ラヴ・ラヴ 過去の道標

アタシが最初に子供を保護したのはホンの気まぐれ。ホントに気まぐれだったのよ。今じゃ信じられないけどガキは大嫌いだったわ。うるさいし、役にたたないし、いる意味なんてホントに無い存在だと思っていたわ。ホントに。

アタシの親は愛に溢れた人だったわ。可愛がられた記憶もある。不自由は無かったし不自由があったとしてもそれも享受してたわ。アタシはバカだったから。親に愛されてるって思っていたわ。15歳でアタシが捨てられるまではね。
アタシがビサイズだって分かって能力が怖くなって捨てたみたいだけど。そんなのどうでも良いのよ。
アタシには捨てられたって事実だけが突き付けられたんだから。それまで愛されてたかどうだったかなんて関係ない。今そうなんだって事が全てなんだから。
15歳で捨てられてからの生活なんて当然荒れるわよ。あたり前だけど今と見た目もかなり違ったわ。自分の食べるモンなんて盗むか力で奪うかの2択。盗んだ金で身の回りを整えたりするしかなかったの。仲間なんていらない。気心の知れた奴も必要ない。付き合いは利用するためのみ。気付いたらアタシは裏の世界で名の知れた存在になっていたわ。もちろん命を狙われた事なんて一度や二度じゃなかったわ。
全てワードの力でねじ伏せて奪って来た。
アタシは自分のワードが嫌いだったわ。ジュエルとジェイルなんて対極過ぎて意味が分からなかったし。
何より相手から奪うっていう能力が気に入らなかったの。産まれながらに今のこの生活が決められていたみたいで惨めだったし。お前の人生は奪うだけで与える事は出来ないんだよと誰かに言われている気がして嫌いだったの。
恐らくだけど捨てられてもアタシは親からされていた与えるっていう行為に憧れていたのかもしれないわね。
アタシのワードは五感+ワードの能力、そして命。七つ奪う事が出来る。最初から命を奪う事も出来るし徐々に奪って最後は命を奪う事も出来る。
一つ奪う度にジュエルの七色の一つが煌めく。七つ奪えば七色。なんて下卑た力。趣味の悪いアタシにお似合いなんでしょうけど。
アタシがホントに嫌っていたのはワードの能力じゃなくそれを無慈悲に行使出来る自分だったのかもしれないわ。

ある日の事だった。ホントに何でも無いただの1日だったの。
いつもの様に「お勤め」をしていた時。裏じゃ多少ワルと言われてる相手から奪った後。
ワードを解いたアタシの前に子供が立っていた。
「誰だ?お前」
その子供は震える声で答えたわ。
「お父さんを。何で。お前。許せない」
アタシがたった今動かなくした男の子供だという。
「そうか。悪いが俺には関係ねぇ事だ。まぁお前の親父もロクな奴じゃなかったみたいだぞ。お前から奪うモンはねぇみたいだし失せろ」
子供の目には涙。アタシには美しく見えたわ。ほんの少しそれに目を奪われた時だったわ。
「ワード解凍!!I!(アイスエイジ)!」
子供のワードにしては強力な力だった。
アタシの右腕を氷漬けにする程度には。
ほんの少しムカついたわ。でもそれより。
「敵討ちのつもりか?止めとけ」
「うるさい!お父さんも善人じゃなかった!でも命を奪う事ないだろ!」
何も甘い事言ってんだ?って思ったわ。日の当たる道を歩んでないならそれ相応の対応をされて然るべきだろうに。アタシはそう思って来たしね。
「親父が善人じゃないって理解してんならお前も多少心得があるんだろ?自分の力を親父のためと言いつつ他人に使った事ないのか?」
「あるよ!だからなんだ!生きてくのに必要な事して何か悪いのか!」
子供はアタシの目をじっと睨みつけて吠えたわ。
間違ってない。でも今のこの子供の状況が昔の自分と似てるなと感じてしまったの。作り出したのはアタシだけど。親父を奪った事で一人にしてしまった。罪悪感なんて感じた事無かったけどホント一握りそれを感じたわ。
「お前。俺と暮らせ」
なぜ?自分で言った言葉が信じられなかったわ。
もちろん子供はぶざけるなとか嫌だとか言っていたわ。どうやって説き伏せたか分からないけど一緒に暮らす事になった。アタシとの生活が気に入らなければアタシを殺して良いという条件で。
アタシはまだ神代七ではなかったから気ままに暮らしていたわ。家があるやらないやらの生活。
ホントに何がしたかったのかしらね。奪った事への罪悪感からか。与えるって作業の実験台だったのか。
子供の名前はラヴェル。男の子。
一緒に暮らし始めて1週間程した頃アタシは仕事を始めたの。街の食堂で。初めて奪う以外の方法で収入を得る厳しさを知った。でもそれは悪く無い経験だったわ。欠けていたアタシの人間の部分が戻って来る感覚があった。
ラヴェルも少しずつ心を開いてきつつあった。
まだ悪い仲間と完全に切れてはいないのは薄々気付いていたけれどそんなモンかと目をつぶっていた。
アタシは間違いなく愛情を注いでいたわ。かなり歪ではあったけど。自分が殺した相手の子供と暮らすなんてどうかしてるけれど。それが最善と思った。何故かはアタシにも分からない。ラヴェルもそれに応えてくれている様だった。幸いアタシはラヴェルに殺される事は無かったわ。
でもダメね。始まりの歪さをアタシは直す事が出来なかった。
ある日の事だったわ。ラヴェルは出かけると言った。それが良くない事をしようとしていると薄々気付いていたけれどアタシは止めなかった。
気をつけて。とだけ声をかけた。
彼は帰って来なかった。その1週間後彼は無言で見つかった。
つもりが一番良くないって親が言っていた気がするわ。ホントに親が言っていたのかも定かじゃないけれど。
アタシはつもりだったみたい。ラヴェルが心を開いてくれてると思いたかっただけなのかもしれない。愛情を注いでいるつもりだったのかもしれない。
どこから間違っていたかしら。最初からだったのかもしれない。現実だけがアタシの前に転がっていたわ。
やった連中に復讐も考えたけれどラヴェルはそれを望まないと思ってしなかった。
たかだか2ヶ月弱の付き合いだった。それでもアタシにはたくさんのモノが残った。
思い出って一番厄介なのよ。どうやっても超えられない。そのくせ振り払う事も出来ない。花火をした時の煙の様に自分を取り囲んでしまう。
過去を振り返るのは嫌いよ。今が見えにくくなってしまうから。
ある雨の日。アタシはまた子供と出会う機会を得た。
盗みを働いた女の子。まだ幼くて7歳だった。店主と揉めているトコロをたまたま通りすがったの。
「こんなトコにいたのか。お金払わなきゃ買えないって何回も教えたろ?妹がすいません。いくらですか?」
店主は不機嫌そうにこちらを見て言ったわ。
「ご家族の人?5ロエリだよ。困るんだよね?ちゃんと躾けてもらわないと」
「すいません。じゃあ10ロエリで。ご迷惑おかけしたので釣りはいりませんから」
買い物を済ませ女の子を連れて店を離れた。
「お前名前は?」
女の子は不思議そうな顔でこちらを見ていたわ。ただただ純粋な目で。
「名前を言わない人に名前教えるなって」
アタシは自分の名前が嫌いだったわ。親から初めてされたハズのプレゼント。その親はアタシを捨てた。何の為の名前なんだか。だから通り名としてLと毎回名乗っていたの。アタシの本当の名前。ロイド・ラヴ。
生まれ変わるチャンスを与えられたと思ったわ。ラヴェルの時に出来なかった事を。アタシは今から成すの。それがアタシの謳歌。もう過去は戻らない。振り払えないなら振り払えなくて良い。
ラヴェル。力を借りるわね。
「ラヴ・ラヴ」
「なに?」
「ラヴ・ラヴ。それが俺の名前だ」
「あたしはルーシィ。はじめましてラヴさん」
聞けばルーシィもアタシと同じ捨てられた子だったわ。なら尚更。アタシが愛を注ぐ。この子のため。いえ。この世界の救われるべき純粋な子達のために。
初めから悪い子供なんてきっといない。色々な要因で道を違えただけ。善人がなにもしないのなら偽善者のアタシが注ぐ。善人以上に。やる偽善の方が余程為になるはず。今度はつもりじゃなく。ウザがられようが煙たがられようが。アタシは注ぎ続けるわ。
そこからはルーシィに言われて見た目も話し方も怖いって事で今のファンキーな見た目と話し方にしたわ。そりゃあ苦労の連続よ。キャラにないんだもの。でも子供達が喜んでくれている。それだけで良いわ。
アタシがラヴ・ラヴであるためだもの。
そして子供達のためだもの。

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