NBAの“イケおじ”たちを紹介するぜ

NBAが開幕した。これからNBAを見始める人にとって、もちろん見ていて楽しいのはスーパースター達のスケールのでかいプレイだろう。

しかし、あらゆるチームスポーツがそうであるように、スターだけではチームは成り立たない。黙々と自分の役割をこなす「ロールプレイヤー」たちの仕事に注目してみるのも、NBAの楽しみ方のひとつである。

今回は職人気質のロールプレイヤーのなかでも、味のあるベテランたちを紹介しよう。

P.J.タッカー/マイアミ・ヒート

いまNBAでもっともアツいイケおじといえば、やはり「タカおじ」だろう。昨シーズンのバックスの優勝は、彼の貢献抜きには語れない。

最大の強みはそのディフェンス力である。34歳とは思えぬフットワークと当たりの強さで、名だたるエース達にスッポンのごとく張り付いていく。昨季のイースト決勝で、現役最強スコアラーであるKDを苦しめたことは記憶に新しい。

ペリメーターからポストまで守れる守備範囲も魅力だが、オフェンス面でも渋い働きを見せてくれる。基本的に、エース達のボールムーブを邪魔せず、コーナーのスリーポイントラインで虎視眈々と機を窺う。スクリーンを積極的にかけながら、ハンドラーの動きに合わせて隙間隙間で点を取る。

今シーズンは、エネルギッシュな若さ溢れるヒートに移籍した。チームのために献身を惜しまないヒートのカルチャーはタカおじにぴったりである。アデバヨやジミー、ヒーローらが躍動するなか、タカおじの渋い貢献っぷりに注目したい。

アンドレ・イグダーラ/ゴールデンステート・ウォーリアーズ

言わずとしれたイグおじである。歴史に残る名ロールプレイヤーだ。なんといっても、2015年のNBAファイナルで、エースのカリーからFMVPの座を奪ってしまったのだから。相手のレブロンを抑えたことが選出の大きな要因であり、平均16点でのFMVPというのは、おそらく歴代でもっとも低い数字だろう。脇役としてあまりに優れた活躍を見せてしまったために、主役の座を意図せず奪ってしまったのだ。

もともとは抜群の瞬発力とバネを活かしたディフェンス力が注目されていたが、彼の本質はユーティリティの高さにあった。エースストッパーでありながら、オフェンスの潤滑油としてパスの中継点になったり、素早いカットでパスの受け手になったりと、直接点は取らずともボールムーブを活発にしてくれるのである。

現在37歳であり、ここ数年はさすがに衰えを見せていたのだが、今季からウォーリアーズに戻って復活の兆しを見せている。クレイ・トンプソンが復帰することもあり、「歴代最高勝率」を記録した頃のウォーリアーズが再び見られるかもしれない。

ダニー・グリーン/フィラデルフィア・セブンティシクサーズ

ロールプレイヤーの典型的なスタイルは、「3&D」と呼ばれるものであり、「ディフェンスでエースを止めながら、オフェンスでは邪魔にならない位置でパスを待ち、スリーポイントを沈める」という形がよく見られる。個人技に優れ、主張の強いプレイヤー達と共存するうえで、「邪魔せず確実に貢献」できるプレイヤーは需要が高い。

先のタカおじも3&Dに近いプレイヤーであるが、しかしもっともクラシックな3&Dといえばダニおじである。なにしろ、スリー以外のオフェンスがポンコツなのだから。

たまに思い出したようにゴールに切れ込み、謎のフローターショットを外す姿に、彼の所属するチームのファンは何度も頭を抱えたことだろう。スリー以外のことをやらせると、大抵うまくいかないのである。

しかも、そのスリーも安定感がない。「ガチャ」なのである。ベテランといえば安定感だが、ダニおじのスリーは当てにならない。かと思うと、突然確変を起こして無限にスリーを沈め続けたりする。ヤバい奴である。

それでも彼が3&Dとして、3つの優勝リングを手にしているのは、ひとえにそのディフェンス力の高さにある。とくに素早いガードに対するディフェンスと、ボールに手を出すタイミング、速攻への対応のうまさは歴代でも指折りのレベルである。

必ずチームに貢献するディフェンス力。かぐわしいポンコツオフェンスと、稀にくる確変。なんとも愛くるしいイケおじなのである。

ジャベール・マギー/フェニックス・サンズ

最後はNBAきっての愛されキャラ、マギーを紹介しておこう。マギーさえ知っておけば、NBAオタ達の「内輪ノリ」にも8割方ついていけるようになる。

ロールプレイヤーの基本は、エース格の選手のプレイを邪魔せず、補助することである。おのずと「状況判断の適切さ」すなわち「バスケットボールIQ」が求められるわけであるが、マギーは長らく「もっともバスケIQの低いプレイヤー」として認知されていた。野球で言う「珍プレー」の常連だったのである。

213㎝の長身と、ひときわ長い手足、ダイナミックな動きによって展開されるお笑いプレーの数々は、一瞬にして見る者を虜にしてきた。とはいえ悪い意味での「想定外」を連発するマギーは、数々のチームから恵まれた体格と身体能力に期待されては見放され、完全に「ネタキャラ」としての位置を占めてしまっていた。

風向きが変わったのは、30を目前にウォーリアーズに移籍してからのことである。ヘッドコーチのスティーブ・カーによって、役割を「リバウンド」と「ブロック」に明確に制限され、忠実にそれを遂行するようになった。ベンチから登場し、わずかな時間ながら「ゴール下の番人」として見せ場をつくるようになったのである。

結果として、マギーは控えセンターとして3度の優勝を経験している。今季はレイカーズからサンズに移籍。昨季惜しくもファイナルで敗れ去ったサンズにおいて、4つ目のリング獲得を目指す。イケおじ界のスーパースター、クリス・ポールからの超絶アシストを、ゴールに叩き込むマギーの姿が何度も見られるはずである。

今回は4人のみ紹介する形になったが、NBAにはまだまだ多くのイケおじや、優れたロールプレイヤーたちがいる。スターたちの陰で献身的にチームを支える彼らの姿は、天才だらけのNBAのなかで、鈍くも力強い輝きを放つっているのである。


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