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シューベルト「死と乙女」2チェロ弦楽五重奏版の聴きどころ

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フランツ・シューベルト 弦楽四重奏14番
「死と乙女」弦楽五重奏版
Franz Schubert No-14 in D minor
"Death and the Maiden"Unamas Strings Quintetの聴きどころ


1. 立体音場(9.1chハイトサラウンド/5.0chサラウンド/HPL9)において圧倒的な音響バランスを持つ新生弦楽五重奏2ヴァイオリン+2チェロ+コントラバス

 最初この編成(2ヴァイオリン+2チェロ+コントラバス)の案がきたときは流石にに「ぎょっと」しましたが、観念や慣習はおいといて、とりあえず音に出してから考えてみるというのが僕の信条ですので、

早速 [通常の弦楽5重奏 : 2ヴァイオリン+ヴィオラ+チェロ+コントラバス]と[新生弦楽五重奏 : 2ヴァイオリン+2チェロ+コントラバス]でDAWによるサラウンドシミュレーションをしてみました。

通常編成と比較したところ、全体のサラウンド音場のバランス(楽器同士の音色、音圧、響き)やリアスピーカーに配置された2つのチェロの音色や音圧・響きのバランスが圧倒的に良かったので、この編成で行こうと即、決まりました。

5.0chサラウンドバージョンや後日配信されるHPL9ヴァージョンを聴けばわかりますが、立体音場(サラウンド・HPL9)において、この編成は圧倒的に音響バランスが良いです。

さらに通常、音域の隣り合った楽器は演奏者同士が音を聴き合って演奏を合わせるため近くに配置されるのが慣例ですが安定した音場をつくるため変更しています。

一つ気がかりだったのがコンピューターで容易に演奏できるものを、果たして生身の人間が演奏できるのかということでしたが(ヴィオラの音域はチェロの丁度1オクターブ上!)。

人間では演奏不可能な複雑なリズム構造を実現させるために自動ピアノのために作曲した「コンロン・ナンカロウ」(1912~1997)という作曲家の曲を現在のピアニストが弾けてしまうということを聞いたことがあり、今の演奏者の技術レベルをもってすれば、問題無いだろうという結論に至りました。

DAWによるシミュレーションは人間が演奏することをシミュレーションするものだけど?それを逆さにすると、、

「機械に容易に再生が出来るものを人間がシミュレーションするとどうなるか?」という三輪眞弘さんの「逆シミュレーション」のアイディアもお借りしました。

そうすると耳、目と手などの身体感覚や、頭にこびりついた慣習から解き放たれて考えもつかなかった新しいものができる。

伝統と慣習は常に更新されて改善されていくべきもので、思考停止やルーチンワークの言い訳にしてはいけないですね。


結果として尋常ならざる現在の演奏者の技術向上と柔軟性を目前に見ることが出来ました、特殊な配置にもかかわらずです。ヴィオラパートを弾いた第1チェロ奏者の伊東 裕 君は音域を変更せず弾ききってしまいました。

2.ヴィオラの音域は古楽の時代において膝に抱えて演奏するヴィオラ・ダ・ガンバが弾いていた

 またヴィオラの音域は16世紀から18世紀の古楽の時代においてチェロのように膝に抱えて演奏するヴィオラ・ダ・ガンバが担っていたので、ほんの少し見た目が「先祖帰り」しても良いかなというイメージもありました。

3.シューベルトらしい長い繰り返しを持つ形式感を正確に再現する為、リピートありの録音

 シューベルトは弦楽四重奏曲に限らずピアノソナタや他の編成でも、それが独自の表現と言えるほどリピートに特徴があります。

演奏時間やレコード等の収録時間の都合か、はたまた ベートーヴェンのような構築された形式を絶対とする観念の影響か、カットされることの多い繰り返し部分をあえて収録しています。

ロベルト・シューマンが天国的な(すばらしい)長さとも表現したシューベルトらしさが存分に堪能できると思います。

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アルバム情報

第23回日本プロ音楽録音賞 優秀賞受賞 “Death and the Maiden” 「死と乙女」

e-onkyo / moraよりDSD11.2MHzフォーマットで7アルバム配信中

アレンジを担当したアルバムが、中国ソニーセレクトにて2018年下半期・2019年上半期ベストアルバムに多数ランクイン

アレンジを担当したUNAMASクラシックシリーズ・ドイツHIGHRESAUDIOよりグローバル配信中

4.スコアに忠実って?演奏の創造性

 言い回しとしてよく「スコアに忠実」とありますが、スコアに明確に書かれているのは「音の長さ」「音程」「音の強さ」の3つの各々の平均値だけなんです。

 平均値ですので演奏者によって細かい音程の取り方も音の強弱も長さも変わります。楽器名と奏法の指定はありますが、誰も作曲当時の楽器の音を聴いていないし、当時の演奏者の技術の程度も正確にはわかりません。

多くのクラシック音楽は現在の音楽家がスコアと残された文献を通じて、慣習と自分の音楽経験と音楽性に従い解釈および想像しているもので、よって何が正しいかなんて誰も断言できません。

楽曲の解釈は自由で、非常に創造的なものなんです。「答えの無い問い」とも言えます。

もし仮に「正解」があるとすれば、世界中でこの先長い年月を通して多くの聴き手が良いと思い、今後受け入れられていくものが「正解」なんでしょう。

飛躍的に向上した現在の演奏者の技術をシューベルトが見たら何を思い、どういう曲を書くのでしょうか?

僕自身シューベルトと同世代の作曲家であるので親近感を持ちつつ、経済的困窮の中、インクと紙の節約か忙しい時間の中で書かれた省略型音符の多いスコアを見て想像しながら、彼のアシスタントとしてアレンジを致しました。

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【HPL9】Franz Schubert No-14 in D minor

 Death and the Maiden

アルバムのジャケット画像やタイトルをクリックすると、詳しい概要が掲載されている詳細ページ「ハイレゾ音源配信サイト【e-onkyo music】」へリンクします。

【HPL9】バージョンはヘッドホンでも、9.1chハイトサラウンドが聴けますのでお勧めしています。

試聴会での写真

演奏者たちと

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この文章は作曲家 土屋洋一のofficial blog 2016年の記事より加筆修正され転載されたものです。

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