どうせスポーツを見るなら選手のトップフォームが見たい

プロスポーツにおいて選手が評価される際、彼らが抱えている「ケガ」はあまり考慮されない傾向にある。もちろん、ケガが多く試合を欠場しがちな選手は「スペランカー」などと呼ばれ、酷いときには「プロリハビラー」などという蔑称を与えられてしまうこともある。しかし、ケガを押して出場している選手については、ケガによるパフォーマンスダウンは考慮の外に置かれがちだ。

人体の限界に近い動きを日々繰り返しているプロスポーツ選手は、多かれ少なかれ慢性的なケガを抱えている。生来のケガへの耐性や、自己管理の方法によってそれが顕在化する頻度は異なるけれども、彼らはつねに「トップフォーム」にあるのではない。

NBAにおいて、長らくトップフォームに近い状態を維持している選手の代表はやはりレブロンである。年間億単位の金をボディメンテナンスにつぎ込み、19シーズン目を迎える今なおリーグのトッププレイヤーであり続けている。圧倒的なパフォーマンスはもちろんのこと、それを安定して継続している点にレブロンの恐ろしさがある。

一方、ケガに悩まされ、トップフォームが稀にしか見られない選手も多い。とりわけ「いい時」と「悪い時」の状態が顕著であるほど、選手への評価は乱高下し、ファンはやきもきすることになる。

現在のNBAで、「トップフォームならリーグ最高峰のプレイヤーなのに……」と思わせる選手としては、アンソニー・デイビスとジミー・バトラーが思いつく。二人ともケガが多く、なかなかベストな状態を目にすることができないが、いざトップフォームに入れば攻守にわたって試合を支配できるレベルの選手である。

2020年のファイナルは、この二人がトップフォームで激突した貴重なシリーズだった。コロナでレギュラーシーズンが一時中断したこともあってか、万全のコンディションを整えることに成功したのである。

とりわけ顕著だったのがジミーのキレキレ具合である。数字で見ても、そのシーズンのスタッツに比べ、ファイナルのスタッツは飛躍的に向上している。シーズンにおいては平均19.9点、6.7リバウンド、6.0アシスト、1.8スティール。ファイナルにおいては、平均26.2点、8.3リバウンド、9.8アシスト、2.2スティール。ディフェンスも厳しくなるなか、シュート成功率も5%以上向上している。確変のような数字である。

ファイナルで敗退したものの、このシリーズを通してジミーの評価は爆上がりした。「ディフェンスに優れるウイングのエース」という立ち位置から、カワイ・レナードやポール・ジョージと比較されることが多く、彼らの陰に隠れることの多かったジミーだが、ファイナルを通じて「あれ?ジョージより全然上じゃね?ワンチャン、カワイとトントンじゃね?」みたいな声も聞かれるようになった。

しかし昨シーズン、ファイナルの最中に負ったケガが癒えない状態で開幕を迎えたジミーのプレーは精彩を欠き、評価は元通りになってしまう。プレイオフでは平均14.5点しか残せず、1回戦敗退。ジョージが獅子奮迅の活躍を見せていたこともあり、「やっぱジョージ>ジミーだわ」と評価が逆転してしまう。

ちなみに、ESPNが毎年シーズン開幕前に発表するプレイヤーランキングの変遷を見ると、ジミーはファイナル進出前の21位から、進出後に12位に上り、昨シーズン終了後に16位になっている。ジョージは10位→20位→12位と移行しており、キレイに逆転を繰り返していることがわかる。ちなみにジョージが1度20位にガクッと順位を下げたのは、コロナ禍によりバブル環境で開催されたプレーオフに適応できず、メンタル不調によりスランプに陥ってしまったからである。

ともあれジミーである。トップフォームのジミーは本当に見ていて楽しい。予想の鋭さとボールへの執着心が、俊敏な動きとなって現れる。以下はバブルで迎えたプレイオフにおいて、ジミーが見せた秀逸なディフェンスの数々である。

ディフェンスだけ見ていて楽しい選手というのはなかなかいない。とくに得点面でも多くを求められるエースプレイヤーにおいてはなおさらである。ジミーの攻撃的なディフェンスをもっと見ていたい。

今シーズンでジミーは32歳になる。トップフォームの彼を目にできる機会はもうそう多くないのかもしれない。しかし今シーズンのヒートはいい感じである。アデバヨやヒーローといったエネルギッシュな若手達に、優勝経験のあるラウリーやタッカーが加わった。ロスターバランスはファイナルに進出したシーズンよりもよくなっているように見える。何より、献身的で勝利に貪欲な選手が揃っているのがヒートの魅力である。見ていて鼓舞されるのだ。ジミーの燃えるような輝きに期待したい。

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