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死に人に会える日金山(その2 全2回)

「お美代さん、お美代さんにもう一度会いたい」
日金山のいただきには、ゆるやかな草の丘で一望に十の国を見晴らすというので、十国峠といわれている所さ。
連なる箱根連山や、富士の見晴らしはよかったよ。
道の向こうからは、若い人、年老いた人、いく人もの人たちが通り過ぎて行く。
みな、死んでいっただれかに会いに来ているんだ。見たことのない人ばかりだった。

「やっぱりお美代さんには会えないか、、、」
若者が諦めかけていた時さ。
「あっ!!」
女の人の声に若者は顔を上げたよ。若者をのぞきこんでいた女の人はお母さんくらいの年頃で、地味な身なりだったけど、玉沢の美しいお美代さんに良く似ていたんだ。
「もし、あんたさんは、どこのお人ずらか?お年は違うが、嫁にしようと思うていた子にそっくりなんで」
と、若者は嬉しくなって近づいて行ったよ。
「まあ、あんたこそ、私の娘の婿殿に瓜二つですよ。私は、江戸日本橋で糸屋をしております。ついこの間、婿を迎えましたが急に亡くなってしまって、それ以来娘は病んだままなんです。娘が湯治のできる良い所はないかと捜しにきていたところなんですが、婿殿に生き写しのあなたに巡り会ったのも、日金のお地蔵様のお引き合わせかと思います」
若者はね、その話を聞くと、その女の人について熱海の宿屋までついていくことにしたんだ。
病人の娘は、若者が思ったとおり何から何まで亡くなったお美代さんと同じだった。お美代さんが生き返ったかと思ったくらいさ。病気の娘の方も亡くなった婿さんにそっくりだったか二人してびっくりだったよ。
山中新田の若者はまもなく元気になった娘さんと仲良くなって、江戸の糸屋に婿入りしていくことになったんだ。日金地蔵様のお引き合わせがあったんだね。

最後まで読んでくれてありがとう、ポン!

#江戸時代 #日金山

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