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バルビローリのマーラーを聴く

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『山崎与次兵衛アーカイブ:グスタフ・マーラー』別冊。バルビローリのマーラー作品の演奏記録についての記事をアーカイブ。
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バルビローリのマーラー:第1交響曲・ハレ管弦楽団(1957)

LPでのリリースが知られていながらCD化されていなかったものをバルビローリ協会が 復刻したもの。1957年6月11,12日にハレ管弦楽団の本拠地であるマンチェスターの 自由貿易ホールで録音され、Pye Recordsからリリースされたものである。 この曲は、マーラー演奏が「普通」になる以前でも相対的に演奏・録音の機会が多 かったのだが、今日ではかえって取り上げられる頻度が減少している感すらある。 恐らくその音楽があまりにナイーブに過ぎて、耳がすっかり肥えてしまい、 マーラー

バルビローリのマーラー:第9交響曲・トリノ・イタリア放送管弦楽団(1960.11)

既述のように、バルビローリがマーラーを取り上げるようになったのは第二次世界大戦後のことだが、最初に取り上げた交響曲が 第9交響曲(1954年2月)であったことは銘記されて良いだろう。バルビローリはある作品を取り上げるにあたって場合によっては 数年前から念入りに準備をして臨んだだけに、どのような経緯がそこにあったにせよ、第9交響曲を他の作品に先駆けて研究し、 まさに己の血肉となるまで消化したという事実は確認されて良い。そしてその第9交響曲の演奏記録のうち最も時代的に早いのが こ

バルビローリのマーラー:大地の歌・ルイス(Tn)、フェリアー(A)、ハレ管弦楽団

1952年4月2日のラジオ放送のエアチェックのCD化。放送音源のCD化ではない。また第1楽章冒頭の 7小節ばかりを欠く。「買ったばかりのテープデッキを試してみようと偶々エアチェックしたのが この放送であった」という「いわく」もあって、CDのリリース時には大変に話題になったようである。 私は歴史的な記録としての価値によりCDを収集しているわけではないので、そうした経緯から 当然の事として推測される音質への不安と、何より冒頭の欠如のため、記録以上の価値はない ものとして聴くのを

バルビローリのマーラー:第3交響曲・ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1969.3.8)

ハレ管弦楽団との演奏と同じ年の約2ヶ月前のベルリンでのライヴ。これはステレオ録音で あり、第2番、第6番のライブと音響上の印象はやや異なる。 興味深いのは、ハレ管弦楽団との録音に比べてこちらの方がテンポがゆったりとしていることだ。 それでいて全体の印象としてはハレ管との演奏の方が「ゆらぎ」が大きい印象がある。 ただしこの曲についてはベルリン・フィルの演奏でもはっきりとわかる事故は起きているし、 私の印象ではハレ管の方が少なくともバルビローリの様式の表現という点では勝っている

バルビローリのマーラー:第9交響曲・ベルリンフィルハーモニー管弦楽団(1964)

昔、この曲(それはその時分にほぼ唯一容易に入手できるバルビローリのマーラーだった。) を聴いた時の印象は、明るい、見通しの良すぎる、一面的な演奏というもので、マーラーの音楽の 持つ多様性、世界と主観との軋轢を十分に表現できていないと感じられ、ベルリン・フィルとの 有名なエピソードを聞いて期待して聴いたこともあって、ひどくがっかりしたものだった。 そしてその時のそういった印象は、決して見当はずれなわけではなく、現代のマーラー演奏なら 欠けることがないであろう、新奇な音響上の効果

バルビローリのマーラー:第6交響曲・ニュー・フィルハーモニア管弦楽団(1967, プロムスライヴ)

録音記録があることは良く知られており、正規のリリースが待望されていた1967年8月16日のロンドン、ロイヤル・アルバートホールでの 演奏をBBCが収録したライブ録音である。スタジオ録音とほぼ時期を同じくして行なわれたコンサートでの演奏だが、テンポの設定や解釈は寧ろ 前年のベルリンでのライヴに近い。勿論、オーケストラの持つ特性に応じて、相対的にはスタジオ録音により近いということはできるだろうが。 楽章順も含め、いわゆる第3版に基づく点はスタジオ録音と同じで、ラッツ校訂の協会全集

バルビローリのマーラー:第4交響曲・BBC交響楽団(1967)

BBCがリリースした、1967年のプラハでのライヴ録音。 1970年の第2交響曲とは異なって、ここではバルビローリの演奏の持つ考え抜かれた緻密さを 窺い知ることができる。第4楽章に置かれた歌曲のために前に3幅対の絵を備えたような構成を 持つこの作品は、意図的に軽く設定された管弦楽編成もあって、室内管弦楽的な書法が目立つ。 そのためもあってかフレージングや音色の重なりや交代にバルビローリの繊細な配慮を感じ させるものになっている。 この曲はその(あくまで相対的に、だが)簡素

バルビローリのマーラー:第6交響曲・ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1966)

1966年1月13日の演奏のライブ録音がCD化されたもの。モノラルであるが、既出の第2交響曲と 比較しても遥かに聴きやすく、私は気にならなかった。 この曲にはニュー・フィルハーモニア管弦楽団とのスタジオ録音があるが、それに比べて 推進力に勝った演奏だ。バルビローリは一般には粘液質の歌い方がトレードマークのように 思われているが、一方で音楽の進行については思いのほかストレートで、剛毅といってもいい ような側面を持っている。この演奏は、その後者がよく現れているというべきか。 た

バルビローリのマーラー:第9交響曲・ニューヨーク・フィルハーモニック(1962.12.8)

1936年2月にトスカニーニの後任としてニューヨーク・フィルハーモニックの常任指揮者の候補にあがったフルトヴェングラーが、 ヒンデミット事件後のナチスとの紆余曲折などの影響もあってのことであろう、ニューヨーク・フィル内部からあがった反対意見などに 嫌気して就任を断った結果、いわばピンチヒッターとして呼ばれたのがバルビローリであったが、ほんの四半世紀前にはマーラー その人が指揮をしたこのオーケストラに在任中にはバルビローリはわずかに第5交響曲のアダージェットのみしか演奏していな

バルビローリのマーラー:第1交響曲・ニューヨーク・フィルハーモニック(1959.1.10)

バルビローリの指揮した第1交響曲の演奏の記録としては、スタジオ録音の他に、1959年1月10日に「古巣」であるニューヨークフィルハーモニックに客演した際の カーネギーホールでのライブ録音が残っている。 (ニューヨークフィルハーモニックによるマーラーの歴史的演奏の記録のセット中に収められている。) バルビローリの解釈が事前に非常に緻密に練られたものであるがゆえに、これに先立つハレ管弦楽団との スタジオ録音と大きな解釈の変化はないが、ニューヨークフィルハーモニックという、マーラー

バルビローリのマーラー:第3交響曲・ハレ管弦楽団(1969.5.3)

この演奏もまた、第7交響曲の演奏と並んで大変な名演としてその存在を知られていながら ようやく最近になってBBCによりリリースされたもの。EMIがベルリン・フィルとの同曲の ライブの販売を検討したため、このハレ管弦楽団との演奏が日の目を見る機会を喪った というエピソードがリーフレットに記されている。実際にはベルリン・フィルとの 演奏もお蔵入りになり、結局はハレ管弦楽団とのこの演奏に些か遅れてCDになった ようであるが。 この曲はその異形ともいえる構成にも関わらず(もしかしたら

バルビローリのマーラー:第7交響曲・BBCノーザン交響楽団・ハレ管弦楽団(1960)

この演奏の存在は実はもう20年も前から知っていたのだが、マーラーをほとんど 聴かなくなってから、ようやくBBCのLEGENDシリーズの一部としてリリースされた ものを聴くことができるようになった。 この曲の説得力のある演奏はほとんどないように思える。特に厄介な第5楽章に ついては、意図してか、そうでないかは問わず、聴いていてうんざりするような 演奏が多い。しかもそれは合奏の精度や、音響的なバランスの良し悪しとは あまり関係がないように思われる。ましてや、交響曲全体の一貫性を

バルビローリのマーラー

ブルックナーやR・シュトラウスに比べればマーラーはバルビローリのレパートリーとして 広く認知されているが、にも関わらず私にとってバルビローリのマーラーは発見であった。 発見であった、ということは、逆に抵抗も感じたということだ。少なくとも私にとって バルビローリのマーラーはかなり特殊な演奏に属する。その印象を一言で言えば、またしても、 ではあるが、エルガーのようなマーラー、ということかも知れない。 マーラーの音楽は音がぎっしりつまっていて、しかもそれぞれが徹底的に歌うことを求