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飛島刺し子

 年に1枚は、挑戦と言えるような作品を作ることにしています。2022年は飛島刺し子でした。

書籍 徳永幾久/刺し子の研究(1989年出版)/衣生活研究所

 こちらの本に載っている飛島刺し子の女性もののドンザ(漁師の着物)。その背部分のアップの写真の美しさに憧れて、私は110cm×150㎝のグレーの綿生地の全面に、紺色の刺し子糸で刺しました。作業できる日もできない日もありつつ、製作期間は模様の下書きに1か月、刺し子に4か月。これまでで一番時間がかかったという意味でも、思い出の一枚になりました。

生地のアップ

 山形県酒田市飛島でドンザ(漁師の着物)や前掛けに刺されていた独特の飛島刺し子。
 花のように見える部分をガンゼ刺し、花に沿わせて階段のように刺している部分を鍵刺しと言います。ガンゼの元のモチーフはカヤモノリという海藻やウニなんだそうです。
 私は全面に下書きをしてから刺していきましたが、中心を取って、左右斜めに一列ずつガンゼを刺し通したら、あとは鍵刺しを何段続けるか決めて、刺しながらバランスを取っていける模様だと思います。
 この本で紹介されている模様の創案者は明治38年生まれの女性。当時藍染の布にどの程度下書きや印をつけられたのかは記されていませんが、下書きに使えるインクペンなどなかった時代です。恐らくは糸印や折り線で印を取ることが多かったのではないでしょうか。この模様には面積の広いものに刺す工夫が詰まっていると思うのです。

私は布の中心から展開しました。


 刺し子の研究という本には、地域や時代の違う様々な刺し子とその背景が詳しく記されているのですが、飛島刺し子は中でも特に、模様の選択、組み合わせなどに細かなルールがあったそうで、年配者から手きびしく技術を教え込まれ、伝承されてきたものだという記述がありました。飛島には織機がなく、布は貴重で、上方から入ってきた古着を海産物と交換して移入し、仕立て直したとの記述と合わせると、なかなかに緊張の縫物です。古布なら強度の都合上あまり刺し直しできないでしょうし、もし途中で破れでもしたら絶叫してしまいそうです。
 キリっとした規則性と、ドンザいっぱいに自分を表現できる喜びが同居しているような、本当に素敵な刺し子。

 手を動かしてみて初めて感じることがたくさんあります。ちょっと大袈裟なのですが、泣きたくなるような瞬間があるのです。古いものを真似て刺すことは、これからも長く続けていきたいと思っています。


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