見出し画像

吾輩はフィクサーである ②


①からの続き。

~手すり付けの技術(外部編)

さて、お風呂の手すりと同じくらい難関なのが、外部の手すりである。まず、つけたいところにほぼ壁がない。だから支柱を建てることになるが、その根元がどんなもので出来ているか、さらにその下はどうなっているかにより必要な仕様が変わる。
建築当時の図面(なお、その通りに施工されている保証はない)もしくは透視能力が必要である。でなければこちらの想像力でカバーするしかない。正直無理ゲーである。


というわけで、床面が硬い場合、我が社はその道のプロを呼び、湿式のダイヤモンドコアドリルで水をチョロチョロ出しながら削り、深さ20〜25cmくらいの穴を開け、そこにモルタルを詰めて柱を差し込み、周囲を均して固める。
だいたいにおいて下の方はコンクリート層を貫通して土が出てくるので、そこはモルタルをがっつり充填しておき、支柱を埋め込むのだ。
ちなみに、下が十分な強度のあるコンクリート床であれば、支柱に埋め込み式でなくベースプレート式を選び、アンカー固定をする方法もある。
が、あと施工の悲しさ、現場でアンカー打とうと下穴開けたら、必要な深さに至る前に土まで貫通し、材料をあらたに取り直す羽目になったりもする。

そのように、他人の施工は信じたらヤラレる、という教訓を得たのちは、だいたいどんな状況でも対応できる埋め込み式を、まずはにっこり黙って提案しているのだった。

ちなみにうちはどんなに短めの外手すりでも、支柱2本以上の仕様で提案している。それはひとえに根元がどんなだか、強度を出すのに信頼できるかわからないという前提があるからであるが、それで支柱1本の手すりに相見積で負けたりもするので切ない。でも冗長性だいじ(2回目)。


支柱を建てたいところが土だったりする場合は、フェンスブロックという四角いドーナツ状の断面の建材を基礎に利用する。
だいたい18cm角、深さ45cm、重さ20kgといった塩梅のものを、その道のプロの手により穴掘り用の複式スコップ(プロの呼称だとインディアンスコップなのだが、それで検索するとなぜかフクロウが出てくる謎)で支柱位置の地面に下穴を掘って埋め込み、ブロック穴にモルタルを詰め、柱を埋め込み固定するのだ。
フェンスブロックの周囲は土を再充填し突いて締め、その重量と合わせて支柱が動かないようにする。

だがしかし、重ねて言うが我々に透視能力はない。そして地面の中には石や土しかないと思ったら大間違いである。
いや大きい石が出てきたら関係者みんな顔が曇るくらいには辛いし、土丹という砂岩になりかけの土ですらコンクリートブレーカーが欲しくなるのではあるが、もっと困るのが人為的な設備配管である。

排水管はまだいい。マスがだいたい周辺にあるので、管の向きと深さの推定ができるから。
なお、たまにマスの上に大鉢や人工芝を置いて綺麗にお化粧している方がいるが、それは罠になりうるので頼むから教えて欲しい。


給水管は、メーターの位置から台所やトイレ風呂の位置を眺めてルートを推定する。そもそも、給水管は凍結を避けるなどの理由で、ある程度の深さに設置される建前なのではあるが(神奈川県水道局だと30cm以下)、そもそもメーターボックス横の深さが20cmくらいにならざるを得ないので当てにならない。
フェンスブロック施工の場合は穴掘り中に気付けるが、コアドリルの場合は慎重に切り粉を見ながら穴あけしても、水道管のHIVP管は黒っぽいため、管が想定外のところにあるとやらかす。やらかしました。

やらかした場合は、噴水を楽しんでいる暇はないので、速やかに元栓を閉めて設備屋さんを手配し(最近人手不足なのでそもそも地元にいないことが多い悲しみ)、お客様に平謝りしつつペットボトル1ケースなどを買ってきてお渡しし、患部の周囲30cmくらいの範囲を掘って露出させ、駆けつけた(そうあってほしい)設備屋さんが患部を切り取りそこにΩ状にエルボ4つで加工した管を曲げて接着し、埋め戻して転圧して表面を舗装し、ようやく元栓を開けて通常業務に復帰する、という仕事が発生する。まずだいたい当日中には完了しきれないのが悲しい。

他にガス管という難敵もいるが、これはそもそも水道より深めに入れるルールであるし、ポリエチレン管の上に必ずガス管危険!とアピールするためのシートが合わせて埋設されているから、いきなりはやらかしにくいはずである。
が、古い建物だといわゆる白ガス管、亜鉛メッキの鉄管なので、そこは施工中に気をつけながらやるしかない。幸い、これまで我が社はガス爆発などは起こしていない(と思う)。


また、そもそも支柱をどこに立てるかは手すり材料によっても変わる。希望のレイアウトが直線的ならまだ良いのだが、通路はえてして曲がっているし、勾配もフリーダムであったりする。
現場で曲げられる手すり棒もあるが、支柱間隔が狭くなるのが難で、こちらは欲しい形状によって材料を考え、欲しい位置と、施工性とコスパをすり合わせながら柱をレイアウトしているのである。

さらに、重要なのは手すりの高さである。あくまで支柱は黒子で、全ては使いやすい手すりのための下ごしらえなのだ。
というわけで、可能なら現物手すりを想定位置に持っていき、利用者さんに高さなどを確認していただき、それに合わせて支柱を設定する。
高さ調整ができるタイプならあと調整ができて利用者さんにもメリットがあるのだが、残念ながら相見積で負けがちになるため常用はできない。なので次はここで柱を必要な長さに切断するプロセスが発生するのである。部位ごとに。


なお、手すりをつけたい部位に、幸運なことにそこそこの高さがある壁がある場合は、そんな敵ばかりの地面と戦わずに済むのでありがたい。
と言ったところで、防水必須の条件なので、①で述べた浴室に準じた施工方法で、選んだ建材を取り付ける。ただし浴室用の手すりと違い、ネジ4つ留めのタイプはほぼないし、場合によっては長く太いやつ1本留めだったりするので、その場合は木造ならしっかり柱を捉えるように金具の位置決めをするのである。


③にまだ続くよ。


この記事が参加している募集

この記事、すごく役に立った!などのとき、頂けたら感謝です。note運営さんへのお礼、そして図書費に充てさせていただきます。