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【読書メモ】_ばいばい心の緊急事態 追い求めるのをやめてみた ~「生きづらさのカラクリ」を知って幸せになる方法

1、 メモを公開する経緯

 著者(妹尾まみ氏 心理カウンセラー)から献本していただき、読んだところ、これは依存症当事者や家族が回復のために有用な本だと思ったのでメモを公開さします。

2、どんなことが書かれていましたか?

 著者の父は妹尾河童氏です。
 グラフィックデザイナー・舞台美術家・エッセイスト・小説家として大活躍した人です。自身の少年時代を描いた著書『少年H』は上下巻を合わせて300万部以上の大ベストセラーになりました。
 しかし、著者にとっては、子ども時代について、「どこに居ても(親に)叱られてばかりいた記憶が残る私には、とてもつまらない日々だったというのが正直な思い」と書いています。
 著者にとっては「機能不全の家庭」と感じていたのですが、子どもは、嫌だからと、家を出て暮らすことができないので、無理やりに適応しようとします。ましてや、周囲からは有名人を親にもち、経済的にも豊かなら、なおさらです。
 過剰適応することで、家庭を生き抜いた人は、成人後も、独特の「生きづらさ」を抱えて生きるようになります。
「生きづらさ」への対処として、アルコールを含む薬物、ギャンブル、ゲーム、買い物、異性、仕事などを利用することが続くと、依存症になったり、あるいは、共依存(依存症の人が、嗜癖行為を続けるのを助けたり、後始末を、自分が傷いても続けてしまうこと)という状態に陥ったりします。
 依存症に比べても、共依存は、見えにくく、正確な定義も難しいので、精神医学の診断にもなっていません。しかし、相当に広くみられる状態です。医療に繋がったのは依存症のためであっても、背景には共依存の問題があることも少なくありません。
 著者は、「生きづらさ」を抱えながら、夫に対して共依存の状態となり、二度の離婚を経験。ワーカホリック、不眠症、うつ病を経験するなかで、心理学を学ぶようになり、回復の道を歩むようになり、2005年にカウンセリングルームを開設し、現在に至っています。
 そういう自らの人生の路程を事例として提示することで、多くの人が、自らの「生きづらさ」について理解し、回復するための助けとなる内容が満載なのが本書です。

3、特に気に入ったくだりは?

 P20の以下の箇所です。
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 大人になってから、過去の受け止め方が変わったり、信頼関係を築くことができる人たちと出会えることにより、「生きづらさ」から無事に解放される可能性があることも、本書を通してお伝えできたらと思います。
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 回復者であり支援の専門家でもある筆者だから語れる、説得力ある希望的な言葉です。

4、どんな影響を受けましたか?

 精神科やカウンセラーが、クライエントに自己開示することは、御法度だと教育を受けます。クライエントとの心理的距離を必要以上に近くしてしまう、開示することで、特定の方向にクライエントを引っ張ってしまう可能性などマイナス面は様々にあります。
 しかし、依存症は、統合失調症や双極性障害といった精神病に比べて、支援を行う側と受ける側の健康度の差が小さいという特徴があります。支援者が酒好きで、飲み続けているうちに、当事者になったり、逆に、当事者が回復した後、プロの支援者になる場合もあります。
 「なくて七癖」という格言の通り、「深刻ではないが止められない癖=プチ・アディクション」は、どんな支援者にもあるものです。
 プチであっても、アディクションからの回復に支援者が取り組むことは、セルフケアのためにも、支援を受ける側の視点に立つためにも有用なことであり、その経験を開示することは、適切に行えば、有用なことがあると私は考えています。
 どのように開示するのが良いのか、ヒントを得たと思います。

5、どういった点が優れていますか?

 類書として一番有名なのは、共依存からの回復者であるクラウディア・ブラック氏が書いた、『私は親のようにならない [改訂版]:嗜癖問題とその子どもたちへの影響』でしょう。私も、依存症臨床の駆け出しのころ読んで、共依存について学ばせていただきました。古典的名著として残る本ですが、機能不全が極度に深刻な家庭で育った経験が元になっているので、そこまで深刻ではない家庭に育った人の場合、読んでも、違和感が残ると思います。
 また、共依存について解説することに比べ、回復のために有効な方法について網羅的に書くことは簡単ではありません。
 極度に深刻ではない機能不全家庭で育った人にもフィットし、回復方法について詳しく書かれている点が優れていると思います。

6、どういう人が読むと良いですか?

 本書のプロローグで、自己開示を通して、「中途半端な不幸は理解されにくく、かえって厄介であることや、メンタル疾患の原因にもなりやすい」ということを読書に理解してもらいたいと書いています。
 自分の育った家庭は特に問題がなかったと思うのに、なぜか「生きづらさ」を感じている人が読むと良いでしょう。また、そういう人への支援を行っている人や家族にとっても役立つと思います。