カラスの言うとおり (全1回)



ポンと昔。昔々のこと。鹿児島県のお話しさ。谷山(たにやま)ってところと伊集院(いじゅういん)ってところの間に、それは大きな大きなお饅頭(まんじゅう)の形をした石があったんだって。もう長いこと、
「こん石ゃ、谷山ん むんじゃ」
「なにをいうか、こや伊集院の うっじゃっど」
「うんにゃ、谷山ん むんじゃ」
「いや、伊集院の方じゃ」
と、いつまでも言い合っていたんだって。なので、どっちかに決めておかないと年中けんかばかりだったのさ。そこで、
「わがたっで、決めがならんとなら、仕方がなか。山ん といにでん 決めてもらおうじゃ なかや」
「といに 決めてもろとは また いけな こつ すったろかい」
皆集まって、どんな方法にしようかと考えていたんだ。「とい」ってのは鳥のこと。鳥に決めてもらおうじゃないかって事になったんだ。
「こん石の上に、饅頭を乗せて、といが飛んで食っとを 待っちょってみれば よか。といが饅頭を持って谷山ん 方さえ行けば 谷山ん もん。伊集院の方さへ 行けば 伊集院のもんち。こちすれば どうじゃろうかい。」
「そら、よか考えじゃ。さっそっ、饅頭を作って、乗せてみようわい。」
そんな訳で鳥に決めてもらうことにしたんだよ。早速お饅頭が作ってこられて、大きな石の上に置かれたんだ。谷山の人たちは谷山の薮の中に、伊集院の人たちは伊集院の薮の中に隠れて、今か今かと鳥が来るのを待っていたんだよ。

一時ほど待っていたら、来た来た。大きなカラスが一羽、お饅頭を見つけて飛んで来たよ。
「ほら、よかもんが合えちょった」
皆、藪の中でカラスを見ていたよ。カラスは、そんなことともつゆ知らず、悠々(ゆうゆう)とお饅頭をつついてみたり、ひっくり返したりしていたよ。
「からし、饅頭をどうか谷山ん方さへ 持って行ってくれ」
「からすどん、どうか伊集院の方さへ持って行ってくれ」
皆カラスに手を合わせていたんだよ。カラスはパクっと嘴(くちばし)でお饅頭を加えるとそのままバタバタと羽を広げて、谷山の方へとすうっと飛んで行ったんだって。伊集院の人たちはそりゃあもうがっかりさ。これ以来、この石は「饅頭石」(まんじゅういん)として、谷山と伊集院との間の境目として今でも置かれているんだって。そうさ、饅頭石は谷山のものなのさ。カラスが決めてくれたからね。

さぁ、鹿児島弁、どこまで分かったかな。鹿児島の人がいたら、かっこよっく鹿児島弁のリズムで呼んでもらったら面白いよ。

最後まで読んでくれて、ありがとう。
じゃぁ、お休み、ポン!

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