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拒絶、絶望、そして救済。

Rusak‼ Seperti Hidup Loe!

「壊れてるんだよ!お前の人生みたいにな!」

(インドネシア語の説明は下にあります)

2019年最大の問題作です。

黒いガムテープが貼り付けられたその無造作加減といい、字体といい、タイルの汚れ具合といい、ストリートの躍動感がビシビシ伝わってきます。筆跡から分析するに、最初ただ「故障」と誰かが書いたところに、気の利いた他の誰かがお茶目な一言を書き加えた。そう言う風に見えます。

円形の痕跡から推測するに、缶入り飲料の梱包に使われていたであろう段ボールが包んでいるのは、殿方が小用時に使う陶器製の装置。

それで連想するのはやっぱりあの作品です。

そう、これはずばり、デュシャンの「泉」に対する21世紀のストリートからの挑戦ではないでしょうか。

もうちょっとよく見てみましょう。

「壊れてるんだよ!お前の人生みたいにな!」

えっ?俺?!

個室に入るなりこのステートメントに出くわした男性は、衝撃とともに、とてつもない無力感に襲われることでしょう。

簡単な用を足すことさえできないなんて!

これまでの俺の人生、一体なんだったんだろう。

ふとそんな想いにとらわれて、先ほどまであれだけ切羽詰まっていた尿意も一瞬にして忘れます。

でもね。いくら忘れたつもりでいても、それは幻。

決して待ってはくれない。それが尿意。

ところが、です。

小刻みに震えながらうなだれた俺の視界の片隅が、白く鈍い光を放つなにかを捉えたのです。

「大丈夫よ。さあ、ここに!」

両腕を大きく開いて俺を招く、女神のようなその存在。

そこにもうひとつの便器があるから。

うん、そっちを使うといいよ。

捨てる神あれば拾う神ありって本当だよね。

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(撮影場所:いまはなき Mondo by The Rooftop)

●インドネシア語の解説●

Rusak! Seperti hidup loe!(ルサッ!スプルティ ヒドゥップ ロー!)

- rusak : 壊れている
‐ seperti ~ : ~のように
- hidup : 生きる(もともと動詞だが、「人生」「いのち」と名詞のように使うこともある)
- loe : お前(ジャカルタのスラング)            

【ポイント】
● お前 「loe」 に対する一人称は 「gue(グエ)」。男女共通。
グエーーーーってなんか日本語の感覚だと品がないし、やっぱりスラングだし、私自身はほとんど使わないけど。
「さんざん便器とか尿意とかの話しててお上品かよ」と突っ込まれてもしかたあるまい。

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