吉祥寺サバイバル Ⅰ 誘導期(lag phase) 1-3 東アジアB国軍基地とホワイ諸島20XY年1月

 B国のメテオハンター朴可欣(前回登場)は奇妙な情報を入手した。しばらく前に調査を行ったところに存在した軍の基地が閃光とともに消滅したという。その時は内部に入れなかったが、改めて調査しようと出発した。しかし、ずいぶん手前で軍の関係者と思しき者たちが検問を張っており、近づくことすらできなかったのである。

 

ガイガーカウンター

消滅というのはどうやら本当らしい。いったい何があったのだろう。閃光という情報があったが、核ではないらしい。ガイガー・カウンターの数値は正常であるためだ。考えられる可能性は燃料気化爆弾である。事故かもしれないが、事故でない場合、意図的にそのような爆弾を使ったことになる。そうだとすると、どのようなことがあったのだろう。考えても仕方がない。済んでしまったことであり、確かめようがないからである。1週間後、この事実を隠せなくなったB国は事故だったと説明した。


ホワイ諸島

 舞台はA国ホワイ諸島に移る。ニーハウ島はもっとも西に位置する個人所有の島である。住人全員が病気になった。少し熱が出て、だるくて動けなくなったのだ。ただの風邪に違いない。大したことはなさそうなので、下熱剤を飲んで、安静にしていることにした。普通であれば、これで問題なかった。ただし、今回は違っていた。数日後、全員が死亡してしまったのだ。ほかの島でこの事態は把握されていなかった。


カニクイ猿

 さらに数日後、隣のケウアイ島でも病気が発生し、住民に広がり始めた。発熱があったが、下熱剤を飲むと症状は軽くなったので、様子を見ることにした。飼育されていたカニクイザルが似たような症状を示していたが、こちらは放置された。そのうちに、他の島々にも感染が広がっていった。死亡者もかなりの頻度で出ている模様である。ホワイ州の知事ウイリアム・ヨシムラは事態を把握するとともに、A国本土に連絡を行い解熱剤の不足を伝えた。A国から薬は届いたが、事態が収まる兆候は認められなかった。

 

ジェット気流

もちろん、ホワイ諸島の住民とA国本土は東アジアB国の軍基地の状態を全く知らなかった。後になってわかることだが、B国はある種の細菌を殲滅させるため、燃料気化爆弾を用いたのである。基地内の軍人たちを道連れにして、蔓延していた細菌の多くは死滅させることができた。ただし、残念なことに細菌は熱に耐性を持つ芽胞の状態になっていた。したがって、完全に死滅させることはできなかったのである。舞い上がった芽胞は上空のジェット気流に乗って、広範囲の北半球に拡散していった。そのごく一部がホワイ諸島に降ってきたのである。

 感染症学ではエンデミックの状態といえるだろう。限定された地域で、感染性が日常的に繰り返し発生することや恒常的に存在していることを指している
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