見出し画像

染めへの憧れ

波千鳥

 青海波と千鳥を合わせた模様、波千鳥。

 結んだ際に青海波の天地が合うように斜めに模様を配置した。刺し子風呂敷は染風呂敷と違って、糸を刺し通す分布が歪みやすい。これは約50cmと小さいサイズなので、なんとか許容範囲の仕上がりになったと思う。

こういうふうに模様を出したくて
千鳥は夫に書いてもらった。眉毛は家族の反対を押し切ってつけた

 刺し子風呂敷はこれまでもたくさん作ってきた。多くは布全面になるべくバランス良く伝統模様を配置した、刺し子のための刺し子風呂敷。なんか変な言い方だけれど。

 もう一つ、私の中に「染めへの憧れの刺し子風呂敷」という分類があって、今回の波千鳥はこちらに属すると思う。この分類には手本というか憧れがある。徳永幾久/刺し子の研究(1989年出版)/衣生活研究所に、花風呂敷という名で紹介されている刺し子風呂敷だ。ここで少し紹介させて下さい。

書籍 徳永幾久/刺し子の研究(1989年出版)/衣生活研究所

 本によると、江戸~明治期の山形で、最上特産の紅花等の荷主であった豪商が持つ家紋入大風呂敷を真似て、農民から昇格した在方商人などが、家紋や屋号を大風呂敷に刺し子していたそうで、著者がこれを花風呂敷と名付けている。
 当時の山形では、染風呂敷は米一俵の染代で京に染めに出していたそうで、在方商人達にとってはとても高価なものだった。それで、刺し子である。
 紺無地木綿の中央に家紋を刺したり、商売を通じて知った京の友禅風呂敷の模様を真似て刺し添えたりしていたそう。

 私は本に載っているこの家紋や屋号や縁起模様が刺し子された風呂敷に憧れている。在方商人達にとっては「もっと稼ぎがあれば染めに出せるのになあ」という事なんだろうけれど、それでも、家紋や鶴亀や恵比寿様を刺し子したその風呂敷の写真からは、「腕が鳴るわー」って妻女達の声が聞こえてきそうだ。使いながら少しずつ刺し足した人もいたかもしれないな、確かにこういう染め模様ってよく見るよなあ、などなど、見るたびに想像して楽しくなる。
 何度も作っている大きな二重円を刺した風呂敷も、憧れて作った。豪商の染風呂敷に憧れて刺し子した在方商人の風呂敷に憧れて刺し子した、私のただの円風呂敷。

まる風呂敷

 来年は本を手本にもっと大きな、四幅、いや五幅くらいの風呂敷を作りたい。楽しいだろうなあ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?