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中学受験/高校受験/大学受験の模試間の偏差値変換モデル

ここ数回で、大学受験の早慶本命率や高校の難関大学進学率を分析してきました。これらの分析で、次の考察結果を得ています。

  • 高校入試時点でみた大学入試の早慶のレベル(本命率からの算定)
    =駿台中学生テストの確実圏偏差値で60.5の高校

  • 高校入試時点でみた大学入試の早慶のレベル(難関大学進学率からの算定)
    =駿台中学生テストの確実圏偏差値で60.5の高校

  • 中学入試時点でみた大学入試の早慶のレベル(難関大学進学率からの算定)
    =志望校判定サピックスオープンの80%偏差値で57.5の中学

ここまでデータが揃うと、中学受験/高校受験/大学受験の模試の間での偏差値変換モデルが作れそうです。受験時期も試験も違うので、本来は偏差値の比較も変換もできないのですが、それぞれの模試の受験母集団の学力レベルが近いのであれば、その中の相対学力を示す偏差値は比較可能になるとも考えられます。

そこで、今回は中学受験/高校受験/大学受験の模試の間での偏差値変換モデルに挑戦してみます。

0. 結論

志望校判定サピックスオープン(中学受験)、駿台中学生テスト(高校受験)、駿台全国模試(大学受験)のそれぞれ偏差値55前後では、「駿台全国模試の偏差値≒駿台中学生テストの偏差値≒志望校判定サピックスオープンの偏差値(誤差1程度あり)」となる。

1. 大学受験の早慶の学力レベル

一般入試を対象として、駿台全国模試の偏差値を比較指標として採用ます。B判定偏差値(2023年7月調査)を基準としますが、大学・学部・学科で入試科目と文系・理系の母集団が異なるので、同一の比較には、これらの差異の補正が必要です。この補正については、過去の分析結果に基づいて、科目数ー1に対して偏差値+1を行い、さらに文系はー1、理系+1を行うことにします。

早稲田と慶應のそれぞれで、学部・学科の定員に基づく加重平均を計算すると、次の表のB判定(60%)の列となります。

表1

B判定の隣の列のA判定(80%)は公開されていないのですが、ネットに出ている情報を参考にして、早慶はB判定+4で推定しています。赤枠の合格者平均推定は、過去に早慶の受験者・合格者・入学者の分布モデルを作った際のデータを利用して、B判定−3で計算しています。

計算の結果、大学入試の難易度は、駿台全国模試の偏差値(3科目・文理補正後)で、早慶の合格者平均は56.2となりました。過去記事の早慶の合格者平均値(54.1)は5科目基準で算定していたため、科目補正の差異が出ています(小数点以下の差は定員加重平均の影響)。

2. 模試の母集団の学力レベルの考察

①大学受験

大学の一般受験での早慶の合格者平均偏差値は、駿台全国模試(3教科・文理差なし)の偏差値56.2でした。言い換えると、「大学受験における早慶合格者は、駿台全国模試の平均偏差値56.2となる標本に相当する」と言えます。

②高校受験

過去2回の分析から、早慶本命率と難関大進学率のどちらで考えても、確実圏偏差値60.5の高校が大学受験の早慶レベルと言えます。

次に、この母集団の合格者平均偏差値を推定します。駿台中学生テストの合格者平均については、過去に複数の高校の合否偏差値分布を掲載していたブログがありました(現在は掲載なし)。例えば、慶應義塾高校は確実圏64.6、可能圏59.2に対して、合格者平均は57.8(2022年)だったようです。

ブログに掲載されていた当時に、合格者平均と確実圏・可能圏との差を概算したところ、合格者平均は確実圏−6、可能圏−2でした。そのため、確実圏偏差値60.5の高校の合格者平均偏差値は、60.5-6=54.5とします。

ただし、この確実圏偏差値60.5を算定した母集団は5科目受験の学校が大半であり、今回の比較基準である3科目に補正が必要です。その場合、3科目基準の合格者平均偏差値は54.5+2=56.5となります。

これにより、「高校受験における大学受験の早慶合格レベルの標本は、駿台中学生テストの偏差値で合格者平均56.5の高校に相当する」と言えます。

③中学入試

過去の分析では、志望校判定サピックスオープン(以下、SAPIX)の80%偏差値で57.5の中学が早慶レベルでした。SAPIXの合格者平均偏差値は80%偏差値−2くらいにあるようなので、「中学受験における大学受験の早慶合格レベルの標本は、SAPIXの偏差値で合格者平均55.5の中学に相当する」と言えます。

3. 模試間の偏差値変換モデル

これで、大学入試の早慶合格レベルの同じ学力を有する標本を3つ定義できました。いずれも、3科目の文理差なしの基準です。

  • 大学受験: 駿台全国模試の平均偏差値56.2の標本

  • 高校受験: 駿台中学生テストで平均偏差値56.5の高校(=標本)

  • 中学受験: SAPIXで平均偏差値55.5の中学(=標本)

高校受験の標本は都立西、国立、横浜翠嵐、浦和などに相当し、中学受験の標本は吉祥女子、浅野、市川、武蔵などに相当します。

もちろん、これらの学校の上位層は東大や京大に合格します。それは、大学受験の早慶合格者も同様で、学力上位の早慶合格者には東大・京大などの併願も含まれています。あくまで、早慶合格レベルの学力を持つ学校(=標本)の平均偏差値がこちらの数字であり、その標本の中では平均の上下に分布しているのです。同様に、早慶合格者の標本についても、平均の上下に実際の合格者は分布しています。

さて、この学力レベルを有する高校は複数存在しており、各高校の難関大進学率(地帝・早慶以上)は凸凹しています。しかし、中心極限定理により、これらの学校(標本)の平均偏差値(標本平均)は正規分布し、平均偏差値の平均値は母集団の平均に一致するはずです。これは中学においても同様です。

そして、そのどちらの母集団も、それぞれの模試の中では1つの標本であり、大学受験での早慶合格者という標本の学力レベルと同等の標本です。つまり、早慶合格者の標本=駿台全国模試の平均偏差値56.2の受験者標本=駿台中学生テストの平均偏差値56.5となる受験者標本=SAPIXの平均偏差値55.5となる受験者の標本です。

そして、これを読み替えると、「早慶合格者が過去に3つの模試を受験していた場合、その平均偏差値は、駿台全国模試:56.2、駿台中学生テスト:56.5、SAPIX:55.5である」と言えます。これを変換式で表現すると、「駿台全国模試の偏差値56.2=駿台中学生テストの偏差値56.5=SAPIXの偏差値55.5」となります。

表3

ここで、駿台全国模試56.2と駿台中学生テスト56.5の差異は1%未満です。過去の分析で、駿台全国模試と駿台中学生テストの母集団の学力レベルは同等と見なせることもわかっています。同様に、駿台全国模試56.2とSAPIXの差異も1%程度です。統計的な検証は必要ですが、この2つの模試の母集団の学力レベルは同等と見なしてよいと考えます。

これらの考察を総括すると、3つの模試の偏差値55前後では、「駿台全国模試の偏差値≒駿台中学生テストの偏差値≒志望校判定サピックスオープンの偏差値(誤差1程度あり)」となります。

4. 最後に

今回の考察で、誤差1くらいを許容すれば、駿台全国模試=駿台中学生テスト=合否判定サピックスオープンという変換モデルを作れました。これがあれば、「早慶MARCHに入学するのは、中学・高校・大学で難易度が違うのか?」や「高校募集も行う中高一貫校には、中学と高校のどちらで入学すべきか?」などの疑問に見解を出せます。

次回以降は、このモデルの検証も兼ねて、上記のよう命題について考察しようと思います。


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