首相交代の機会を生かすべきだ

言論振興財団のシンポジウムでの発言原稿です

皆さんこんにちは。
私は東京新聞で社説などを担当している論説委員の五味洋治と申します。

まず、辞任を表明した安倍首相の後任を選ぶ自民党総裁選挙が、まさに告示されるというタイミングで、このような会合を開いてくださいました陳昌洙(チン・チャンス)世宗研究所日本研究センター長、言論振興財団キムチョルン理事の皆様に感謝申し上げます。コロナ19に加え、韓国内の水害被害についてお見舞い申し上げます。

最近、日韓関係を表現する時、戦後最悪とすることが多くなっていますが、実は調べて見ると、日本では1997年頃からこの表現が、時々使われるようになったそうです。

このころ1993年の河野洋平官房長官談話により一段落したかに見えた慰安婦問題が再びこじれ、日本側では戦後教育を見直し、過度な謝罪をやめ、日本の歴史を積極的に評価しようという動きが始まったころです。

しかしいったん、金大中大統領と小渕恵三首相の間で、日韓パートナーシップ宣言が出され、両国の関係は大幅に改善されました。私はこの時にソウルで特派員をしていましたから、当時の雰囲気をよく覚えています。

日本では多くの人が韓国に関心を持ち、韓流ブームも始まりました。ソウルで大統領会見に出ると、外国の記者として最初に指名されるのは日本の記者でした。

日韓関係について書かれた本を読んでいたら、この時期は「両国の関係が小春日和だった時期」と書かれていました。日本語で小春日和というのは秋から冬にかけて、たまたま、奇跡的に暖かくなった日のことをいいます。

あの当時は、南北関係も含め一気に春になると思っていたのですが、大きな勘違いでした。2005-6年ごろからは、日本で嫌韓という言葉が使われ始めます。


そして2018年にあった、徴用工問題を巡る韓国大法院の判決以降は、冬がずーっと続いている、いや寒さはいっそう厳しくなっている印象です。

原因についてはもう、分析しつくされている感があります。

冷戦の終結、韓国の民主化・経済成長、中国の経済的な台頭、日韓における政治家の世代交代も挙げられるでしょう。ジャーナリストも世代交代しました。

日韓は、それまでの垂直的な関係から、水平的な関係に変化したことで、日本側には焦りが、韓国側には日本を軽視する傾向が生まれましたと思います。

そしてなにより、日本の復権を目指す安倍晋三首相と、市民主体の政治と北朝鮮との融和を目指す文在寅大統領の個性が運命的にぶつかったことも影響したでしょう。

徴用工問題は、韓国では司法の問題であり、行政府が関与できないとしています。
日本側は1965年の日韓請求権協定で解決済みであり、国際的な約束の問題だとしており、接点が見つかりません。

すでに日本企業の財産が差し押さえられ、来年早々にも現金化されると言われています。そうなれば、日本が報復し、韓国もそれに対抗するでしょう。
世界が新型コロナウイルスとの戦いで協力しようとしているなかで、世界の人たちは、そんな日韓の姿を見て、理解できるでしょうか。

中国の急激な台頭など、日韓には協力すべき課題、共通の利益がたくさんあります。何としても全面的な衝突まで持っていくべきではないと思います。

現金化は新たな問題の出発点となります。2つの国の対立だけが拡大し、時間がかかり、望む結果は得られなくなります。全ての被害者が救済されることにつながらないでしょう。

日韓には溝がありますが、この問題で共通項もあります。まずは、現金化は避けるということでしょう。韓国政府も心の中ではこう考えているはずです。現金化されても日本企業に実質的な損害を与えない工夫もできるでしょう。接点もあります。北村滋国家安全保障局長、ソ・フン国家安全保障室長は親しい間柄と言われています。

さらに、安倍首相が8月28日に辞任を表明しました。菅義偉官房長官が次期首相になる可能性が高いとみられます。安倍首相の路線を引き継くと語っており、アバターだともかかれていますが、対韓国政策でも大きな路線変更は期待しにくいと思います。

(菅義偉官房長官)日本企業の現金化についても菅氏は、菅長官「現金化に至れば深刻な状況招く」「(合意は)1ミリも動かさない」と語ったことがあります。

しかし、菅氏は、歴史問題では安倍首相より慎重で、柔軟な立場です。

2013年12月に安倍首相が靖国神社を参拝した時には、反対したと言われています。

安倍首相の辞め方が突然だったこともあり、とりあえず次期首相は国内問題に専念したいでしょう。外交まで手が回らないはずです。

むしろ今は韓国側、青瓦台の方が動きやすいはずです。韓国の論調を見ても、韓国政府に機会を生かすよう求めている記事を見ました。文在寅大統領にもう少し方向性を見せていただきたいと思います。

構造的に、日韓関係に全面的な春は来ないのかも知れません。

しかし、管理していくことは可能でしょう。条件は整っています。日韓間で行われた世論調査では日本で四割、韓国では七割が改善に向けた努力が必要だと答えています。

一部ではすでに第3次韓流ブームが起きており、メディアが日韓関係について何を書いても、こういう文化的結びつきには関係ありません。

ところで「小春日和」という言葉にぴったりくる韓国語ではないようです。
短時間であれ、温かい関係が取り戻せたら、新たな可能性が開けるかもしれません。

今日は、その手がかりになるような論議をし、皆様のご意見を聞かせていただきます。カムサハムニダ

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