安珍と大蛇になった清姫 その3(全3回)
ポン! 昨日の続きじゃよ。
安珍(あんちん)は、ゆっくりと道を歩いていたんじゃよ。すると、後ろの方から、「安珍さまぁ」と細い声がする。何気なく振り返った安珍はな、そりゃぁビックリしたんじゃよ。裸足(はだし)の清姫が髪を振り乱して鬼のようなものすごい顔つきで走って来るんでな。安珍はもう恐ろしゅうなってな、慌てて走りに走って逃げ続けたんじゃよ。
走っても走っても清姫の叫び声が後ろから聞こえてくるんじゃからな。やっと日高川(ひだかがわ)のほとりまで逃げてきた安珍はは、ちょうどそこにあった渡し舟に飛び乗って川を渡ったんじゃ。そして向こう岸にあった道成寺(どうじょうじ)の石段を駆け上ってお寺に転げ込んだんじゃよ。顔色を変えて震えている安珍を見てな、お寺のお坊さんたちは、急いで釣鐘を下ろして、その中に安珍を隠してあげたんじゃよ。ちょうどすっぽり安珍は隠れる
ことができたんじゃ。
清姫はな、日高川まで走ってくると、渡し舟に飛び乗ろうとしたんじゃ。
「後から来るものは乗せないようにと言われておるもんでな。」
と船頭さんは清姫を乗せなかったじゃよ。それを聞いて、怒りに狂った清姫は、くやしさのあまり、川の向こうを睨んで(にらんで)、地団太(じだんだ)を踏んだんじゃと。
そのとたん、清姫の姿はみるみる大蛇になってなぁ。髪の毛は天に逆立ち、頭からは二本の角が生えて、その避けた口からは、ゴーっと火を噴き出したんじゃよ。着物を脱ぎ棄てた清姫はウロコに覆われた体をくねらせ、火を吹きながら日高川を泳いでいったんじゃと。清姫の大蛇はな、ものすごい顔つきで、ザンブザンブと川を渡るとな、道成寺62段の石段を口から火を吐きながら、グナリグナリと、ザラリザラリと、恐ろしい音をたてながらお寺の中へと入って行ったじゃ。
「安珍さまぁ」と大蛇の口から吐き出される火の隙間から清姫の声がするんじゃよ。大蛇はな、安珍を探してお寺の中を二回りしたんじゃ。清姫の大蛇はとうとう見つけたんじゃよ。釣鐘の下から安珍が履いていた草鞋(ぞうり)のひもが出ていたんじゃ。大蛇はズルズルと釣鐘に巻きつき、七巻半巻くとな、
「安珍さまぁ、安珍さまぁ。いとしゅういとしゅうお方、安珍さぁ、、、」
清姫の大蛇は火を吐いてな、名前を呼び続けてなぁ、尾っぽでゴンゴンと釣鐘をたたき続けていたんじゃと。長い間、そうしておったんじゃと。でな、大蛇は諦め(あきらめ)がついたもんだか、どこへともなく行ってしまったんじゃと。その後でな、お寺の者たちが釣鐘を持ち上げてみるとな、中には安珍がなぁ、骨だけになっていたんじゃと。
この話しはなぁ、今でも歌舞伎とか浄瑠璃(じょうるり)で人気の話なんじゃよ。
これで、おしまい。 ポン!
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