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VOL.14寄稿者&作品紹介34 美馬亜貴子さん

初寄稿の第6号以来、つねに憑依型というか、「物語に必要な人物に成り切り」スタイルというか、つまり私小説的な主人公を登場させることなく作品をご寄稿くださっている美馬亜貴子さん。なにしろ最初に受け取った〈ワカコさんの窓〉が還暦を迎えた独身女性のお話だったし...私はお原稿を拝読しながら、つい「美馬さん探し」をしちゃったりもするのですが、これまでだと第11号に掲載された〈コレクティヴ・メランコリー〉の“中島美音子”に、ちょっと片鱗が見えたかな。それはともかく、第14号掲載の〈拈華微笑 ~Nengemisho~〉は、失語症気味で“孤独な独身中年男性”の「僕」と、“ネパールから来た技能実習生のぐるん君”との交流をメインに描いた作品です。「僕」曰く“そこには〝育児〞と〝介護〞くらい違う、本質的な誤謬がある”という、「どっちが早く日本語を喋れるようになるか競争」を勤務先のコンビニエンス・ストアでやることになっちゃって、という、なかなかエキセントリックな座組でのストーリー。作中では「僕」が学習塾講師であることがさらりと記されていて、なるほど「僕」の言葉へのこだわりからして、きっと国語の先生だな、と想像できたりもします。



会話を重ねているうちに、お互いのことがわかってくる。そして、結果として当初の競争の目的も達成されていく。こんな競争に意味はないよ、と当初考えていた「僕」が、“意味なんてどうでもいい”と心変わりしていく過程がおもしろいです。そして作中では黒幕的な存在である、「僕」の中高時代の同級生にして店の経営者「ユウジ」。この人がなかなかの切れ者で、「僕」のことをよく理解しつつ、(やや荒っぽいけど)ちゃんと心配していたんだなと感じさせます。


...しかし、最近のニュースに接していると、本作の「ぐるん君」のように日本にやってくる人なんて、いずれいなくなってしまうんじゃないか...むしろ日本の若者が「よりよい条件」を求めて近隣の国へ出かけていくことが増えたりするんじゃないか、なんて思えて、なんっちゅうか本中華(←古!)。それはともかく、本作ではエンディングの「僕」と「ぐるん君」の関係の変化に心温まります。みなさまぜひ、小誌を手に取って、2人の競争の結末をお楽しみください。


ウィッチンケア第14号(Witchenkare VOL.14)発行日:2024年4月1日
出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりー/発行人の屋号)
A5 判:248ページ/定価(本体1,800円+税)
ISBN::978-4-86538-161-0  C0095 ¥1800E 


 お互いに必死だし、レベルも同じくらいなのでちょうどいい│最初のうちはそう思っていた。しかしぐるん君は日々のお客さんとのふれあいの中で、めきめきと日本語を上達させていったのだ。元々コンビニ業務に関係のある言葉はネパールで習得していたというものの、客に「封書の切手ください」と言われて即座に「84円ですね。貼っていきますか?」と返していたのには驚いた。ある日などは新発売のカレーをめぐって客と話をしているところに出くわしたのだが、辛いのが苦手だという客に、ぐるん君は「カレーは辛くないとおいしくないでしょう」と、二重否定を駆使して話すまでに成長していたのである。すごい。しかしこれはまずい。僕は「このままでは負けてしまう」と焦った。

 
~ウィッチンケア第14号掲載〈拈華微笑 ~Nengemisho~〉より引用~


美馬亜貴子さん小誌バックナンバー掲載作品:〈ワカコさんの窓〉(第5号)/〈二十一世紀鋼鉄の女〉(第6号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈MとNの間〉(第7号)/〈ダーティー・ハリー・シンドローム〉(第8号)/〈パッション・マニアックス〉(第9号)/〈表顕のプリズナー〉(第10号)/〈コレクティヴ・メランコリー〉((第11号)/〈きょうのおしごと〉(第12号)/〈スウィート・ビター・キャンディ〉(第13号)

 

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