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自らの作品に最大の敬意を持って接する。造形作家・安居智博さんはとてつもなく優しい男だった。【よなよなビアファンド】

笑顔を生み出す多様性人材“よなよな人(びと)”へビールで投資するプログラム「よなよなビアファンド」。様々な分野で活躍する人をよなよなエールで支援するこの取り組みのキャッチコピーは「出る杭に心打たれる」です。

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よなよなエール/ヤッホーブルーイングのよなよなビアファンド公式アカウントです🍺知性と偏愛を持った愛すべき変わり者(=よなよな人)をビア投資で応援しています。よなよな人との活動や、ビアファンドプロジェクトの様子などを発信。
「出る杭に心打たれる。」愛すべき変わり者であふれた世界をつくりたい。

...そう、よなよな人の共通項は心を奪われるほどに突出していること。自分の興味を探求する「知性」と、それに情熱を傾ける「偏愛」とを併せ持つ、愛すべき変わり者です。

今回お話をお聞きするのは、この度「よなよなビアファンド」の仲間に加わってくださることになった造形作家の安居智博さん。ご自身が次々に生み出すキャラクターたちによって、連綿と物語が続くひとつの“世界”を織りなす「カミロボ」。安居さんは「作者」としてではなく、受け継がれる「物語の傍観者」としてその世界に身を投じ、小学生時代にお菓子の箱を材料にしてつくったロボットプロレスラー「カミロボ」とともに成長してきました。造形作家であると同時に壮大な物語の構成作家でもあり、さらにご自身の創造の賜物とともに成長を続ける……。そんな知性と偏愛に満ちた安居さんの世界を旅してみましょう!
<聞き手=ライス、ヤッホーブルーイング・よなよなビアファンドスタッフ> 

[プロフィール]安居智博 (やすい・ともひろ)さん
造形作家
1971年滋賀県生まれ。
京都市を拠点にフィギュアの原型製作、プロレスマスク制作、キャラクターデザイン、広告制作などの領域で活躍する一方、自身のライフワークとして小学生時代から作り続けている紙製のロボットプロレスラー「カミロボ」は、美術の教科書への掲載や海外での展覧会など国内外のアートシーンで評価を受ける。2006年『Newsweek』誌の「世界が尊敬する日本人100」に選出、「MoMA Design store」では自身の作品が販売されている。近著は2022年2月に出版された『100均グッズ改造ヒーロー大集合』(平凡社)。軍手、タワシ、門松、ペットボトル、水引、灯油ポンプ、子どもが風呂で遊ぶ「ぷかぷかアヒル」などの日用品を“ヒーロー”化した作品集。

カミロボは、見立ての世界におけるリアリティがすごい。

▼まずはカミロボで安居さんが大切にされている思いや感じ方について教えてください。

カミロボは“立体の落書き”と捉えてまして。立体のペーパークラフトとして見た場合、そんなにつくり込まれているわけではなく、最低限の立体の中に絵を描くことで成立している。子どものころは、土曜日の午後につくり始めて夕方には完成させる、というサイクルで作っていました。初期衝動が冷めないうちに完成させることがカミロボにおいては大切。材料はお菓子の箱やシャツなどのパッケージに挿入されるボール紙。最近は同じ紙の分厚いものを買っていますが。素朴な質感の厚紙に魅力を感じますね。

プロレスラーに見立てて、2体を同時に戦わせて遊ぶわけですが、関節技のキマり方だったりとか、技を受けたときの衝撃を吸収する感じだったりとか、そのあたりはプロレスのリアリティを表現できているなぁという興奮が子どものころにありました。もちろん見立ての世界なんですけど、質感という意味でもとてもリアルに表現できているんです。それは市販の超合金とかプラモデルでは表現できない、紙だからこそ実現する動きなんです。

戦いを重ねるごとに、紙がヨれていったり塗装が剥がれていったりする。このリアリティもものすごく感じていました。ガンダムやスター・ウォーズのプラモデルに、戦いの傷跡や煤けた汚れを敢えて加えてエイジングするじゃないですか。でもこれは本当の戦いの結果にできた傷なので、そのあたりのリアルさというのは迫力が違うんですね。つまり“見立ての世界におけるリアリティ”はすごく感じていました。

つくりたてのカミロボはまだ紙が堅くて動きもぎこちないんですが、それも生身のプロレスラーと一緒で、新人は動きがぎこちないんですよ。でも紙がこなれてくると、全身が一体化してくる。次第に動きも良くなってきて、スター選手に育っていくという感じがして。6年生のときにつくったカミロボなんかも、どんどん修理はするんですが、齢を重ねていくと「衰えていってるなぁ」という感じがして、紙のロボットなんですが一人の選手がデビューして成長して最後には衰えるという人生のようなものが見えるなぁということにも気がついて。

他人には理解してもらえないと気づいていた

小学生のころにそのことに気づいたんですね。でも「こういう話は友達とは共有できないだろうな」という思いも同時に感じていました。「これに関しては人には言わないようにしよう」と思って。自分が傷つかないように防衛ラインをつくったんです。

▼ご自身がこだわり続けてきたのは「ヤスイ締め」という構造だったことに気づかれたのは、今から10年ほど前だったとのことですが、どんな構造なのか詳しく教えてください。

紙でつくったパーツに穴を開けて針金で締めることで関節が自由に動く、という構造になっています。ヤスイ締めを考え出したのは小学3年生の時です。それ以前の、2年生の時につくったものは針金をねじっただけの骨格のようなロボで、僕の中でそれは”紀元前”です(笑) 

「ヤスイ締め」という構造的な大発明

最初は肩しか動かなかったのですが、その後、肘や膝などの関節を曲げる構造を考えるようになって、5~6年生のときには全身の関節が動くカミロボをつくれるようになりました。両手に持って戦わせるので、1体ずつ片手で動かしてもスムーズに可動する構造が欲しかった。4〜5年生の時にガンプラがブームになって、そのプラモデルの関節の動きなんかが参考になりましたね。紙工作の関節をいろいろ見ているなかでも、自分としてはこれ以外の答えは無いなと思っていました。ギターのチューニングみたいに、緩んだらちょっとだけ締め直すこともできる。壊れたパーツはそこだけ修理できる。全体を分解して締め直すこともできる。ヤスイ締めが完璧だと信じていました。


▼でも、安居さんはカミロボづくりを中学・高校生時代に“封印”したんですよね?

そうなんです。6年生の頃につくったのを最後にカミロボを封印しました。「子どもっぽい遊びは早く卒業すべきだ」と思い込んでいたところはあったと思います。

二律背反の“説明しづらい状況”

小学校のときはまったくのスポーツ音痴で、僕はスポーツできない人間だと思って生きていたんです。で、中学に入ってサッカー部に入ったんですが、中1の終わりぐらいからレギュラーに選ばれたり、体育祭ではリレーの選手になったりして「あれ?おれスポーツできるかも!」と思うようになった(笑) そんなふうに、自分自身が劇的に変化していく過程で、恥ずかしいものを排除していったんだと思うんです、たぶん。でもロボットアニメとか特撮は相変わらず好きだったので、より一層自分の中で説明しづらい状況が生まれた。スポーツする人はそんなオタク趣味には興味がない、というのが当時のステレオタイプでもあったんで。

中学生のころは説明のつくほうのことをやろうとしていた。“大人”になろうとしていた。でも、それは自分にとっての“大人への階段”ではなかったことに高校のときに気づいたんです。

中学のときはやんちゃな(当時でいうツッパリ)生徒が多くて荒れていましたが、そんななかでも「安居は絵や工作がうまい」と、周りにおもしろがってもらえたのは居心地がよかったんです。それが高校に入るとおとなしい生徒が多くて、逆に”おとなしい同調圧力”が強い環境に変わったんですね。そんな環境のなかだと自分はどうしても浮いてしまって、どう振る舞えばよいのか?自分の個性をどのように発揮すればよいか?というのがわからなくなりました。

そんな状況の中だと逆に創作意欲が燃えてきて、サッカー部の仲間と自主映画を作り始めたんです。着ぐるみを使った特撮コント。自分たちの通っていた高校をミニチュアでつくって、そこに怪獣が襲ってくる、みたいな映画です。撮影中は変な被り物をかぶっている姿を遠くから笑われたりもしたけど、自分と同じような思いを持った有志と一緒に好きなことを精一杯やるのがいい、ということに気づいた。上映会ではセリフが聞き取れないくらいどっかんどっかん爆笑が起きて気持ちよかったですね。

ふたりの自分に挟まれていた。

実は小学校のときから、クラスの友達を主人公にした漫画を描いて回し読みしてもらったりもしていたんです。そんな感じで、自分の特技を使って周囲の人たちを楽しませるみたいなバランス感覚も一方では持ち合わせていたんですよね。でもカミロボは人には理解されないとも思っていた。漫画とカミロボは違うんだ、と思い込んでいたんですね。ガンダムのプラモデルをきれいに上手につくったら褒められる。でもカミロボはリアクションしてくれない。でも、その自主映画のときに気づいたんです。カミロボ的な自分だけの世界観と、自分のつくったもので人を楽しませたいというサービス精神は両立するんだ、と。

で、高3のときにカミロボをもう一回つくり始めたんです。「きっとあれ(=カミロボ)は自分にとってとても良いことだったはずだ」と。押し入れから小学生時代につくったカミロボを 引っ張り出してきて、新しくつくったカミロボと対峙させたんです。そうしたら、昔のカミロボたちが、新しいカミロボに対して“先輩”として存在しているような気持ちになった。「あれ!時間が繋がっているぞ!」と。「ここに一つの世界が存在しているじゃないか!?」と。これは自分にとってすごい発見でした。

すでに“世界”は存在していた。

▼キャラクターの設定やストーリーはどのように構成しているのですか?

すでに“世界”が存在していることに気づいたので、キャラクターの設定とかストーリーは自然と生まれるというか、見えてくるんです。

それぞれのカミロボレスラー、その団体の社長、師匠、弟子、ライバル…。そんなキャラクターが自然と物語を生んでいくんです。たとえば『100均グッズ改造ヒーロー大集合』で紹介した日用品人形は、最初は「異素材カミロボ」と呼んでいて、カミロボと異素材カミロボが戦う世界観だったんです。爪楊枝、アルミホイル、石などの素材でつくったロボが、カミロボに戦いを挑んできたという世界。

で、灯油ポンプなんかを素材にしたロボを作ったら、紙以外の素材もおもしろいぞ、と。紙以外の素材も「ヤスイ締め」でつなぐ、という発想。1種類の日用品を複数組み合わせて再構築する、というデザイン遊び。そのおもしろさに気がつきました。たとえばアヒルのキャラクター。胴体、脚、腕という順番でつくって最後に頭をつくるんですが、アヒルの頭を加工することなくそのままアタマに乗っけた瞬間に、ぞわーーーーっとしたんです。一方ではそんなの無粋だろうと思いながらも、得も言われぬ高揚感があった。「そこまでウケたいか?おれ?」という思いはありましたが、自分の感じたそのぞわぞわに従おうという結論に至りました。これをきっかけにして「見たことないようなものを見たい。見たことないようなものを見たときの、その目が感じている楽しさを大切にしよう」と思うようになりました。

最近は宝塚や神社の灯籠にも興味が!?

▼そもそも安居さんが「ロボット」や「ヒーロー」をモチーフにするのはなぜでしょう?

本当はロボットとか特撮がそんなに好きじゃないのかもと思うこともあるんです。突き詰めれば、奇抜な姿をした人が動いているのを見ているのが好き、なんだと思います。

幼少の頃に、正月に獅子舞が来たときにめちゃくちゃパニックになった記憶があるんです。かっこいいけどこわい。咀嚼しきれない感情で、泣くしかない。その日常を突き破る非日常感の興奮がたまらんものであって。ロボットアニメも、それが人のように動いていることが楽しいんです。なので、最近は宝塚歌劇とかオートクチュールファッションを見ているほうが目が喜んでいる。神社の灯籠とかもかっこいいなぁ。

▼よなよなエールとはどのような存在ですか?

個性的な味わいとパッケージなのに、フツーにコンビニとかスーパーに並んでいるという点がすごい。僕の好きなプロレスに置き換えると、メジャー団体の東京ドーム大会のリングに、ちょっと毛色の違う個性的なレスラーが突如上がってきた、みたいな感じです。それってすごいかっこいいことなんですよ。僕は全部を俯瞰してプロレスを観ているのが好きで、国内だけでなく、アメリカにもメキシコにも、いや世界各国に団体がありますが、それらのさまざまな価値観を認めたい。ただリングで試合をするだけなのに、こんなにもいろいろなバリエーションがあるのか!というのが面白いんですよね。

▼今後、よなよなエール(よなよなビアファンド)と一緒に取り組んでみたいことなどあれば教えてください。

僕以外にも僕みたいな方がたくさんいらっしゃるんですよね?(笑) そんな方々とご一緒できると嬉しいなぁと思います。…僕のような者が言うのも「アレ」ですけど(笑)さまざまな力を集結してなにかできれば嬉しいですね。サイボーグ009みたいに、異なる特技をお持ちの方が一緒になにかをやっていく、みたいな。僕単独では思いもよらないことにお声がけいただくというのは好きなんです。

優しい男になりたい。

……いやはや、人々の心を掴むものをつくるアーティストの製作動機は、人生の最も辛い瞬間に起因するのかもしれません。
自らがつくったカミロボが、自然とキャラクター性を背負い、物語を編み上げていく。作者である安居さんご自身も、ひとりの住人としてその“世界”を俯瞰しながら一喜一憂する。安居さんは、決して“世界”をつくっているわけではないと自ら認めるいっぽうで、“世界”が生まれるきっかけはつくっているという自負は確実に持っています。……うーん、何でしょうか? もしも「神様」が万物を創造したとしたのなら、その神様も安居さんと同じような感覚で今の地球を眺めているのでしょうか?  ご自身の創造の賜物にも明確な人格を認めるという姿勢を貫く安居さんに、とてつもない優しさを感じました。こんな優しい男になりたい。

「よなよなビアファンド」では、これからも新しい“よなよな人”の発掘や、“よなよな人”への支援を行っていきます。これからの「よなよなビアファンド」も、お楽しみに!

よなよなビアファンド公式Twitter(@yona2_beerfund)
よなよなエール/ヤッホーブルーイングのよなよなビアファンド公式アカウントです🍺知性と偏愛を持った愛すべき変わり者(=よなよな人)をビア投資で応援しています。よなよな人との活動や、ビアファンドプロジェクトの様子などを発信。
「出る杭に心打たれる。」愛すべき変わり者であふれた世界をつくりたい。

(おわり)

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