源頼朝とよもぎ餅 その2(全3回)


狩野川(かのがわ)に近い原木(ばらき)に一軒の茶店がありました。茶店のおばあさんは、毎朝山でヨモギを摘んできてはヨモギ餅を作り、店に並べて売っていました。
「おばばよ、餅をくれ。」いつもの若者でした。なんでも蛭ケ小島に住んでいて二里ほど離れた三島明神に参拝に通っているのだというのです。
「さぁ、どうぞ。一休みなされまし。」
おばあさんは出来立てのヨモギ餅とお茶を勧めました。若者はヨモギ餅をおいしそうに頬張りお茶を飲みました。
「どこのお方かは存じませんが、毎朝明神様に何をお願いしておられるのじゃ」
若者はにこりとしただけで何も答えませんでした。

しばらく若者が顔を見せないと、おばあさんはヨモギ餅を持って蛭ケ小島まで行ったのです。
「おばばよ、ヨモギ餅を届けてくれたのか。ありがとうよ」
「さぁ、たくさん食べてくだされ。そして強くなって天下を取ってくだされ」
「何、天下を取れと。あははは、あはは。もし、天下を取ったらおばばにたっぷりと礼をしようぞ」
と若者はいたずらっぽく笑ったのでした。

それから、何年かが過ぎました。おばあさんは相変わらずヨモギ餅を売っていましたが、ある日、茶店に立ち寄った旅人から
「大きな戦が始まったそうな。なんでも蛭ケ小島の頼朝さまが旗揚げをされたそうな。」
と聞いたので、おばあさんは、あの若者も戦にいったのかなと懐かしく思い出し、ケガでもしなければいいなと心配していました。

なた何年か過ぎたある朝のことです。いかめしいお侍さんが馬に乗ってやってきました。
「おばばよ、早くヨモギ餅を作れ。将軍様のお召しじゃ。」
おばあさんは一向に訳が分からなかったのですが、言われるままにヨモギ餅を作って差し出しました。
「おばば、一緒に行くのじゃ」
茶店の前には立派な駕籠がありました。

今日はここまで。また明日。

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