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ウクライナ情勢について思うこと

ここ連日、ウクライナの東部ハリコフ市にIT開発拠点がある会社として幾つかのメディアから取材を受けた。メディアの取材に応じている背景、業務的な影響、今後の見解、最後にウクライナへの思いをまとめてみた。

急激な展開をする現地の情勢

以下の文章は2022年2月23日に個人のfacebookに投稿した内容だ。表紙は2022年2月23日のハリコフ市内の様子だ。

ウクライナの情勢がだいぶシリアスな状態になってきた。当社はウクライナ東部ハリコフ市にITの開発拠点を置いて早10年近くが経つ。現在の現地スタッフは15名で、現地からの情報が入ってくるので、「正しく」伝えるという観点でやや整理してみた。
まずウクライナ東部ハリコフの状況は、今のところ平常。人々は日常生活を営んでいて、デモ隊も銃声も響いていない。ただ前回のオデッサ侵攻より、人によって捉え方がだいぶ異なる。実際、一部の住民の避難は進んでいる模様で、緊張感は先週より明らかに今週の方が高くなっている。
現地パートナーと話をしながら感じる所は、ウクライナ人からすると、自分達の国で、自分達が主語ではない東西冷戦の亡霊達が勝手に戦争を繰り広げようとしている。つまり自分達の戦争ではない戦争が自分達の国で行われようとしている、非常に迷惑だ、という感じだ。
この背景には、ウクライナの極めて複雑な歴史があり、ひと言では説明できないが、端的には歴史的には、ずっと歴史に翻弄されて続けている。またややこしいのは、ソビエト時代とウクライナ時代で教育が分断されていることにより、世代間の分断があり、今回みたいなことがあると、親と子の思想の違いによる言い争い、また避難に伴い家族の離散が発生している。これは極めて悲しい事態だ。
いずれにせよ現地住民からすると、東西冷戦を引っ張るのであれば他でやってくれ、俺たちの国で代理戦争を繰り広げないでくれ、そっとしておいてくれ、というのが現地の感覚だ。
今回のConflictは長引く様相を呈しているが、現地スタッフに問題がないことを切に願うのと、1日も早く現地住民が安心して生活できる状態に戻ることを願ってやまない。

上のFacebook投稿から2日経ってみて、事態は刻一刻変化をしている。
先週の段階では「特に緊迫した状態はない」と言っていた現地のパートナーが、23日の水曜日には、何もないことを祈っているがの問いかけに対して、何かはある、に変わった。

これが24日に最初の攻撃があった段階では、市街地から離れた軍事拠点ということもあり、明け方に爆発を聞いたが市内は通常通りだよと、まだ平然だったのが、25日(本日)になると明らかに緊張感は高まっていた。

メディアの取材に対応している背景

メディアの取材に応じている背景は、日本は極めて平和だが、海外と諸々ビジネスをしている当社からすれば、現在起きていることは映画の世界の話ではなく、いまここにある紛れもない「事実」を誰かが伝える必要があると思ったからだ。

またウクライナに侵攻するプーチンは信じられない、みたいな言説になるが、一方で世界はそんなに単純ではない。世界は作用と反作用のように何らかの因果によって、今回のように表面化する、フラジャイルな関係の上に成り立っている。そして今回のように各思惑とは全く関係ない市民が巻き込まれる事実を伝えたかったというのがある。

このソーシャル時代、戦争は情報統制のもと情報が流れるのではなく、Twitterの「スペース」のようにもはや戦争はリアルタイムで個人によってライブ配信される時代になった。

ソーシャルに便乗した形で文字通りフェイクニュースも多く配信され、もはや何が真実なのかが分からなくなっているので、少なくとも、当社としては現地にスタッフをもつ会社として、これを「正しく」伝えるというのが社会的に意味があると思って取材の対応をしている。

業務的な影響

取引先、株主も含めてウクライナ情勢における弊社の業務への影響について聞かれることも少ないので。これも言及すると。

結論から先にいくと限定的と言える。基本的に当社はほぼクラウドとリモート環境でワークできるように整備されているので、現地でサイバー攻撃等による情報漏洩等の問題はない。そもそもサーバーはウクライナにない。

また開発環境と本番環境は完全に切り離されているのでサイバー攻撃等の問題はないとご理解いただいていい。

次に開発状況についても、もともとコロナのロックダウンの関係もあったので完全にリモート環境が構築されているので、極論いうとインターネットが現地で遮断されない限り問題はない。

あるとすれば、今後の状況次第でウクライナの分断、ロシアへの送金等の禁止という事態になると、ウクライナ東部のハリコフはウクライナではなくロシアに併合されるという形になると、現地従業員を雇用するための給与の支払いができなくなり、現地スタッフの雇用を継続できない、というシナリオはゼロではない。

ただ、これは許し難い状態だ。現地スタッフならびに現地市民が弊害を受けているのに仕事も失い、長年の信頼関係を引き裂かれるようなことが不条理でしかない。寧ろ彼らにどういった環境であれ、仕事を作って生活資金を送るのは当社の役目ではないかと考えている。

今後の見通し

私はアントレプレナーであって軍事戦略の専門家ではない。なので今後の見通しを書くのは不適切かもしれないが、ウクライナと長年仕事をしてきた立場として記載してみる。

今後の展開としては、来週が山と思っている。軍事戦略を長期化させるのはロシアにとってもメリットがないのと、スーパー等が閉まっている現状、この状況を長引かせると市民への食糧面での問題が生じ始める。

ロシアを主語にすると現政権と西側諸国への積年の恨みはあってもロシアと関係の深い住民まで巻き込むのは望ましくない。むしろ歓迎で迎れられたいからだ。

また現実的にNATO軍も直接対決をロシア軍としたくないとなると早晩、ロシアが現政権を反覆させて傀儡政権の樹立というのがシナリオが想定される。この場合には比較的、ロシアと関係の深いハリコフで銃撃戦をやるメリットは少なく、キエフの方が危険な可能性が高い。ヤヌコビッチの際もキエフの騒動が大きく、ハリコフは安定していたのもあるが。

いずれにせよ今週末から来週前半が山場と想像している。

ウクライナへの思い

現地メンバーとの今後のプランを話をしたが、現段階で上のシナリオでいくとキエフよりハリコフの方が安全のシナリオが高い。また市の郊外で爆発音が聞こえるのを考えると市の中から外にでるのもリスクが高い。すると下手に動かないのが正解になる。

ハリコフ市にはコロナ前、出張もよくしていた。現地のオフィスは解放的で気持ちもいい。何よりも切に思うのは、現地スタッフならびに現地住民の日常生活が1日でも早く戻ることだ。彼らが主語ではない戦争が早く終結し、日々何が起きるか分からない環境での生活から解放されることだ。

2021年12月30日

1日でも早い安定を望むのと、彼らとのビジネスを継続したいと考えている。


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