下北で日本酒飲んだらベロベロになって失踪した

友達とめずらしく下北沢で飲むことになった。

「下北沢」

それは東京にあるオシャな街。

いつも横浜で普段着でしか飲んでいない僕は、久しぶりの東京オシャ飲みにワクワクしながら、仕事終わりに普段着で出かけて行った。

街に着くと、そこは自分が覚えていた、あの学生時代に通った(意味:二、三回来たことのある)下北沢とは全然違っていて、いい意味でスッキリと、悪く言えばゴチャッと感がなくなった、そんな感じの駅前になっていた。

しかしそこは下北沢。駅の真ん前にある「世界中のオシャを集めました!」みたいなオシャな店の中には「下北沢にいそうな人の詰め合わせ」みたいなグループがオシャに飲んでいたりして、期待を裏切ることのないオシャ度にワクワクしながら、友達と適当に空いてそうなお店に入った。

僕らが入ったお店は全然オシャじゃない店だった。横浜でもオシャじゃない方に含まれそうなほどオシャじゃない店だったが、当然僕はオシャでなければないほど好きなタイプなので(なぜ下北にきた)、落ち着くわ〜なんて思いながらお酒を注文した。

その日のメンツは「冬ちゃん(仮名)」と「ホルモンちゃん (仮名)」である。

もともと僕とはそれぞれ別の友達経由で友人になった二人が、実はお互いが友達であることが判明し、世間は狭いねえなんて言いながら、たまーに集まって飲むという関係性である。

そして二人とも酒が強い。冬ちゃんは僕がこれまで出会った人間の中で一番酒が強いと思う。色々武勇伝を聞くと強そうだなって思う人はたくさんいるが、実際に目の前で酒を飲んでいてこいつはやべえってなるのは彼女ぐらいである。

これまで幾度なく飲み会にてこいつを潰そうと企画をし、もれなく返り討ちにあって地獄を見るというのを繰り返してきた。

ホルモンは酒が好きな女である。

飲み会で騒いで飲むっていうよりも、居酒屋のカウンターで日本酒をうまいうまい言いながらひたすら飲み続けるタイプの酒好きである。

ホルモンの職場が下北沢のため、仕事終わりのホルモンを待ちつつ冬ちゃんと飲む。そしてホルモン合流、合流してから飲み放題にしてもらって、とりあえず好きなお酒を各自頼みつつ、別に日本酒で乾杯しようということになり、ヤカン日本酒というものがあったので手っ取り早いということでこれを頼んだ。

日本酒が来た。飲んだ。まずい。ものすごくまずい。不味いというかまずい。よくない。これはまずい。ものすごく悪酔いをしそうな味がする。

日本酒の体に悪いところを凝縮したような液体である。安い店の飲み放題のヤカンでくる日本酒である。まさに日本が誇る最底辺の日本酒。

しかし今日は前から飲もうと約束をしていた日であり、三人全員が翌日休みという奇跡の日であった。

というかホルモンは元々休みであり、冬ちゃんと僕はそのホルモンに合わせて、わざわざ翌日休みを取って集まっていたのである。

僕は終電で帰るつもりだったが、二人が全く帰る気がないことが早々に判明し、ホルモンの合流が予定よりかなり遅くなったこともあって、帰るのを早々に諦めた。

家に帰らなくていいなら、もうどうでもよくなるものである。

お酒をひたすらにあおった。特に理由なく乾杯する。ひたすらヤカンからお猪口に酒をつぐ。あける、つぐ、あける、つぐ、、、

もうなんかよくわからなくなってきた。ホルモンがずっと「まずい、飲みたくない、てか量が多い、もっと少しにしてくれ」と騒いでいる。

ホルモンの集合が予定より遅れたのは仕事が忙しく、バタバタしていたからであった。故に、今日もめちゃくちゃ疲れているということである。

身体的にも精神的にも、疲れており、ストレスが溜まっている時は酔う。非常に酔う。バカみたいに酔う。

そして身体的にも精神的にも疲れていないが、僕は酒を飲むと酔う。というか酔うまで飲む、一気に駆け込むのが大の得意である。

そして冬ちゃん。こいつはバカである。典型的な酒カス。人間の常識をはるかに超えたスピードで乾杯を促してくる。あっという間にヤカンが空いていく。

もうすでに意識は朦朧である。ある、確かに意識はあるが、明確に自分が酔っているという認識がある。

トイレに行きたくなる、視界が揺れる、トイレに行くために席を立つのが億劫である。

何個めのヤカンなのか、全くわからないがヤカンの中身がなくなる。

そうすると店員のお姉さんがラストオーダーを告げてくる。

古来より、飲み放題のラストオーダーには自分が飲む量の3倍を頼むべしという言い伝えがある。

その教えに従って酒を頼む。もう少しだって飲みたくはないのにヤカンを二つ頼む。

気づいたら閉店なんで出てくださいって言われる。もう3回ぐらい言われた気がする。なんなら店に残っているのは我々だけだ。会計は終わったのか、よく分からないが店に迷惑をかけてはいけない、外に出よう。

外に出て次行こうとなる。もう次も何も、全くもってベッコベコに酔っ払っているが、行こうではないか、だってどうせ帰れないし。

気づいたらホルモンが知っている店の前にいる。やってるから入ろうとなる。入る。テーブルにつく。酒を頼む。

次のうっすらとした記憶は日本酒をたっぷり注いだお猪口を持って微笑む冬ちゃんの顔。

次の記憶は店のトイレに向かう道。あ、これは無理だな。そう思ったことは覚えている。

次のシーンはトイレの中の自分である。吐いている自分を認識する。汚さないようにしなくちゃ、そう意識が働く、のち混濁。

その次のシーンは席に知らない三人がおり、なんかよくわからんが楽しくおしゃべりをしている。若い、どうやら大学生のようだ、男二人、女一人が終電がないからタクシーがなんちゃらみたいなくだらない話をしている。

結局そのうちの男一人は残り、冬ちゃんと一緒にそのまま飲む。飲みながら思う、あれ、待てよ、ホルモンがいないぞ?ホルモンはどこいった?

友達になった男(ヌーちゃん(仮名))がトイレまで見てきてくれるがいないという。なんだって、大変だ、ホルモンが失踪した。

席には鞄も財布も携帯も鍵もある。こりゃ大変だ、失踪事件だ。

とにかく店の周りを探しに行こうということで、あたりの区画を歩き回る。ホルモンが働いている店にいるかもということで店の前まで行ってみるが全然いない。

そこで諦めることにする。だっていないんだもん。

一旦店に入ろう、飲んでから考えようということになって、適当な店に入って三人で酒を飲む。初めましてのヌーの話を聞く。

ここら辺でようやくずっと断片的だった意識がはっきりとしてくる。やっと酔いが落ち着いてきた感覚がある。

話を聞く限りは、自分は2件目店のトイレから帰ってきてからは席で潰れていたらしい。へーそうなんだ、なんて人ごとのように話を聞く。

ここで冬ちゃんが持っていたホルモンのスマホが鳴る。相手はホルモンで、さっきの店で電話を借りてかけているらしい。

見つかった見つかったというので、会計を済ませてさっきの店に向かう。店の前で汚い酔っ払いの女を見つける。ホルモンである。

どうやら自分の働いているお店のトイレで吐いていたという。着ている服がくせえくせえと言う、そりゃお前さん、ゲロだよ、なんて言い合う。

くせえから着たくねえとホルモンが言うから、とりあえず自分の上着を貸す。

金もなかったくせに水を持っているホルモン、聞けば道であった兄さんが買ってくれたんだって。その兄さんともすれ違う、ありがとうございます、なんて言い合う。

そんなこんなで時計を見るともう始発まで30分である、よっしゃ帰るかって僕が言う。当然、これは当たり前のことで、まさか反論されるなんて思ってない、当然の当然で、ホルモンも見つかったし、始発で帰れるねって。

誰かがカラオケに行きたいっていう。僕は耳を疑う。これは幻聴に違いないと思う。しかしまた聞こえる。カラオケに行こうぜってなる。

気づいたらカラオケの前にいる、1時間だけ歌うことにする。

席に着くと横にヌーがいる。そう、ヌーはずっと俺たちと一緒に行動しているのである。旅は道連れ、そんな言葉が頭をよぎる。

そんなヌーのカバンからウィスキーのボトルが出てくる。カバンに入れるタイプの大きさじゃない、しっかりとした大きさのボトルが出てくる。

これ幸いと飲むことにする。今考えると目を疑うような状況だが、その時はなんとも思わなかった。やったーウィスキーあんじゃん。

歌うたびに飲む。歌う、飲む、飲む、歌う。

全員に飲ませてたらあっという間にウィスキーがなくなる。今冷静に考えたら、ホルモンにもめちゃくちゃ飲ませた記憶がある、ひでえことしちゃったな。

結果再度ベロベロになったところで終了の時間となる。くたくたである。

そのまま電車に乗って帰ることにする。ヌーとは連絡先を交換し、また必ず飲もうぜと約束して別れる。ホルモンもそこでバイバイ。

冬ちゃんとは途中まで電車が一緒だったので隣に座って帰る。

朝の電車内で冬ちゃんと恋愛について話ながら帰る。朦朧とした意識の中、こいつまじ声でけえなって思っていたことを覚えている。バカみたいに大声で恋愛観を話していた。平日の朝7時とかに。奴も酔っていた。そんで冬ちゃん最寄りについてバイバイ。

乗ったのは急行だったのだが、最寄りまであと4駅のところらへんで猛烈にトイレに行きたくなる。

しかし時間も時間であり、トイレのために降りていると次の急行までしばらく待ちそうである。一刻も早く家に帰りたい自分としては、なるべく最寄りの横浜駅でトイレに行きたい。

でもトイレに行きたい。しかもかなり行きたい。あと2駅ぐらいの時にすでに脳が危険信号を発信し、思考が鈍り始める。

トイレ、でも横浜まであと2駅、でもこれ我慢できるのか?ちょっともう完全にお腹痛い、膀胱がすごい、ダメかも、待って考えるな、違うこと考えよう、いま漏らしたらどうなるんだろう、いや考えるな、落ち着け、、

横浜駅で電車を降りた僕の目は血走り、朦朧とした意識の中でトイレまでの最短ルートのことだけを考えて歩いた。

駅のトイレで放尿したその瞬間の開放感と言ったら、文句なく今年ナンバーワンの放尿であった。

家に帰り、改めての今日一日を振り返る。大変な1日であった。そして驚くことにその時まだなおベロベロであった。

寝た。

翌日は鬼のような二日酔いで一日が潰れた。

最高の飲み会だった。

現場からは以上です。


@yohjihonda fdy.incというアパレルブランドの代表をしています。@fdy_inc SenveroOnDemandという飲み会を企画しています。