『頑張れ、ホテリエ』

イワガキ 先輩
ナミキ  新人
ホリ   新人
アカニシ 新人
オオタニ カップル
リカ   カップル
マツカワ 新婚
ヒカリ  新婚
ウチヤマ 父
ツバキ  母
ムギ   姉
レン   弟
ウガ   お客様
ヒラマ  お客様
クマノ  お客様
ヒラセ  お客様

南国チックな音楽が流れる。ホテルシー・ブリーズのCM。

ナレーションに合わせてCMの中の人々が動く。

 

ナレ   繰り返される日常生活。お仕事やお勉強などで、日々時間に追われていませんか。たまにはそんな日常を離れ、非日常の空間で時間を忘れてゆっくりと羽を伸ばしてみませんか。ホテルシー・ブリーズでは都会の喧騒から離れ、鳥の声や波の音を聴きながらゆったりとしたひとときを過ごすことができます。お部屋でまったり過ごすもよし、プールで思いっきり遊ぶもよし。また、自然に囲まれたこの場所では、近くには雄大な滝がそびえたち、お部屋からは青い海を一望することができます。都心からのアクセスは、専用のシャトルバスが便利です。お困りのことがあればホテルスタッフまでなんなりとお申し付けください。親切なスタッフが皆さまを心からおもてなし致します。最高の体験をあなたへ。ホテル・シー・ブリーズ。

 

ホテルシー・ブリーズのフロント。イワガキがナミキ、アカニシの研修をしている。そこへホリが遅れてやってくる。

 

ホリ   頼まれていたやつ終わりました。

イワガキ ごめんねありがとう。じゃあこれで全員揃ったかな?

ナミキ  はい。

イワガキ それじゃあ改めまして、みんなの指導を担当しますイワガキです。よろしくお願いします。じゃあまずみんなに簡単に自己紹介してもらおうかな。それぞれのお名前とどうしてこのホテルで働こうと思ったのかを教えてください。それじゃあ、君からお願いします。

ナミキ  はい。ナミキと言います。えっと、小さい時にこのホテルに泊まったことがあるんですけど、その時にフロントの方がとても優しく接してくださって、私もこんな人になりたいなと思って、このホテルで働こうと決めました。あの、このホテルで働くのがずっと夢でした。よろしくお願いします。

イワガキ そうなんですね。よろしくお願いします。じゃあ次。お願いします。

ホリ   はい。ホリと言います。最近よく流れているCMを観てこのホテルで働こうと思いました。

イワガキ 最近流れているCM?

ホリ   はい。最高の体験をあなたへっていうやつです。

イワガキ あ~はいはい。流れてますね。

ホリ   なんかここなら最高の体験ができるかなと思ってきました。

イワガキ あ、あれお客さんに向けてのやつですからね。ホリさんがここで働いたからと言って最高の体験ができるわけではないですよ。

ホリ   あ、そうなんですか。

イワガキ はい。どっちかっていうと最高の体験をお届けする側ですね。

ホリ   あ、そうなんですね。あ、あと、名前がいいなと思ってこのホテルに決めました。

イワガキ 名前?

ホリ   はい。ホテルシーブリーズってなんかいいなって。

イワガキ あ、ホテルシー・ブリーズだから。点忘れないでください。

ホリ   はい?

イワガキ ホテルシーブリーズだとちょっと別の物のイメージが強くなりすぎちゃうので。正式名称はホテルシー・ブリーズなので。ちゃんと点入れるようにしてください。

ホリ   あ、はい。まあ頑張ります。

イワガキ ありがとうございます。じゃあ最後。お願いします。

アカニシ はい。アカニシです。家が近いのでこのホテルで働こうと思いました。

イワガキ あ、そんな理由なんですね。

アカニシ ダメですか?

イワガキ いや、全然。立派な理由だと思いますよ。

アカニシ ホテルマンとして精一杯頑張ります。よろしくお願いします。

イワガキ よろしくお願いします。あ、ちなみになんだけど、最近はあんまりホテルマンって言わないんですよ。

アカニシ そうなんですか。

イワガキ はい。最近はホテリエって呼ばれているんですよ。

アカニシ そうなんですね。じゃあホテリエとして精一杯頑張ります。

イワガキ あ、はい、ありがとうございます。え~と、ナミキさんと、ホリさんと、アカニシさんですね。フロント業務初日で緊張すると思いますが、まあ何より大切にしてほしいのはお客様に最高の体験をお届けしようという気持ちですね。これを忘れないでください。

三人   はい。

イワガキ あ、そうだ。皆さんはこのホテルにまつわる噂って聞いたことありますか?

ナミキ  このホテルにまつわる噂?

ホリ   聞いたことないです。

アカニシ どんな噂なんですか?

イワガキ このホテルでは、新人がちゃんと育っているかを見極めるために、オーナーがお客様に扮して偵察しにくる抜き打ちの研修があるっていう噂です。

ナミキ  へぇ~そんな噂があるんですか。

イワガキ なんでも、無理難題を突き付けてきたお客様が実はオーナーで、それはできませんって言ったスタッフがクビになったこともあるそうな。

ホリ   え~そうなんですか。

イワガキ まあ、ただの噂だし、私もそんな研修経験したことないんだけどね。とにかく、どんなお客様にも真摯に向き合おうっていう姿勢が大事だっていうことです。

アカニシ なるほど。

イワガキ えっと、じゃあまずはチェックインの作業について教えようかな。基本的にやることは次の4つです。お名前の確認、プランの確認、お部屋の番号を確認してルームキーをお渡しする、チェックアウトの時間をお伝えする。

ナミキ  あの、メモ取ってもいいですか?

イワガキ もちろんもちろん。あ、さっそくお客様いらっしゃったみたいなので、私が対応しますね。で、皆さんはそれを見ていてください。たぶん口で説明するより目で見てもらった方が早いと思うので。

ナミキ  わかりました。

 

クマノ入り

 

イワガキ いらっしゃいませ。本日のご用件はいかがなさいましたか。

クマノ  えっと、チェックインです。

イワガキ はい。かしこまりました。ではお名前お伺いできますでしょうか。

クマノ  えっと、予約したクマノです。

イワガキ はい。一名でご予約の、クマノ様でいらっしゃいますね。お待ちしておりました。クマノ様、本日より一泊のプランで承っておりますがお間違いないでしょうか。

クマノ  あ、はい。

イワガキ はい。ありがとうございます。え~と、こちらがルームキーでございます。本日のお部屋は5階でご用意しております。あちらにございますエレベーターをご利用くださいませ。あ、明日のチェックアウトは午前11時でございます。なにかご質問やご不明な点などございますでしょうか。

クマノ  あ、あの、シャンプー忘れちゃったんですけど、借りれたりしますかね。

イワガキ あ、はい、そうですね。あの、お部屋のシャワールームにアメニティをご用意させていただいておりますのでそちらをお使いいただければと思います。

クマノ  アメニティ?

イワガキ あ、えっと、箱に入った小さめのシャンプーやコンディショナー、ボディーソープがそれぞれのお部屋にご用意ございますのでそちらをお使いください。

クマノ  へ~、すごい。

イワガキ 他にも歯ブラシやスリッパなどもアメニティとしてご用意させていただいております。こちら当ホテルオリジナルのデザインとなっておりますので、もしよろしければ記念にお持ち帰りください。

クマノ  え!持って帰っちゃっていいんですか!

イワガキ はい。もしよろしければ是非。

クマノ  すごいなぁアメニティ。太っ腹ですね。

イワガキ ありがとうございます。他に何かご質問やご不明な点等ございますでしょうか。

クマノ  いや、大丈夫です。

イワガキ かしこまりました。それではごゆっくりお過ごしくださいませ。

 

クマノはけ。

 

イワガキ まあこんな感じですね。

ナミキ  うわぁ。本物だ。

ホリ   すご~い。

アカニシ こんなの覚えられないですよ。

イワガキ いやいやいや、流れさえ覚えてしまえばそんなに難しいことはないですから。まず本日のご用件はいかがなさいましたかと確認、まあこの時間に入口から来るお客様はだいたいチェックインだから。で、お客様のお名前を確認。そしたらここのパソコンにお客様のお名前を入力して、どのプランで予約しているかを調べる。で、それがあっているかをお客様に確認したらここに出てるお部屋の番号のルームキーをお渡しする。で、あっちにあるエレベーターをお使いくださいっていうのをお伝えしてチェックアウトの時間をお伝えする。あ、チェックアウトの時間は11時ね。で、最後にご質問やご不明な点はございますかってお客様に聞いたらおしまい。ほら、簡単でしょ?

アカニシ 全然簡単じゃないですよ。

ホリ   もう頭真っ白です。

ナミキ  本当にできるかなぁ。

イワガキ まあ流れも大事だけど何より大切なのはお客様に最高の体験をお届けするという気持ちだから。

アカニシ 困ったらそればっかりですね。

イワガキ いや、本当に大事だから。あ、早速お客様いらっしゃったみたいだね。じゃあ、ナミキさん、いってみようか。

ナミキ  え、いきなりですか!

イワガキ 何事も実践あるのみですよ。分からないところがあったらサポートしますから。いってみましょう。

ナミキ  わ、わかりました。

 

ウチヤマ、ツバキ、ムギ、レン入り

 

ナミキ  いらっしゃいませ。本日のご用件はいかがなさいましたか。

ウチヤマ チェックインお願いします。

ナミキ  かしこまりました。えっと、ではお客様のお名前お伺いできますでしょうか。

ウチヤマ ウチヤマです。

ナミキ  はい。えっと、ウチヤマ、ウチヤマ、あ、あった。はい。四名でご予約の、ウチヤマ様でいらっしゃいますね。お待ちしておりました。えっと、ウチヤマ様、本日より二泊のプランで承っておりますがお間違いないでしょうか。

ウチヤマ はい。

ナミキ  ありがとうございます。えっと、305、あ、こちらがルームキーでございます。本日のお部屋は3階でご用意しております。えっと、あ、あちらにございますエレベーターをご利用くださいませ。えっと、そうだ。明後日のチェックアウトは午前11時でございます。なにかご質問やご不明な点などございますでしょうか。

ウチヤマ あの、子どもたちがプール使いたいんですけど、それって料金に含まれてますか?

ナミキ  あ、え~っと、

イワガキ すいません、プールは別料金になっておりまして。

ウチヤマ あ、そうなんですね。やっぱり事前に申し込んでおかないと使えないですかね?

イワガキ あ、いえ、プールの入口にルームキーをかざすところがございまして、そちらにかざしていただくと自動的にお部屋の料金に合算されるという仕組みなっております。なのでチェックアウトの際にまとめてご精算という形になるので全然ご利用いただけますよ。

ウチヤマ あ、なるほど。じゃあこのルームキーをプールにもっていけばいいってことですか?

イワガキ 左様でございます。

ウチヤマ わぁ、よかったなレン、プール入れるって。

レン   イェーイ!プールプール!

ツバキ  この子サイトに載ってるプールの写真見てからここいくここいくってずっと言ってて。

ムギ   でもお父さんがプールは別料金って書いてあるの見つけて申し込んでないと入れないんじゃないかって昨日急に焦り始めてね。

ウチヤマ あはは、お恥ずかしい。

ナミキ  そうだったんですね。いっぱい楽しんでくださいね。

レン   ありがと~!

ナミキ  他に何かご質問やご不明な点等ございますでしょうか。

ウチヤマ いえ、大丈夫です。

ナミキ  かしこまりました。それではごゆっくりお過ごしくださいませ。

レン   ばいばーい!

 

ウチヤマ、ツバキ、ムギ、レンはけ。

 

イワガキ ちょっとナミキさんすごいね。

ナミキ  すいません、プールのこと把握してなくて。

イワガキ いやいや、教えてないんだから知らなくて当然だよ。それよりもその前の対応ほぼ完ぺきだったよ。すごいね。

ナミキ  ほ、本当ですか。

イワガキ もっと自信もっていいよ。

ナミキ  ありがとうございます。いや、でもいいですね。こうしてお客様の笑顔に触れると自然と元気が出てきますね。

イワガキ そうなんだよ。やっぱりこれが何事にも代えられないやりがいだね。あ、次のお客様が来たみたい。じゃあ、ホリさん、いってみましょうか。

ホリ   え~あんなすごいの見せられた後だと緊張するなぁ。

イワガキ 大丈夫ですよ。ホリさんにもできますって。

 

半分泣きながらヒラマ入り。

 

ホリ   い、いらっしゃいませ。本日のご用件はいかがなさいましたか。

ヒラマ  チェックインで。

ホリ   か、かしこまりました。えっと、ではお客様のお名前お伺いできますでしょうか。

ヒラマ  ヒラマです。

ホリ   はい。えっと、ヒラマ様、あ、はい。一名でご予約の、ヒラマ様でいらっしゃいますね。

ヒラマ  一名、か。

ホリ   えっと、本日より一泊のプランで承っておりますがお間違いないでしょうか。

ヒラマ  (すすり泣いている)

ホリ   ヒラマ様。あの、本日より一泊のプランで承っておりますが、お間違いないでしょうか。

ヒラマ  あ、すいません。はい。

ホリ   あ、ありがとうございます。えっと、405、こちらがルームキーでございます。本日のお部屋は4階でご用意しております。あちらにございますエレベーターをご利用くださいませ。明日のチェックアウトは午前11時でございます。なにかご質問やご不明な点などございますでしょうか。

ヒラマ  ちょっと私の話聞いてくれませんか!

ホリ   え、え~っと。

イワガキ 聞いて差し上げて。

ホリ   え、え~、は、はい。

ヒラマ  私には婚約者がいたんです。

ホリ   あ、そうなんですね。

ヒラマ  で、その婚約者とある時ここのホテルに泊まりに来たんですけど。

ホリ   あ、はい。

ヒラマ  その婚約者、ここで出会った花屋の女に一目ぼれして浮気したんです。

ホリ   え、ひどいですねそれは。

ヒラマ  私それに耐えられなくて、結婚の話はなくなって、

ホリ   うわぁ。

ヒラマ  婚約者は私じゃなくてその花屋の女と結婚したんです。

ホリ   それはお気の毒に。

ヒラマ  どうしてあいつは知らない花屋の女と幸せになったのに私は今でもひとりぼっちなのよ!

ホリ   どうして、ですかね。

ヒラマ  私あの日から花が嫌いなんです。

ホリ   あ~、まあ花に罪はないとは思いますけど。

ヒラマ  それでね、今日はその婚約者とここに泊まりに来てからちょうど一年なんです。

ホリ   あ、そうなんですか。

ヒラマ  だから私もここでいい人見つけて、絶対に幸せになってやるんです!

ホリ   あ~そうなんですね。他に何かご質問やご不明な点等ございますでしょうか。

ヒラマ  ないです!

ホリ   かしこまりました。それではごゆっくりお過ごしくださいませ。

 

ヒラマ、はけ。

 

ナミキ  なんか、すごい人でしたね。

イワガキ まあホテルにはいろいろなお客様が来るから。

アカニシ 今回の宿泊でいい人見つかると良いですね。

イワガキ あ、次のお客様だ。じゃあ次はアカニシさんがやってみようか。

アカニシ はい。

 

オオタニ、リカ、イチャイチャしながら入り。

 

リカ   ねぇもう歩けな~い。

オオタニ なんでだよ。歩こうって言ったのリカの方じゃん。

リカ   だってぇ~、歩いた方がシュウくんと二人っきりでいられる時間長くなると思ったんだもん。

オオタニ ちょっとなんだし~!

アカニシ いらっしゃいませ。本日のご用件はいかがなさいましたか。

オオタニ あ、チェックインで。

アカニシ かしこまりました。えっと、ではお客様のお名前お伺いできますでしょうか。

オオタニ あ、コタニです。

アカニシ えっと、コタニ、コタニ、

リカ   ねぇちょっと~。

オオタニ あ、すいません間違えました。オオタニです。

アカニシ はい。えっと、オオタニ、オオタニ、

リカ   ねぇちょっとシュウくん面白すぎ~!

オオタニ えへへっ。えへへっ。

アカニシ はい。二名でご予約の、オオタニ様でいらっしゃいますね。本日より一泊のプ

ランで承っておりますがお間違いないでしょうか。

オオタニ お間違いないで~す。

アカニシ ありがとうございます。えっと、こちらがルームキーでございます。本日のお部屋は6階でご用意しております。あちらにございますエレベーターをご利用くださいませ。明日のチェックアウトは午前11時でございます。なにかご質問やご不明な点などございますでしょうか。

オオタニ いや、ダイジョブっす。

アカニシ かしこまりました。それではごゆっくりお過ごしくださいませ。

リカ   ねぇちょっと荷物もってよ~。

オオタニ なんでよ、こんくらい自分で持ってよ。

リカ   重くて持てない~疲れて歩けない~。

オオタニ え~じゃあ、お姫様抱っこしてあげよっか?

リカ   あ、それはマジで大丈夫。

オオタニ なんでだよ~。

 

オオタニ、リカ、イチャイチャしながらはけ。

 

アカニシ あ~イライラした。

イワガキ ちょっと、口に出さないでください。大事なお客様ですよ。

アカニシ 私ああいうの見るとイライラしちゃうんですよね。

イワガキ そう言うこと言わないの。

アカニシ どうせすぐ喧嘩して別れますよ。あんなのうわべだけの関係なんだから。

イワガキ アカニシさん!どんな人だろうとお客様であればきちんと対応する、それが私たちホテリエのあるべき姿ですよ。

アカニシ は~い。

 

   ヒラセ入り。

 

ヒラセ  あの~、すいません。

ホリ   はい、なんでしょうか。

ヒラセ  レストランってどっちですかね?

ホリ   あ、え~っと、

イワガキ 当ホテルのレストランでお間違いないでしょうか。

ヒラセ  あ、はい。

イワガキ でしたらあちらまっすぐ行っていただいた突き当りにございます。

ヒラセ  あ、なるほど。ありがとうございます。

イワガキ ごゆっくりお過ごしください。

 

   ヒラセはけ。

 

ホリ   すいませんまだどこになにがあるか把握してなくて。

イワガキ フロント立つの初日なんだから無理ないですよ。

アカニシ でも今みたいに聞かれることあるから覚えておかないとですよね。

イワガキ そうですね。じゃあ今のうちになんとなく覚えちゃいましょうか。あっちがレストランで、あっちがプール、で、あっちが客室です。

ホリ   なるほどなるほど。えっと、あっちがレストランで、あっちがプールで、あっちが客室。あっちがレストランで、あっちがプールで、あっちが客室。

 

   レン登場。

 

レン   すいません、便所ってどっちですか?

ホリ   あ~、便所ですね。えっと、便所は、あっちがレストランで、あっちが客室で、あっちがプールだから・・・すいません便所ってどっちですか?

イワガキ お手洗いはあっちですね。

ホリ   あ、ありがとうございます。便所あっちだって。

レン   ありがとう~!

 

   レンはけ。

 

ホリ   便所はあっちなんですね。

イワガキ 便所って言うのいったんやめましょうか。

ホリ   え?

イワガキ いや、ちょっと、ホテルには似合わないかなと思ったので。

ホリ   あ、そうですよねすいません。あ、でも便所って言わないってなったらなんて言えばいいですか?

イワガキ まあ、お手洗いかトイレが無難ですかね。

ホリ   あ~なるほど、なんか覚えることがいっぱいだな。

イワガキ ちょっとおさらいしておきましょうか。

ホリ   そうですね。えっと、あっちがお手洗いで、あっちがトイレで、あっちが便所。

イワガキ 全部お手洗いになっちゃってますよ。

ホリ   ああ、す、すいません。

イワガキ いいですか、あっちがレストランで、あっちがプールで、あっちがお手洗い、で、あっちが客室です。

ホリ   え、えっと、あっちがレストランで・・・

 

   ウガ入り。

 

ウガ   ちょっといいですか?

イワガキ はい。どうなさいましたでしょうか。

ウガ   私の部屋のシャワーの温度が熱すぎるんだけど、どうしてくれるの?

イワガキ はい?

ウガ   いやだから、私の部屋のシャワーが熱すぎるんだけど、どうしてくれるのって聞いてるの。

イワガキ えっと、そうですね、一応レバーを回すと温度調節できるようになっていると思うのですが。

ウガ   そんなことわかってるんですよ。それにしても熱いからここにきてるんですよ。

イワガキ 大変申し訳ございません。

ウガ   まったく、使えないスタッフだなぁ。

 

   ウガはけ。

 

ナミキ  なんですか今の。イワガキさん何にも悪くないじゃないですか。

イワガキ たまにいるんですよ。ただ文句言いたいだけのお客様。いわゆるクレーマーって言うやつ。

アカニシ なんかテンション下がりますね。

イワガキ そうだね。もちろんすべてのお客様に真摯に向き合わないといけないし、意見はきちんと聞くべきだけど、理不尽な言葉はあんまり気にしすぎなくていいからね。みんなが考えすぎてつぶれちゃうのが一番よくないから。

 

   レン登場。

 

レン   プール!プール!プール!プール!

 

   レンはけ。

 

ナミキ  子どもは無邪気でいいですね。

アカニシ あ、お客様来ましたよ。

イワガキ あ、本当だ。

ナミキ  あの、次、私にやらせてもらえせんか?

イワガキ え、いいですけどどうして?

ナミキ  さっきのリベンジがしたいんです。

イワガキ リベンジって。さっきも十分できてたけどなぁ。

ナミキ  お願いします。今度は完璧にやるので。

イワガキ わかりました。じゃあナミキさん、お願いします。

 

マツカワ、ヒカリ入り。

 

ナミキ  いらっしゃいませ。本日のご用件はいかがなさいましたか。

マツカワ チェックインで。

ナミキ  かしこまりました。えっと、ではお客様のお名前お伺いできますでしょうか。

マツカワ マツカワです。

ナミキ  はい。えっと、はい。マツカワ様・・・

ヒカリ  もう私もマツカワなんだもんね。

マツカワ なんか変な感じするよね。

ナミキ  二名でご予約の、マツカワ様でいらっしゃいますね。本日より二泊のプランで承っておりますがお間違いないでしょうか。

マツカワ はい。

ナミキ  ありがとうございます。こちらがルームキーでございます。本日のお部屋は4階でご用意しております。あちらにございますエレベーターをご利用くださいませ。明後日のチェックアウトは午前11時でございます。なにかご質問やご不明な点などございますでしょうか。

マツカワ いや、大丈夫です。

ナミキ  かしこまりました。それではごゆっくりお過ごしくださいませ。

 

ヒカリはけ。

 

マツカワ すいません、例のやつってもう準備できてる感じですかね?

ナミキ  例のやつ?

イワガキ あ、もちろん。すでにお部屋にご用意させていただいております。

マツカワ あ、そうですか。ありがとうございます。

イワガキ サプライズ、成功すると良いですね。

マツカワ あ、はい。ありがとうございます。

イワガキ ごゆっくりお過ごしくださいませ。

 

   マツカワはけ。

 

ナミキ  例のやつってなんですか?

イワガキ ああ、マツカワ様からサプライズのお手伝いをお願いされていてね。奥様お花が大好きだから部屋を花でいっぱいにしてくれって頼まれたんだよ。なんでも、ハネムーンだから二人の思い出に残るように奥様を驚かせたいんだって。

ナミキ  へぇ。そうだったんですね。

ホリ   あ、さっきの花これ用だったんですね。

イワガキ そうそう。ちゃんとやってくれた?

ホリ   はい。ばっちりだと思いますよ。

アカニシ え、お花はホリくんが設置したの?

ホリ   そう。なんか朝来たらイワガキさんに大量の花渡されて。これを406号室に置いてきてくれないかって頼まれたの。

ナミキ  あ~だからさっき遅れてきたのか。

ホリ   そういうこと。

アカニシ にしても素敵な旦那さんだなぁ。私ああいう人と結婚したいです。

ナミキ  それ、めっちゃわかる~!

イワガキ とりあえず一旦お客様の流れ止まったみたいだね。どう、ここまでやってみて。

ナミキ  いや、大変ですけど、お客様の笑顔を見ていたら頑張れそうです。

イワガキ お~、それはいいことだ。大丈夫?なんかここまでで質問ある?

ナミキ  あの、チェックインのことじゃないんですけど、いいですか?

イワガキ もちろん。なんでも聞いてください。

ナミキ  ずっと気になってたんですけど、このベルなんですか。

イワガキ あ~これね。もともとはフロントにスタッフがいない時にお客様が鳴らす用のベルだったんだけどそんなタイミング中々ないからさ、今はホテリエが困ったときにヘルプを呼ぶ用においてあるって感じ。

ナミキ  へぇ~そうなんですね。

イワガキ そうそうそう。まあこれが鳴ることなんてそうそうないんだけどね。なんか困ったときに鳴らすんだなぁ~くらいの感覚?なんかベルおいてあるんだなぁ~くらいに思ってもらって大丈夫。

 

花まみれになったヒラマ入り。

 

ヒラマ  すいません。

 

   ヒラマを見てイワガキすかさずベルを鳴らす。

 

イワガキ どうなさいましたか?

ヒラマ  いや、あの、なんか部屋に入ったら部屋が大量の花で満たされてて。最初は幻覚かなって思ったんですけど幻覚じゃなくて。

イワガキ 最悪だ。花にトラウマある人の部屋を花で満たしてしまった。しかも元凶となった地で。ホリさん。お花406号室においてくれたんだよね?

ホリ   え、たぶんそうだと思うんですけど。

イワガキ 失礼ですがお客様、お部屋の番号って覚えていらっしゃいますか?

ヒラマ  えっと、405号室だったと思います。

イワガキ ホリさん!多分隣の部屋に置いちゃってますねこれ。

ヒラマ  あの、これって一体どういうことですか。

イワガキ え~っと、これは、そのぉ。

 

オオタニ、リカ入り。

 

リカ   ちょっとあんたいい加減にしてよ。

オオタニ はぁ?それはこっちの台詞なんだけど。

リカ   ほんと頭硬すぎ。意味わかんない。

オオタニ その言葉そっくりそのまま返すわ!

アカニシ ほらねほらねほらね!絶対すぐ喧嘩すると思った!私!

イワガキ ちょっと、お客様が喧嘩してワクワクするのやめてください。

 

マツカワ、ヒカリ入り。

 

ヒカリ  お前マジでふざけんなよ。

マツカワ はぁ?お前に言われる筋合いはないんだけど。

ヒカリ  なんで、なんで?これはマジであんたがおかしい。

マツカワ はぁ?ちゃんと考えてからもの言えよ。

アカニシ ちょっと待ってよ。なんであの仲良かった新婚さんも喧嘩してるの!?

ナミキ  もしかしたらあれじゃないですか。サプライズの花が無かったからそれでもめてるとか。

アカニシ 私とナミキさんで新婚さんの対応するので、イワガキさんとホリくんはこちらの方の対応お願い。いくよ。

ナミキ  うん。

イワガキ え、あ、ちょっと!

ヒラマ  あの、これって、どういうことですか。

イワガキ え、え~っと、ですね。ちょっとホリさん、なんとかして。

ホリ   え、ぼ、僕ですか!?

イワガキ だってそもそもホリさんが蒔いた種でしょ。

ホリ   い、いや、そ、そうですけど。

ヒラマ  花、花屋、あいつは幸せになって、私は一人なんだぁ!!(泣き出す)

 

   ヒラセ入り。

 

ヒラセ  あの、すいません、トイレってどっちですか。

イワガキ トイレはあっちです。

ヒラセ  あ、ありがとうございます。

 

   ヒラセはけ。

レン入り。

 

レン   プール!プール!プール!プール!

 

   レンはけ。

 

ヒカリ  絶対あなたが間違ってる!

マツカワ いいやお前が間違ってる!

アカニシ あの、すいません、すいません。なにかわたくし共に不手際がございましたでしょうか?

マツカワ は?

ナミキ  いや、その、とても先ほどのお二人からは想像できないほど喧嘩してらっしゃったので。なにが原因だったのかなと思いまして。

ヒカリ  この人が、今日は虹色の滝に行こうっていうんですよ!今日はホテルの近くの海でゆっくりしようって話だったのに!

アカニシ え?

マツカワ いやだから、そうだったけど、こんなにいい天気で、虹色の滝が綺麗にみられる絶好のチャンスだから、虹色の滝に行こうって言ってんの!

ナミキ  とりあえず花の件ではないみたいですね。

アカニシ だね。

マツカワ 今日は絶対虹色の滝に行くべきだろ!

ヒカリ  いいや、絶対に近くの海に行くべき!

リカ   やっぱりそうですよね?

ナミキ  え?

リカ   今日は海に行くべきですよね?

オオタニ いいや、今日は虹色の滝に行くべきですよね?

アカニシ は?

リカ   そもそも海に行こうって話だったし、虹色の滝なんてここからまたバスに乗ってさらに歩いて行かないといけないんだから絶対疲れるだけですよね?

オオタニ いやだから、そうまでしてでも行く価値が虹色の滝にはあるって言ってるんだろ!今日しか見れないかもしれないんだぞ虹色に輝く滝!

アカニシ え、全くおんなじ題材でもめてるんだけど。

マツカワ だいたい今回の旅行費のほとんど俺が出してるんだぞ。普通俺の言うことに従うだろ!

オオタニ おお!そうだそうだ!

ヒカリ  はぁ?ここでお金の話出してくるのまじで違うんだけど。なんでどこに行くか決める話とどっちがお金多く出してるみたいな話をすぐに結びつけるの気持ち悪いよ?

リカ   ほんとそう。

ナミキ  しかもなんかめっちゃ共感してる。

 

  レン入り。

 

レン   プール!プール!プール!プール!

 

レンはけ。

 

ヒラマ  私はいつまでたってもひとりぼっち。さみしい人間なのよぉ!

イワガキ ホリさん、ホリさん。いいですか、大切なのは、お客様に最高の体験をお届けすることですよ。

ホリ   え、う~。

 

ヒラセ入り。

 

ヒラセ  あの、すいません。プールってどっちですか?

ホリ   プールはあっちです。

イワガキ そっちはトイレ。プールはあっちです。

ヒラセ  ありがとうございます。

 

   ヒラセはけ。

 

イワガキ ほら、ホリさん。

ホリ   う、う~。・・・ヒ、ヒラマ様。あ、あの花は、わ、私からのサプライズでございます。

ヒラマ  え?

ホリ   いや、その、ね、素敵な出会いをお探しとのことだったので、私なんてどうですか?という、その。ね。

ヒラマ  う、うう。

ホリ   このホテルで感じてしまった花の苦い記憶を、私との新しい花の思い出で塗り変えてみませんか。

イワガキ そんなんじゃ無理でしょ。

ヒラマ  まぁ、そうだったのね。

イワガキ いけた!?

ヒラマ  そういうことならそうと初めから言ってちょうだいよ!なんなら私、入ってきたときからちょっとかわいい顔してるなぁと思ってたのよ。あなたのこと。うふふ。え、今のって私に気があるってこと?そういうことよね?そう解釈していいってことよね?

 

   ホリ、イワガキの方を見る。イワガキは全力で目を見開いている。

 

ホリ   そういうこと、です

ヒラマ  まぁ!なんか照れちゃうわね。まさかこんな素敵な出会いがあるとは。あ、ちょっと待ってて、今スマホもって来るから。連絡先交換しましょう。

 

ヒラマはけ。

 

イワガキ ホリさん、本当にありがとう。

ホリ   いやちょっと待ってくださいよ。

 

   クマノ入り。

 

クマノ  あの、部屋にテレビが置いてあったんですけど、あれも持ち帰っていいんですか?

イワガキ いやだめですよ。

クマノ  え、じゃあテレビはアメニティじゃないってことですか。

イワガキ テレビはアメニティじゃないです。

 

   レン入り。

 

レン   プール!プール!プール!プール!

 

   レンはけ。

 

マツカワ いやいやいやいや、お金多く出してる方が行き先の決定権握ってるっていうの

は間違ってないと思いますけどね。

ヒカリ  何その言い方。そもそも出したお金の量でああだこうだ言ってるのが小っちゃいって言ってんの。

オオタニ 小っちゃいとかじゃないですよ。そんなに言いたいならお金均等に出してから

言ってください。

リカ   だから今お金の話じゃないでしょ?どこ行くかの話してるんでしょ?なんですぐそうやって金の話に論点ずらすかな。どう考えても海に行くべき!

オオタニ いや、虹色の滝に行くべき!

ヒカリ  いや、海!

マツカワ いや虹色の滝!

リカ   海!

オオタニ 滝!

ヒカリ  海!

マツカワ 滝!

リカ   海!

アカニシ ちょっといいですか!

ヒカリ  ・・・なんですか。

アカニシ あの、私、この辺住んでるからわかるんですけど、虹色の滝、思っているよりもしょぼいですよ。

マツカワ ・・・え。

アカニシ なんか雑誌とかネットとか、結構壮大な感じで載ってますけど、結構しょぼいですよ。

オオタニ ・・・そう、なの。

アカニシ はい。

リカ   ほらね。じゃあ、海で決まりね。

アカニシ いや、確かにしょぼいんですけど、今、虹色の滝、夜にライトアップしてて、それはすごくきれいなんですよ。

ヒカリ  ライトアップ?

アカニシ はい。なんか、プロジェクションマッピングみたいなこととかしてて。なので、大変おこがましいのは承知の上で、私から提案なんですけど、お昼は海でのんびり過ごしていただいて、夜に虹色の滝に行くというのはいかがでしょうか。

ヒカリ  ・・・いいですね、それ。

マツカワ 確かに。それならどっちも行けるしね。

リカ   プロジェクションマッピングなら、興味あるかも。

オオタニ 昼海でゆっくりできれば、体力も回復するしね。

ナミキ  ・・・ってことは?

マツカワ 今提案してもらったプランで行こうかなって思います。

アカニシ やった。ありがとうございます。なんか嬉しいな。

ヒカリ  いえいえ、こちらこそありがとうございます。

マツカワ よかったら一緒に行く?

オオタニ え、いいんですか?

マツカワ うん。僕たち車で来てるから、一緒に乗っていった方が楽でしょ。

リカ   え~じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな。

オオタニ 本当にありがとうございます。

 

   ウチヤマ、ツバキ、ムギ入り

 

ウチヤマ レン~!どこだ~?

ツバキ  レン~!いるなら出て来て!

ムギ   レン~!

イワガキ どうしたんですか。

ウチヤマ うちの息子がどこか行ってしまいまして。

ムギ   トイレ行ってくるって言ったまま部屋に戻って来なくて。

ツバキ  心配になって探したんですけどトイレにもプールにもいなくて。

イワガキ それは心配ですね。一緒に探しますよ。皆さんも、お願いします。

ナミキ  はい。

ホリ   わかりました。

アカニシ 了解です。

イワガキ レン君~!

 

   各々、レンを探す。

   ウガ入り。

 

ウガ   なんだか騒がしいですね。

アカニシ うわ、このタイミングで。

ウガ   何かあったんですか?

ウチヤマ うちの息子がいなくなってしまったんです。

ウガ   え、息子さんがいなくなってしまった。つまり迷子になってしまったということですか。

ツバキ  そうなんです。

ムギ   トイレに行くって言って部屋を出てから戻ってきていなくて。

ウガ   トイレに行く。トイレってそこのトイレですか?

ウチヤマ たぶんそうだと思うんですけど。

ウガ   じゃあ、フロントの方が見てるんじゃないですか?

ウチヤマ あ、そうですね。うちの息子、最後にどこに行ったか見てませんか?

ナミキ  えっと。いたのは知ってるんですけど、その・・・

イワガキ 最後にどこにいたのかはわからないです。

ウガ   わからない。はぁ~!ここにいたのに、息子さんはここを通っているのにどこにいったかわからない。これはもうフロントの皆さんが招いた迷子じゃないんですか。

アカニシ ちょっと、

ウガ   もしかしたら誘拐されたのかもしれませんよ。フロントの皆さんが目を離していなければこんなことにはなっていなかったかもしれないのに。あぁ、かわいそう。

ホリ   ・・・。

ウガ   あなたたちは何のためにそこに立ってるんですか。なんのためにホテリエをやってるんですか。

ナミキ  ・・・私たちは。

イワガキ 私たちは、お客様に最高の体験をお届けしたい、その一心でここに立っています。その気持ちに嘘は一つもありません。今日、新人たちとここに立って、改めてそのことを実感しました。お客様のご希望があればそれを叶える。お客様が困っていたら耳を傾け、一緒に解決策を考える。このホテルには様々なお客様がいらっしゃいます。その中には普段の生活の中で、何かに追われている人、嫌な思いをした人、落ち込んでしまった人、いろんな人がいると思います。そのすべてのお客様が、このホテルに足を運んでくださったすべてのお客様が、滞在中、少しでも笑顔を見せてくれる、ありがとうと声をかけてくださる、それだけで私たちは幸せで満たされ、やりがいを感じます。だから私たちは、お客様に最高の体験をお届けするためにここに立っています。・・・でも、私たちにも、できることとできないことがあります。ミスもしてしまいます。お客様に多大なるご迷惑をおかけしてしまうこともあります。でも、これだけは言えます。私を含め、今ここにいるホテリエは、今日一日お客様おひとりおひとりと真摯に向き合ってきました。迷惑をかけたくてかけた人間は一人もいません。そのことはどうかご理解ください。この度は、本当に申し訳ありませんでした。

 

   沈黙の後、ウガが拍手をはじめる。周りのお客さんたちも次第に拍手を始める。

 

イワガキ え、え?

ウガ   いやぁ、素晴らしいホテリエが成長していて嬉しいよ。

イワガキ え、ちょっと、どういうことですか。

ウガ   ああ、ごめんごめん。私はこのホテルシー・ブリーズのオーナーのウガです。

イワガキ え、え、えー!

ナミキ  え、じゃあ研修の噂は本当だったってこと!?

ウガ   やっぱリ噂になってるんだ。この研修のことは誰にも言わないようにっていつも言ってるのに。あ、君たちも次に入ってくる子たちに教えたらだめだからね。抜き打ちの意味がなくなっちゃうんだから。

イワガキ ってことは、以前にもこの研修が行われたってことですか?

ウガ   もちろん。だいたい5年に1回くらい?私の気が向いたときにやってるんだ。

アカニシ えっと、あなたがオーナーで、この研修の仕掛け人だったてことでいいんですよね?

ウガ   ああ、いや。私だけじゃありません、ここにいる全員が劇団やプロダクションに所属していて、今回の研修の仕掛け人です。

アカニシ え~!じゃあ、ウチヤマさんのお子さんたちも?

ウガ   はい。子役のお二人です。

ムギ   アズマタマキです。

レン   シロタカズです。

アカニシ めちゃくちゃしっかりしてるじゃん。

レン   すいません。ウガさんにお願いされて向こうの方に隠れてました。

イワガキ なんだ。そうだったんだ。よかった。

ウガ   驚かすような真似をしてごめんね。でも、この研修でお客さんと向き合うことの大切さ、難しさ、そして喜びを知ったはずです。これからもこの気持ちを忘れず、さらに素敵なホテリエへと成長してください。

イワガキ はい。ありがとうございます。

 

   ヒラマ入り。

 

ヒラマ  ごめんなさいね、ようやくスマホ見つけたわ。さ、連絡先を交換しましょ。

ホリ   あ、よかった~。じゃあこの人も仕掛け人ってことですよね。

ウガ   え、皆さんこの方知ってます?

 

   全員知らない的な反応。

 

ウガ   いや、この方は本当のお客様ですね。

ヒラマ  これからよろしくね。ダーリン。

 

   ホリ、ベルを鳴らす。

暗転。全員一列に並びお辞儀。幕。

 

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