵐の類似点"です。
・有栖川樹璃には百合城銀子の描写が重ねられている
・ユリ熊嵐での「見つける/見つけられる」の文脈が使われている
この二点から、私は初見時に「この話は実質ユリ熊嵐では?」と疑問を抱き「樹璃に銀子がかぶっているのなら樹璃はクマにあたるのでは?」と思い「という事は枝織はヒトの方では?」と一連の動揺から暫し落ち着いた後「てか幾原監督、枝織初登場のこの話にここまでユリ熊嵐かぶせてる辺りあの人の中でこの二つは繋がってるのでは?」と言う推察に行き着きました。

しかしこの時点で確証までは掴めなかったので、私は長く樹璃と枝織・銀子と紅羽について延々考える羽目に陥ってしまうのでした。

 という訳で②では、二十一年前に描かれた「ともだち」こと樹璃と枝織の関係性について改めて考え直す回になります。
読む気がある人は次回も私の妄言に付き合ってもらう。
ここまでお疲れ様でした。

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