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卒業、生徒諸君に寄せる、宮沢賢治

この時期になると前職のNPOの卒業式を思い出す。その度にこの詩を読み返し賢治はやっぱりすごくて遠い存在だということを学ぶ。
自分が学生の頃に読んで感銘を受けたので共有します。卒業する人もしない人もぜひ読んでください。

詩集では完成されている詩になっているのですが、もともとはこのような断片的な詩であったといいます。青空文庫とかで読めるので読んでみて下さい。読みやすいです。

元々教師をしていた宮沢賢治が生徒に贈った詩とされていますが、生徒に対する希望・願い・感謝が賢治らしい表現で綴られています。
あえて私からこれ以上コメントすることもなく、そのまま詩を読んでみてほしいです。

大変な時期ではありますが皆さん卒業おめでとうございます。卒業という区切りで何か大きな決断があった方が多いと思いますが、その決断をする行為が素晴らしいことだと思います。


生徒諸君に寄せる

〔断章一〕
この四ヶ年が
    わたくしにどんなに楽しかったか
わたくしは毎日を
    鳥のやうに教室でうたってくらした
誓って云ふが
    わたくしはこの仕事で
    疲れをおぼえたことはない

〔断章二〕
   (彼等はみんなわれらを去った。
   彼等にはよい遺伝と育ち
   あらゆる設備と休養と
   茲には汗と吹雪のひまの
   歪んだ時間と粗野な手引があるだけだ
   彼等は百の速力をもち
   われらは十の力を有たぬ
   何がわれらをこの暗みから救ふのか
   あらゆる労れと悩みを燃やせ
   すべてのねがひの形を変へよ)

〔断章三〕
新らしい風のやうに爽やかな星雲のやうに
透明に愉快な明日は来る
諸君よ紺いろした北上山地のある稜は
速かにその形を変じよう
野原の草は俄かに丈を倍加しよう
あらたな樹木や花の群落が
   、
   、
   、
   、
   、

〔断章四〕
    諸君よ 紺いろの地平線が膨らみ高まるときに
 諸君はその中に没することを欲するか
 じつに諸君はその地平線に於る
 あらゆる形の山岳でなければならぬ

〔断章五〕
サキノハカ、、、
             来る
それは一つの送られた光線であり
決せられた南の風である、
諸君はこの時代に強ひられ率ゐられて
奴隷のやうに忍従することを欲するか
むしろ諸君よ 更にあらたな正しい時代をつくれ
宙宇は絶えずわれらに依って変化する
潮汐や風、
あらゆる自然の力を用ゐ尽すことから一足進んで
諸君は新たな自然を形成するのに努めねばならぬ

〔断章六〕
新らしい時代のコペルニクスよ
余りに重苦しい重力の法則から
この銀河系統を解き放て

新らしい時代のダーウ※[#小書き片仮名ヰ、302-13]ンよ
更に東洋風静観のキャレンヂャーに載って
銀河系空間の外にも至って
更にも透明に深く正しい地史と
増訂された生物学をわれらに示せ

衝動のやうにさへ行はれる
すべての農業労働を
冷く透明な解析によって
その藍いろの影といっしょに
舞踊の範囲に高めよ

素質ある諸君はたゞにこれらを刻み出すべきである
おほよそ統計に従はば
諸君のなかには少くとも百人の天才がなければならぬ

〔断章七〕
新たな詩人よ
嵐から雲から光から
新たな透明なエネルギーを得て
人と地球にとるべき形を暗示せよ

新たな時代のマルクスよ
これらの盲目な衝動から動く世界を
素晴しく美しい構成に変へよ

諸君はこの颯爽たる
諸君の未来圏から吹いて来る
透明な清潔な風を感じないのか

〔断章八〕
今日の歴史や地史の資料からのみ論ずるならば
われらの祖先乃至はわれらに至るまで
すべての信仰や徳性はたゞ誤解から生じたとさへ見え
しかも科学はいまだに暗く
われらに自殺と自棄のみをしか保証せぬ、

誰が誰よりどうだとか
誰の仕事がどうしたとか
そんなことを云ってゐるひまがあるのか
さあわれわれは一つになって〔以下空白〕

青空文庫より抜粋。
https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/47029_46743.html



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