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涸れ川で釣る

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孤独な老人を騙し、搾取を繰り返す組織。 その一員である「ぼく」は、ある老人への傾倒から組織を抜け出し、老人のヘルパーと三人での奇妙な生活をはじめる。 痴呆のはじまった老人に対し、… もっと読む
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記事一覧

涸れ川で釣る #1

見知らぬ他人の名前が整然と並び、頭のふたつみっつは何かしらぼくのうちに繋がりうるものを探…

鹿間羊市
3年前
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涸れ川で釣る #2

シャトルバスの時間が近づき、寮を出て敷地内の乗り場に向かう。 そこだけ作りの立派な、事務…

鹿間羊市
3年前
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涸れ川で釣る #3

湾岸から環状七号線をしばらく北上するまで、トラックの流れに身を隠すようにしてぼくらのハイ…

鹿間羊市
3年前
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涸れ川で釣る #4

五回の訪問ののち、ぼくはその老婆を集会に連れていくことに成功した。 家は以前よりだいぶ片…

鹿間羊市
3年前
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涸れ川で釣る #5

タブレットの画面に、新着メッセージの通知がある。開くと、事務局から「新たな段階への研修の…

鹿間羊市
3年前
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涸れ川で釣る #6

〈ステージ2〉の業務へと向かう車の座席はすべて埋まっていて、その中には昨日の研修にいた者…

鹿間羊市
3年前
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涸れ川で釣る #7

十時まではまだ二十分ほどあったけれども、ぼくはもう業務に取りかかることにした。 布団をめくると、両脚が裏返した昆虫を思わせる形になっていた。痩せ細った体躯は、皮膚の落ち込んだ弛みとシワ以外に一切の内容物を含んでいないように見える。 軽々しい肉体はかえってぼくの精神の重みとなった。その貧相な体すら、この脚は支えることができない。人間の脚は、このように貧弱であってはならないはずだ……なぜ、こんな状態になってまで…… 生き恥に対する鈍感さに対しての嫌悪感、あるいはぼく自身が同

涸れ川で釣る #8

ぼくは帰りのバスのなかですぐ、〈ステージ2〉の業務から外れる希望を申告した。 ぼくの現実…

鹿間羊市
3年前
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涸れ川で釣る #9

環七と国道一号が交わるあたりでハイエースは路地に入り、何度か右左折を繰り返して停車した。…

鹿間羊市
3年前
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涸れ川で釣る #10

老人とその伴侶との物語を聞くぼくのうちには、「ありふれた話」に毒づく心のはたらきがある一…

鹿間羊市
3年前
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涸れ川で釣る #11

ぼくはその老人の家に、だいたい週に一度のペースで通うようになった。彼の妻の話を差し置いて…

鹿間羊市
3年前
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涸れ川で釣る #12

老人の部屋に身体が馴染んでいくにつれ、ひとつひとつの事物に目が行くようになった。 古いも…

鹿間羊市
3年前
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涸れ川で釣る #13

三日後のバスの中には、その業者と思われる作業服の男が座っていた。これまでにもその男を、リ…

鹿間羊市
3年前
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涸れ川で釣る #14

アーアー、誰かいないかい。ねぇ、誰か…… いや、そっちに聞こえていたとしても、こっちにはわからないんだけどね。これが旧来のメディアの悪いところだ。まぁ、聞きたくないディスを山ほど浴びせられるよりはマシかもしれないね。それでもそろそろ虚しくなってきたよ。もしかしたら、聞いてくれている人がいるかもしれない、そういう希望に縋って話し続けるのもね。誰も聞いていなかったらバカみたいだろ?幽霊相手に喋っていたほうがいくらか健康的だ。しかしあいにく、ぼくに幽霊は見えないし、他にやることも見