鯖(さば)断ち三年 その2(全2回)


お坊さんが念仏を唱え(となえ)始めると、すると、どうしたことか、荷物を背中に載せていた馬が急に、はぁはぁと息遣い荒く苦しみだしたんだ。鯖売りはびっくりしてしまったよ。
「これはこれは、お坊さま。私が悪うございました。」
鯖売りはね、そのお坊さんに鯖を全部渡して何度も謝ったんだ。お坊さんはゆっくりと鯖を受け取ると海の波打ち際の方へと歩き出したのさ。お坊さんはね、波打ち際で足を止めると、またぶつぶつと何かを唱えはじめたんだ。そして、海の中へと鯖を一匹づつ放り込んでいったんだ。売り物だから、死んでいた筈の鯖たちが海に投げ込まれると、元気よく尾っぽを振って海の向こうへと泳ぎ去って行く。鯖売りはね、びっくりしながら、それを見ていたよ。そしてね、馬も水を飲んだら、あんなに苦しんでいたのに、首をしゃんと上げて元気になっているじゃないか。不思議なお話しだよね。

このお坊さんこそ、有名は行基上人(ぎょうきしょうにん)だというのさ。なので、奈良時代はじめの頃のことなんだね。

この鯖売りはね、行基上人に帰依(きえ)すると、この海岸通りの近くにお堂を建てて仏門(ぶつもん)に入ったというのさ。帰依するとはね、すごい力を持った仏様や神様たちにすがっていくこと。頼ってお祈りしていくことをいうのさ。これが鯖大師堂(さばたいしどう)の始まりなんだって。

どうしても叶えたい願い事があった人は、このお堂に行って願い事をして、鯖を三年間食べない約束をしたんだ。これが、鯖大師堂の願掛けのお約束なんだね。それが守れたなら、願い事が叶うってわけさ。面白い願掛けもあるもんだね。

これでおしまい。
最後まで読んでくれてありがとう。
お休み、ポン!

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