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吾輩はフィクサーである ①


と言っても、何も和服で池の鯉に餌をやりながら政界への影響力を誇っているわけではなく、自分の仕事はフィックス、つまり固定することである、という話である。

~手すり付けの技術(浴室編)

主に手すりなどを壁にネジ止めすることが自分の仕事なのである。当たり前のことを何を突然、という話なのであるが、言い訳がましくこんなことを書くのには理由がある。自分の目線を利用者さんの高さに置いたとき、見積を作るたび端的に言ってお高く感じる。そのための言い訳が、もとい説明が足りないという気持ちになるのだ。

そもそも、ホームセンターなどで見かける手すりの材料費が割にお安いせいである。そこで見かけたものを、DIYで手すりを取り付けたりする方も多いだろう。実際によく現場で見かけるのだ、微妙にネジ頭が浮いた、最後のひと締めができてない手すりを。オール人力ではかなり無理だよね、釘打ちならともかくネジ締めは。

というわけで、提案力とか材料の選定とか、他のお高くなる要素の説明したさもあるにせよ、まずは物理で説明しやすい、固定の奥深さをアピールするしかない、というわけである。せめて我が社のお見積が自ら妥当に見えてくるくらいには頑張りたい。

取り付けに特殊技能が必要なところは、その点ご説明も気分も楽である。まずはお風呂。足元が滑る水回りのため、手すり付けの需要が大きいにも関わらず、タイル張りやら、古いユニットバスやら、どうしたものかと悩まれている利用者さんは多い。これはどうやって取り付けるかのイメージがない、ということでもある。表面が硬いか、もしくはふにゃふにゃだもんね。

古めのお風呂のタイルが相手の場合、磁気タイル用のキリで6mmの穴を開けて、プラグという部品を幾つかの種類から選んで入れて、ステンレスのネジが効くようにしてから固定する。ちなみに我が社はT○TO社の片側4ヶ所止めの浴室用製品を選ぶ。万が一、1ヶ所が完璧に止められなくても支障なく使えるからね。冗長性だいじ。もちろん、製品の耐久性もまずまずである。

ちなみにそこそこお歳を召した住まいだと、団子張りという、タイルの裏にお団子にしたモルタルを塗って、押しつけてタイルを張っているケースに出会う。
下地が適当でもタイルは綺麗に揃う、今やロストテクノロジーと化した(たぶん)職人芸である。これらはタイルの裏にお団子を押し付けきれなかった空間があったりするので、できる限り、四隅を避けて真ん中に近いところで穴を開け、ちゃんとその下の、鉄網とモルタルの下地にネジを効かせる。たまにそのハズレゾーンを引いた場合も、硬めのプラグをその奥の下地まで打ち、そこにネジを効かせる。
あと、下穴の向きも、4つが同じ角度にならないように微妙に角度を変えつつ、その角度であとでネジを締める時にドライバーが当たらないか、なども確認する。
そうすると引っ張ったときに簡単に手すりが抜けにくくなり、また仕上げの最後に手すりを傷つけたりせずに済む。ちなみにこれはどこの手すりでも意識するポイントでもある。


ユニットバスにはまた違う作戦が必要になる。なぜならあいつらの壁は建物から独立してるからだ。だいたいが床に箱を置いただけのつくりだからね。最近のやつならパネルに化粧鋼板が張ってあり、そこそこ強度もある。
その場合は、それ専用のUB用手すりを、太く短いビスたくさんで留めつけるので施工はまだ楽である(材料はお高め)。だから冷蔵庫にくっつけているようなマグネットひとつ持っていけば、簡単に手すりがつくかの判別はつく。

だがそこにも落とし穴が。ホーロー引きが売りの某TKR社製品というやつである。ホーロー壁はガラスを薄くコートしているから深みのある反射になるし、汚れにも強いし、個人的には好きである。
だが、そこに太いネジを打ち込むとメリメリと表面が割れるのだ。そしてどんどん被害が広がる。ガラスだもんね。あらかじめテープを貼ったりして、周辺への被害拡大を防ぐ、というのも限界があるし、後から被害が広がりかねないので、これにはTKR社の専用手すりを使う。
といっても、こちら最近、手すり本体はT○TO社の先ほどの製品に、例のガラスコーティングを割らない特殊ネジをつけた新型になったので、いつものUB手すりと見た目は全く同じになるのである。


磁石がつかない壁だった場合は、違う作戦が発動する。このとき活躍するのが、ネジを締めると壁の裏にナット代わりのお団子ができる特殊アンカーである。
壁が硬い場合は、補強なしでもそのアンカーを使って留めつける。問題は、壁が柔らかいやつの場合で、これは押しただけで壁がぐにゃぐにゃ動くのでそのままでは手すりどころの話ではない。

というわけで、手すりと補強板、一体成形モノの出番になる。これは、補強版と一緒に剛性が出るように作られていて、壁が頼りない場合でも補強板にむらなくネジ穴があるので、手すりの端部に荷重を集中させずに全体的に固定ができ、むしろ壁の補強になる勢いでその辺りだけしっかりさせるやつである。正直、プラスチッキーでデザインもあまりよろしくないやつだし、手すりを引っ張ると壁ごと動くし、悩ましい。

ちなみに悩んだ挙句、アルミ補強板を付けた上で、通常使うような手すりをつけることもあるが、壁がそもそもチープな素材なので見た目からして浮く。
だから、その適度に安っぽい見た目の製品(ちなみに厨子王の姉を名乗る製品名のメーカー、介護業界の方ならわかっていただけるはず)の方が、結果として施工費も安いし見た目もバランスが良い場合が多いように思う。適材適所である。


この項つづく。


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