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固定仕掛けのイモネジ 〜やらかしの記録 ②


「階段の手すりがぐらぐらするんですが」

という、手すり屋にあるまじきご連絡を、担当のケアマネさんからいただいた。これは廃業の危機かもしれぬ。

クレームにはスピード、客商売の鉄則

とにかく何とかせねばならぬと、ただちに現地に赴く。ただなんとなく心当たりはあった。10年近く前の施工現場だったからだ。


階段の手すりを補強板なしで試行錯誤してつけていたその頃、いちばん困ったのが、階段の傾斜が変わる部分の処理であった。
勾配が変わる以上、手すり角度も変えないと、その横に身体を置いたときの手すりの高さが徐々に変わっていってしまうので使い勝手としてよろしくない。

そこで活躍するのがフレキシブルジョイントと呼ばれる、自由に手すりの角度を変えられる部品である。

それまで使っていたその金物、デザインは良いのだが、その曲げた角度で金物を固定できないという問題があった。
だが、そこは他の金具ががっちり受け持てば、全体として保つだろうから大したことにはならなかろう、と油断したのだ。


なぜそれが緩んだのか。

直接的には金具の可動部が荷重で常に動いたこと、そこにトドメを刺したのがイモネジである。

これはまず、埋め込みの深さが出ないのだ。
さらにその位置が、手すりの動きに対して、緩むに最適の位置だったのである。

トップの画像のものがそれ。イモというより、もはや小さな甲虫のようなネジだ。ドライバーではなく、2.5mmや3mmの六角レンチで回す仕様である。
つまり、施工時にドライバーが入らず締められないところに多用される、位置決めや固定用のネジである。
現場で不用意に落とすと、跳ね落ちる軽いコンコンコンという音が、マフィア映画の一場面でも見るかのように気持ちスローに遠ざかっていき、そして1階の床を這いつくばり目を皿のようにする羽目になる、困った奴でもある。

それがどのような経過で、あわや廃業の危機を招いたのか?

説明しよう!(cv:富山敬)

まず該当のジョイント部品がこれ。

格好はいいのよね

左右計4ヶ所、穴のところにイモネジが入る。

上から見るとネジ穴なし

この形のジョイント、角度を固定できないと書いた。そして、実は階段の踊り場入隅部で使う、替えの効かない金具も同様だったのだ。

だから、踊り場の横の手すりは、真ん中あたりに受けブラケットはあるが、荷重がかかると、両端が微妙に動くことになっていた(ちなみに施工仕様は中間ブラケット2個以上確保だったはずで、メーカーさんでなく冒険したこちらが悪い)。

そのとき、横に開いている、イモネジのところの棒の角度も変わるのだ。ほんのわずかに。それが繰り返し、何年も作用すると、イモネジは弛む。その結果のクレームだった。

実は、そこの角度が金具で決まらないと、手すりを持ったときのしっかり感が足りないという課題もあり、我が社ではその問題の解決のため、そのジョイントのみ数年前から他社品に入れ替えて標準仕様としていた。

その部品がこれ。

横から角度ネジを締められる

上はこう。

ネジ穴は下側にもあるよ

特徴は二点。角度が決まる、そして通常のネジでそれぞれ上下から固定することである。イモネジさん、さようなら。


この形であれば、まず金具の遊びによる手すりのグラグラ感はかなり抑えられる。そして、手すりの動きが回転方向に作用する場所に、ネジがない。さらにイモでなく、深く打てるプラスの木ネジである。

これなら、仮に手すりが動いたり撓んでも、ネジは弛まない。


というわけで、既存の手すりを少し切って、念のため持っていった替えの部品に合わせて再装着し、我が社は廃業の危機から逃れたのだった。
ふにゃーとメゲてる場合じゃないのである。


さて、時間が経つと緩んでいく問題、常に繰り返し人が使い、荷重がかかるからこそ出た問題でもある。
その手の床の話は先に書いたが、施工直後にはわからないという点では、それと同じ面がある。



これらのトラブルは、利用状況がこちらの予測を上回ることもあり、完璧な予測も難しい。なので、我が社としては、施工完了時にお客様に、

「不測の理由で手すりが緩むことがあること」
「その場合は遠慮せず呼んで欲しいこと」
「その方が簡単な処置で対応できて有難いこと」

をお伝えし、お客様からの連絡があるとダッシュで出かけるようにしている。幸い年に1、2回程度で済んでいるが。


それにしても、人間の体重って本当に侮れないな、と思いながら、減ったと思ったらすぐ増える我儘な脇腹を摘んでみたりしつつ、今回も筆を置くのであった。

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