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インテリアとは、その人の【内面】であり、【精神性】である。・・・今を語る5つの美術館を観て

#マティス #TheOriginal #インサイト #エスノグラフィー#柏木博#センスメイキング#マーケティング

【はじめに】

梅雨のこの鬱陶しい毎日が続きます。
その合間には、暑い太陽が照り付けます。
そんな中、今話題になっている5つの東京近郊の美術館・・・
・マティス展(東京都美術館)
・The Original(乃木坂21_21ギャラリー)
・ワールドクラスルーム(森ビル)
・ABSTRACTION(アーティゾン)
・部屋のみる夢(ポーラ美術館・・・これだけ箱根)
を6月一気に見て周りました。

 それぞれの美術館のプレゼンテーションには、なんらか共通化する時代のみる視点など共通要因が透けてみえるのではないだろうか!と推測したからです。

窓、部屋、インテリアが語る人の心

 この時期、5つの美術館中で3つまでが、マティスの絵画を取り上げていました。
(マティスといえば、作品そのものが【窓】とも言われるほど、作品の中でも取り上げられています。)

  「The Original」は、「並外れた、独創の力」をテーマとして、コピーやパクリではなく、室内インテリア デザインと生活スタイルの関係性を19世紀から時代の変化を取り上げています。
(この「The Original」「ワールドクラスルーム」では、Z世代中心で、デザインを学んでいる人が多かったようです。日本でも私が初めてロンドンで見たデザインミュージアムのように、アートやデザインを学ぶ機会としてプレゼンテーションスペースが欲しいと思います。)

 この三年間パンデミックにより、室内にこもることが多くなり、生活様式や仕事形態が変化してきました。以前に比べて、「部屋」という閉じられた空間で、心に彩りを与え、人とリアルな対話することが大切に感じるようになったように思います。

 元来、インテリアとは英語のinteriorが語源であり、その意味は、【内面】 【精神性】のことです。部屋の中を見ることで、その人物がどんな精神性を持っているか、内面を持っているか、どういう気分で生きているかが伺いしれます。 
それを活用して、文化人類学や現象学、さらに私たちが作業しているマーケティングや経営の領域では、エスノグラフィーという観察をベースにして人物像やその背景を解読する作業をしております。  

先月6月、首都圏の5つの美術館で、それぞれの学芸員やキュレーターが、想像力を駆使し、構想した複数の企画・テーマと作品を考えてみました。きっと、リベラルアーツの視点からも役に立つのではないかと思います。

 【素材一覧】
①マティス展 東京都美術館 20年ぶりの大回顧展(2023年4月27日〜8月20日) ポンピドーセンターが中心作品

②The Original  21_21Desigh sight ギャラリー(2023年3月3日〜6月25日)

③部屋のみる夢 ポーラ美術館(箱根) ボナールからティルマンス(2023年1月28日〜7月2日)

④ABSTRACT I ON 抽象絵画の覚醒と展開 アーティゾン(2023年6月3日〜8月20日)

⑤ワールド クラスルーム 54組現代アートの展示会 国語 算数 理科 社会 森ビル(2023年4月19日〜9月24日)

特に①〜③を中心に視点の整理をしてみました。

【視点1】【窓】とは、【内面】【精神性】である。・・心の中を表現している。

【マティスは、人生の生き様を窓で表した。】
 今回のマティスの代表的【窓】を表した作品として以下の4つを見てみましょう。
①「コリウールの開かれた窓」1905年
②「コリウールのフランス窓」1914年
③「金魚鉢のある室内」1914年
④「赤の大きな室内」1948年

①「コリウールの開かれた窓」は、身体の【覚醒】

 ①と②はよく比較されて紹介されます。
 ①の「コリウールの開かれた窓」が、1905年に描かれた時には、マティスが、パリから、コリウールという地中海に面したフランスの小都市に移動しています。

あの点描で有名なポール・シニャックから学んだ色彩の鮮やかさ、差し込む陽の光、地中海の風やボート、【窓台】の美しい花、まさに自然謳歌でリズムを感じます。


→パリで、画家として売れないペンキ塗りなどど生計を立てた20代から30代前半までのマティスが、大きく変わるのは、色彩です。
人間の意識や感情は、色によって変わるもんですね。

シニャックの勧めにより、明るい小さな地中海の場で、明るい点描画を描いた36歳で希望に満ち、明るい気持ちが、【窓】を通して感じます。

窓の外と内側が、一体になる世界観であり、全体を包含する絵画です。

②「コリウールのフランス窓」には、【憤怒】

https://i2.wp.com/artmatome.com/wp-content/uploads/2016/09/matome21-1.jpg

それに、対して、②の「コリウールのフランス窓」は、それから9年後の【窓】ですが、窓の外を黒塗りにして、抽象画のようにしています。時は、第一次世界対戦の時期。
まさに、心の中の戦争への拒絶反応を示しているかのようです。

→今回、実物を近くで見たら、この真ん中の【窓】の黒は、実際に窓のベランダを描いた後で塗り潰していました。
窓の外には、色が無い、暗黒、闇、憎悪、そのもの 形と色が無い世界、人間が生きらない、光が無い、ということなんでしょうか。

やはり窓を通しての内と外の表現が、心の中と精神性を表しているようです。
(比較されるピカソのゲルニカとは異なるアプローチで、興味深いものです。)

③「金魚鉢のある室内」には、【意気地】

https://i2.wp.com/artmatome.com/wp-content/uploads/2016/09/matome20-1.jpg

・・・金魚の朱色に、マティスの己が姿を表しているようです。
③は、②と同じ時期1914年の第一次世界対戦勃発期の作品です。 
窓の外と内、自身の、内面を表現しているものはないと思います。

 作家の朝吹真理子は、この作品に対して、「開いた時に始まり、閉じた時にもその終わりは続いている」たくさんの時間が凝縮された絵画であると解読しています。(NHKEテレ日曜美術館にて2023年6月18日放映 )

→窓の外に描かれたダークなブルーの中に描かれたパリのセーヌ川や沿道を行き交う馬車と対比するかのように、室内にいる金魚鉢の中に存在する鮮やかな朱色の二匹の金魚こそは、まさに、マティス自身の生きる姿が表しているように思います。

④「赤の大きな室内」は、【生き抜く力】

1948年のこの作成は、最晩年で集大成だと言われています。今回のマティス展のマスターピースです。
十二指腸ガンで、筆で描くことができなくなって、その後切り紙絵の作品に移ってしまう直前の絵画です。

→何故、79歳のマティスは、部屋の中全体を、力強い赤で表現したのでしょうか!
 筆を自由に持つことさえできない最期の油絵は、ダイナミックで生きる力、また復活したいという意思を示すのにはあの赤だったと思います。
しかも、赤を描いている筆の動きまでが分かるほどに作品には勢いがあります。(まるで、書道で、墨の掠れのようです。構図は何回も何回も考え抜きながら、決まってからは、一気に書き上げたのではないでしょうか!)

 あの79歳になっても次に生きよう、まだやるぞという気持ちが、【赤い】大きな部屋に描かれたのではないかと考えられます。

まず、窓を【画中画】(絵の中に窓を描いて外を表現する)として、一つは、モノトーンで一つは、カラーで表現されています。
何故でしょうか。これは、時間の流れを二つの【窓】で表して描いたのでしょう。

マティスの有名な言葉ですが、「芸術家の役目は、見たものを描きとることではなく、対象がもたらした衝撃を最初の新鮮な感動と共に表現することなのだ」
 この赤で全体に塗り込んだ筆致が全てダイナミックな筆の動きが見れるところに、マティスの生きようとする魂が見れます。

【視点2】インテリアによって、インサイトを知ることが、商品開発のkey

 19世紀からの現在までのデザインと美を味わう展示であった六本木の2121デザインサイトで、「The Original」は、オリジナル・デザインの神髄を考えさせてくれる約150点が6月25日まで展示されました。
(展示品ディレクター土田貴弘、企画発案は、プロダクトデザイナー深澤直人、デザインサイトは、グラフィックデザイナー佐藤卓)

 入り口に説明されているデザインマップは、家具と道具の関係性をマッピングされていて明確に、デザインが日常を作ることの関係性が一目で分かります。    

🅰️【家具furniture】をコアにする関係性プロットと🅱️【道具Tools】をコアにする関係性プロットが、入り口に見事にマッピングされている。

🅰️【家具】を、中心に円環にプロットされているのは、
建築Architectureー建具Joineryとしてのドアハンドルー タイルーコートハンガーーシステムシェルフーベッドリネンーー収納ーキャビネットーカーペットーカーテンーインテリア小物Interior accessoriesー鏡ー花器ーバスケットーパーティションーーテーブルーコーヒーテーブルーデスクーソファーー椅子ーアームチェアーオフィスチェアーサイドチェアースツールーフォルデイングチェアーハンギングチェアーアウトドアチェア
↕️
🅱️【道具】を中心にして円滑にプロットされているのは、
【食品】としてー栄養調整食品ー【食器】tablewareティポットーカトラリーーコーヒーメーカーー調味料入れーキッチンツールーペッパーミルーボウルー皿ーゴミ出しーキッチンスポンジー鍋ー湿温度計-日用品ーバスアメニティーカレンダーー筆記具ー付箋ー電卓ー時計ー携帯電話-玩具ー積み木ーハサミーブロック(LEGO)-デジタル機器ー電気機器ー一般家電ーパソコンースマホーカメラーオーディオ機器-乗り物ー自転車ー車椅子ー自動二輪車ー電動自転車

(参照)マティスの緻密なインテリア時間・空間表現法①
前述のマティスの窓で論じた中で、他作品では、【グールゴー男爵の夫人の肖像】1924年の中で描かれた、室内のテーブルクロス、鏡、花瓶、書物、椅子の表現、全体を貫いているイメージが、関係性が分かる一枚になっています。

https://m.media-amazon.com/images/I/61datzeawfL._AC_SL1200_.jpg

 この絵のグールゴー男爵夫人の背後が鏡で見えます。その前に黄色の極めて平面的なモジリアーニ風の頭の女性(後姿)は、過去の若きグールゴ男爵夫人を描いたとも言われています。
この絵には、右下から左上に向かって、時間と空間の両方を推移されているように見えます。

【まとめとして】

冒頭の「インテリアとは、内面であり、精神性である」

 この言葉は、2年前にお亡くなりになった武蔵野美術大学名誉教授の柏木博先生に、教わった言葉であります。


先生には、「家政学的な見地からからの考察」というテーマで、アメリカの19世紀前半の作家エドガー・アラン・ポーの「家具の哲学」の紹介からお話しいただきました。
 探偵小説は、特に密室殺人事件は、そこの室内に残されたものを読み込んで、ある犯人像を浮かび上がらせるそうです。

【室内を見ていく、観察していく】

これは、シャーロックホームズの緋色の研究にも受け継がれていきます。「家具の哲学」では、インテリアが1番いいのはイギリスだそうです。(因みに、アランポーによると、イタリアとフランスは遊び過ぎたそうです。)

 この考えをエスノグラフィー(民族誌学)としてマーケティングリサーチに、私達は活用しています。
 従来のマスサーベイやグループインタビュー、ディプスインタビューとは全く異なり、アブダクション(仮説生成)が、まず対象者の室内を観察するということから始められます。

→対象者の室内・インテリアを観察しながらそれをベースにヒアリングします。
例えば、どんなに幸せな家族であると言葉でいっても、
・キッチンから見える風景で、家族を大切にいるとか
・ソファのポジションやら、窓のカーテンとのカラー、素材などバランスで、家族との対話を大事にされているかが、推測されていきます。

 観察から仮説を設定したて、対象者を描きながら、様々なヒアリングを重ねることが大切です。

◎従来までのリサーチでは、どちらかというと、対象者に聞きたいことだけを、司会者が聞いて、すぐに回答を求めてしまうケースが多くあります。 対象者は、それに対して、表層でかつ上部の回答をすることになります。

→聞きたいことだけ聞くリサーチは、確認することで終わってしまい、殆ど新しい発見がないことが多くなってしまいます。

今回のマティスは、立体を平面で表現する工夫を相当重ねた実験をしたことが、今回東京都美術館の展示会で分かりました。

マティスだけでなく、5つの美術館で感じたのは、見えるものから内面や精神性を感知することで、本当に欲するものを目に見えない、暗黙知領域ニーズやさらにウォンツを探索する作業にも見えます。

 これによって潜在意識やインサイトを探索することができるようになるのではないでしょうか。 

PDCAを効率よく回す従来型カイゼン志向のアプローチでは、Pのプランの作成した以上の新しい発見はなく、イノベーションが生じなくなっています。

 観察することは、考えるより前に、直観によって新しい情報や知が得られます。従来までの考え方を一度カッコに入れて白紙にして、全身全霊で共に体感するところから始める作業です。
(現象学の創始者フッサールの言葉です)

 一橋大学野中郁次郎名誉教授のことあるたびにご指摘いただいている、現在日本企業にある企業の活力を失ってしまった原因である
①分析過多
②計画過多
③コンプライアンス過多
を脱するためには、今回の美術館での展示で観て感じた、内面や精神性を解読する力、インサイトを見抜くチカラが必要です。

その為に、
主観力をつける(自分ゴトで考える)、感性を豊かにする、(システム全体を見渡そうとする)想像力をつける事がこそが突破口になるのではないでしょうか!

最後までお読みいただき,ありがとうございました。