【インタビュー】「また着よう」と思ってもらえるものをつくること。それだけを一生懸命、それだけを考えてます。|株式会社ショーワ会長・片山雄之助
1941年創業の株式会社ショーワ。岡山県倉敷市児島にて、糸の染めと織りを一貫して行うデニムのテキスタイルメーカーです。
今回新たに発表した「ナイロンデニム」をはじめ、これまでもさまざまな素材開発にチャレンジしてきたショーワ。そんなショーワのものづくりの精神を先代より引き継いできた現会長・片山さんにお話を伺いました。
「ナイロンデニム」開発ストーリーはこちら↓↓↓
江戸から続く繊維産業の歴史
山脇:
このたびショーワさんが新しい素材「ナイロンデニム」を開発されたということで、今日は会長の片山さんにショーワの歴史やものづくりへの想いについてお伺いできればと思います。よろしくお願いします。
片山:
はい、よろしくお願いします。
山脇:
ショーワの会社があるのは、国内デニム産地の中でも児島(※)という地区に当たりますが、ここは海も近くて、景色も良くて、こういう気候とか風土の中にジーンズづくりがあるというのはすごい素敵だなあと思います。(※)現在の岡山県倉敷市児島地区
片山:
先週ドイツからバイヤーさんが来られましてね、西側の工場を案内したら「とても気持ちが良い」と褒めてくださって。
あそこは非常に気持ちがいいんですよ。ちょうどそのときにね、警察署の署長さんが転任の挨拶に来られていて、署長さんも気持ちがいいですねーって言っておられたから、とても誇らしい。
北風の当たらない、しかも朝日が見える方角を見ながら工場の中までちゃんと光が通るような設計で建物をつくったんです。
最近繊維産業が盛んになってきているスイスなんかもね、いま工場立地としては眺めのいいところが好まれるそうで、やっぱりものづくりする上で環境はとても重要だと思います。瀬戸内の海が近いというのは良い。
山脇:
本当にそう思います。サイトを拝見すると株式会社ショーワは1941年設立とありますが、同時に創業100年以上とも書かれています。これはどういうことでしょう。
片山:
この児島地区というのは江戸時代の中期から繊維産業が発展してきたんです。ショーワの前身ができたのもそのとき。なので織物業を始めた頃から100年以上経過しているこということです。
山脇:
そうしたら、片山会長で何代目になるのでしょう。
片山:
私で4代目、現社長の高杉くんで5代目ですね。この会社を継ぐ前はちょうど戦時中で、国策として国から指定されたものをつくり続ける日々でした。
戦争が終わっても、1953年頃までは軍需物資を優先していて、一般家庭向けの製品はほとんどつくっていませんでした。
だから現在のように自由なものづくりができるようになったのは、割と最近の話なんです。
自作した設備でテキスタイルメーカーの道へ
山脇:
そうだったんですね。いまは糸の染めから生地を織るところまで自社で一貫生産されているショーワですが、このような形態になったのはいつ頃ですか。
片山:
1976年のことですね。当時は世の中的にジーンズブームで、供給が需要に追いついていませんでした。私たちの会社も産地の中で要請される形で染めを始めたという次第です。
とはいえ、やったこともない染めを仕事として受けるのは簡単なことではありませんでした。そもそも染めの設備は市販のものが存在しなくて、いちから自分たちでつくらないといけないんです。
まず設備を完成させるのに丸4ヶ月かかりました。中古の部品をその辺で買ってきて、組み合わせて、つぎはぎだらけの機械になりました。
めでたく完成した1号機は当然最初からうまく動くはずもなく、改良を加えるのにまた数ヶ月、、、。
足掛け1年くらいかかって、ようやく仕事として受注できるレベルに到達しました。大変でした。笑
山脇:
設備をいちから自社でつくるなんて、いまの時代からしたら考えられないです笑 染色と織りを一貫生産する業態は当時も今も珍しいのでしょうか。
片山:
珍しいというよりほとんどなかったですね。今も全国でショーワを含め数社だと思います。
感性で良いと思ってもらえる生地を
山脇:
70年代80年代が過ぎ、国内の繊維産業は徐々に規模を縮小していきまます。そんな中でショーワとしてはどういう思いだったのでしょう。
片山:
海外工場との競争が始まり、大量生産型のものづくりが通用しなくなってくる中で、ショーワとしてはなんとか生き残っていかなければならないと必死の思いでした。自分たちがものづくりする価値をちゃんと残そうと。
価値、というと勘違いされるかもしれないのですが、私が考えているのは物理的な価値ではなく、文化的な価値。世の中としてもそれが要求されてると思います。
山脇:
「物理的価値」と「文化的価値」。その違いを伺いたいです。
片山:
物理的な価値は技術力によってつくり出せる部分。ショーワの生地でいえば、試験や検査をして、耐久性は大丈夫か、キズはないかとか、市場に出せるものであるか測る指標であって、逆に言えばそれに過ぎない。
そういった価値指標でなく、見た目の良さ、触った感じの良さ、など感性に訴えかける部分、良いなあと心で感じでもらえる部分、そこに値打ちがあると考えています。
山脇:
なるほど、それが文化的価値であると。
片山:
だから、ショーワの生地でつくった服を着てみたときに「ああ、いい感じがする」とか、だから「今日も1日これ着て頑張ろう」という気分になるとか、心、感性が豊かになるということが非常に大事だと思います。
「ああ、着たけどつまらんなあ」「他にないから仕方がねえわ着るわ」というような服をつくったのではいけないと思う。
ああこれはいい、また着ようと思ってもらえる。そういうものをつくることだけを考えてます。一生懸命、それだけを考えてます。
大切に引き継いできたから
山脇:
会長がそのような思いでいまもものづくりされているのは、どういったところに原動力があるのですか。
片山:
この思いは単に私から始まったものではないんです。昔からショーワはずっとそうだった。先代も、先先代も、そうやってずっとやってきた。
他社からは「あんたの会社、昔から織物の値段高いんじゃからな、いまも高く売っとるかい」って発破をかけられながら、、、笑
先輩たちの残した技術なり、ものづくりの姿勢を、やっぱり自分も次の世代へ引き継いでいかないといけないと思って、そのためには、良いものを作り続けないといけないんです、挑戦し続けないといけない。
デニムという形に想いを残していかないといけない。だから私、工場の職人がつくる生地を見て未だにやかましく言うんです、「なんだこれは」ちゅうて。笑
山脇:
現社長の高杉さんを始め、次世代のメンバーも気が抜けませんね笑
心のこもった製品をつくり出すため
片山:
糸を染めて、生地を織るまでの工程で、携わるすべての人に高いレベルが求められる。その努力は大変です。
心のこもった、精神の入った製品をつくり出すためには、毎日仕事をしながらモノの良し悪しについて考える必要がある。
やがて「考える」から「一目で見てわかる」までにならないといけない。
難しいことだと思います。
山脇:
僕も初めてショーワさんへお伺いしたときから、これまでずっとたくさんの美しい生地を見せていただいてます。
「どうやったらこういうものができるのか」という以前に、「どういうものをつくっていこうと思っているのか」という点に関心があったので、今日お話を伺うことができて本当によかったです。
僕がいま26歳なんですけれど、さっき会長がおっしゃったような、「着ていて心地よくなるものと、その思い」は今の若い人たちにも絶対届くと思います。
だからこれからも、この哲学を持って続けていただけると嬉しい、というか、一緒に頑張りたいなと思います。
片山:
私が今年で84歳。山脇くんより60くらい歳上やね。ということはあと60年はまだまだ仕事頑張らないけんよ。楽しいと思うよー、これから。
山脇:
ありがとうございます、ぜひ。笑
語り手:株式会社ショーワ会長・片山雄之助
聞き手:EVERY DENIM共同代表・山脇
写真:Kenta Kaneda