VOL.12寄稿者&作品紹介27 山本莉会さん
山本莉会さんとは宮崎智之さんのご紹介で知り合い、今号への寄稿をお願いしました。ライターとして数多くの記事を手掛けてきた山本さん。2010年代のものを拝読すると、恋愛や人間関係などの分野で依頼されることが多かったようで(...それにしても、ネット時代のライターさんの記事はアクセスしやすくてちょっと羨ましい。私が雑誌やフリーペーパーに書いたものなんて、もはや誰にも読まれないものがほとんどだし)、いくつか読んでいくうちに、気がつくと山本さんワールドに引き込まれていたのです。慎ましい感じなのに、ときどき赤裸々...ご自身のTwitterに固定している「本を読む、川を見る。一人だけの暮らしですこしずつ自分を取り戻した話【大阪・北堀江】」に記された独身時代の焦燥感とか、サラリとした文章でけっこう激しいことを。あと、インタビュー系の記事だとふいに「素」が覗けるような場面もあって、スイマセン、佛教大学民俗学教授・八木透さんを取材した記事(「盆踊りが婚活パーティ 民俗学からみる日本の結婚文化」)、「えっ......。」の箇所がツボにはまって思わず笑ってしまった。でっ、そんな山本さんはかねてから創作系作品似も興味があると伺い、それではぜひ小誌を発表の場に、と話がまとまったのでありました。
届いた作品は、なんとタイムスリップもの。芥川龍之介と彼の無二の親友・小穴隆一が現世で偶然再会して東京見物するという、洒落た設定。2人がむかしの言葉(旧仮名遣い)で会話していて、新宿での伊勢丹をめぐる両者のやりとりなどは仮想リアル感(!?)が伝わってきます。小学校に忍び込んだくだりもおもしろくて、これはうまく説明できないので、引用文でじっくりお楽しみください!
物語の中盤になると、新たなタイムスリッパーが登場します(時が流れて芥川と小穴のセレブ度に差がついちゃったこと...小穴さんちょっと気の毒)。この人物、どうやら私と同年代のようで、そうか〜、筆者の世代が“オレたち”をイメージするとこんな感じに描かれるんだな、と感慨深いものが。じつは↑でボヤいた「書いたもの」って、この人の消費行動を煽るためのタイアップ広告記事だったりもするから、なかなか気恥ずかしい。物語はさらに続き...この先はぜひ小誌を手に取ってお確かめください。
授業では、心情の変化がテーマとなっているらしく、下人の行動に賛同できるか、という質問の返答に窮している生徒がいた。物語に賛成も反対もないだろうという生徒の憮然とした気持ちが、龍之介にはよく分かった。教師は授業の終わりに「芥川が残した『ぼんやりとした不安』という言葉は、その後突入してゆく戦争の時代を憂いたものだったのです」と発言した。膝から崩れ落ちそうになった。「君は随分高尚な人間だつたのだね」と笑う小穴の隣で、自分は死してから教育的道具になつたのだなぁと思った。給食の時間が近いのか、廊下からは鰹出汁の匂いがした。
〜ウィッチンケア第12号〈ゴーバックアゲイン龍之介〉(P154〜P158)より引用〜
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