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移乗のケアで介助者を削る? 〜「お別れホスピタル」にみる負担と対策


現場調査の合間、コンビニで油を売っているときにちらっと読んだのが「お別れホスピタル」(週刊ピッグコミックスピリッツ連載中)という漫画の今週分。ADHD(注意欠陥多動症)当事者としても一部に知られる、沖田✖️華氏の作である。

以前はいわゆる看取り、ターミナルケアのための終末期病棟の話だったと思うのだが、いまは介護だけでなく医療的ケアが必要な方の行き先となる、療養病棟(今なら介護医療院かな)のお話となっている模様。今回の連載は自分の領域の話だったので、色々と思うところがあった。
元ネタは最近の話ではないと思うけどね、そう信じよう。


そもそも、現在の在宅介護用の特殊寝台(3モーター介護ベッド)は基本的に背上げ、脚上げだけでなく、全体の高さ調整ができるようになっている。これは利用者の体格に合わせ、ベッド高さを端座位からの立ち上がりがしやすい高さに設定できるというだけではなく、介助者が必要なときには、最も労力の少ない高さで様々なケアを行えるようにできるという、2つの側面がある。

そして、その条件は在宅でも病院でも施設でも同じはず、なのだが。


今回の漫画のお話、まずベッドまわりでのヒヤリハット、つまり転倒がなくならない、というところから話がスタートする。ちょっと工夫しても、皆さんトイレのためならそこを自主的にクリアして転ぶ、みたいな話はどうしたって出てくる。
排泄は自らのプライドを賭けて行うものだから、ちょっとくらい動きにくくても頑張ってしまう。かといって、昔のように四本柵で囲んだり縛り付けるわけにはいかない。

なので、そこの師長さんが考えたのが、ならばベッドそのものを低くしてしまえば良いのだ、という解決法だった。ちょっとマリー・アントワネットみのある発想ではある。パンがなければケーキを、みたいな。

それだと、転落する場合の高さを削れるだけでなく、端座位からの立ち上がりも、ベッド面、つまりお尻の高さが膝下長さより低くなると難しくなるので、そもそも筋力がない人は立ち上がりにくくなり、転倒リスクも減るということだろうか。

100歩譲って、そこまではまあ良い。



だがこの病院、入浴時にはベッドからスライディングシートを利用してストレッチャーに移乗していたのだが、それまでは椅子の座面高さ(42cmくらい)でスライドをやっていた。

トップの画像にあるのが、ウチで持っているスライディングシート&介助ベルトです。もう廃盤になっているけど、ロメディックのイージーグライドとフレキシベルト(こちらは後継品がパラマウントから発売中)という製品。

あの上に利用者さんにベッド上で仰臥位(仰向け)で乗ってもらい(というか乗せる、になる)、ストレッチャーを横付けして、複数介助でスライド移動すると、利用者も介助者も安楽、という用具です。

最近のスライディングシートはキャタピラー型というか、マットの上を包んでいる表面の布がクルクルとまわり、抵抗なく横移動できるのが使われている様子。


この動画がわかりやすいか。
腰に負担のない高さであれば、これを使うとかなり介助力が減らせることがご理解いただけると思う。



しかしこの漫画の病院のベッドは、残酷なことに高さ調整機能がなかったのだ。なので、師長さんのアイデアをうけて、すべてのベッドが高さ20cmカット。膝丈より低い高さになってしまったとのこと。


その結果として、このスライド介助が常に中腰となり、簡単なはずの介助をあえて困難にさせてしまった結果、看護師の腰が続々と終わっていくという修羅場が描かれていた。

その後オチは皆さん各自お読みいただきたく。まあなんとかなったのだけど、用具関係者としてはちょっとモヤる結末でした。人海戦術か~。


このお話からわかること。
病院や施設では、介護保険における福祉用具の直接給付ができないので、用具を大量に入れざるを得ない施設はコストの問題から中庸(よく言えば)な用具で済まされてしまう。その結果、えてして在宅の方が最新鋭かつ高性能の用具が使えたりする。これもそんな事例だったのではないかと思う。


なので、この転倒防止と介助の両立問題、在宅なら簡単にクリアできます。今では。

なんとこの動画の、楽匠プラスXタイプ【パラマウントベッド】、設定可能な高さが21cm~64cmまで。

さらに、もう一声いけます。

こういう工夫が絶妙ですよね

さらに最低高さを脚座の付け方で6cm減らせるとのこと。それでベッドの高さを15cmまで下げられることになりました。ほぼ布団プラスアルファです。

これなら就寝中は低く、介助やベッドメイクのときには高さを上げて対応できる。なので、介助者の健康は損なわず、夜間の転倒対策が両立できるということでございます。



でも、なんで標準仕様はわざわざ床との間に隙間をあけているの?とお思いの方もいるかもしれない。
これには立派な理由があって、床走行式リフトへ対応するためのクリアランスです。たぶん脚下への敷物をプラスしておおよそ7cmを確保する計算なのだな、と。

6.6cm!最近の床走行式リフトはここが薄くなりました。

要は、リフト利用と超低床の両立を、あの脚の向き変更のデザイン一発でやってのけているということですね。賢い。

日本の介護保険制度が始まって、もうすぐで四半世紀になる。あまり一般に知られてはいないんだけど、介護ベッドなどのいわゆるメジャーな福祉用具でも地道な改良は続いている。

なので、以前ならこぼれ落ちていたニーズに対しても、今はそれを吸い上げるデザインのものが出ている事は、多くの皆様に知っていただきたいな、と思うのであった。


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