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仕事に役立つSF思考④再利用と進化 「ハイペリオン」

早川書房の「世界のリーダーはSFを読んでいる」にあやかって、「日本企業のミドルリーダーもSFを読んでいる」というシリーズで、仕事の役に立ったSF的な考え方(SF思考)を紹介しています。

第4弾(最終回)は「再利用と進化」。紹介するのは、ダン・シモンズの「ハイペリオン」です。今は文庫版が上下巻に分かれて販売されています。

この作品はシリーズ4部作の第1作目です。この作品もかなり複雑なのですが、第2作目以降はさらに複雑になります。挫折しかけました。

とはいえ、第1作目の本作は秀作です。何が素晴らしいかというと、1つの物語の中に複数の物語を入れる枠構造の形を取りながら、それぞれの物語が古今東西の小説のパターンを模倣したり、SFアイデアを軸にした作りになっているのです。

20年前くらいに読んで、本が手元にないので、うろ覚えで間違っているかもしれませんが、こんな感じでした。

  • 第1章:司祭の物語 →異文化コミュニケーション。日記形式の叙述調。

  • 第2章:兵士の物語 →スペースオペラ。ハインラインの「宇宙の戦士」。

  • 第3章:詩人の物語 →老いた詩人の人生ドラマ。随筆調だったはず。

  • 第4章:学者の物語 →余り覚えてないけど、たしかファンタジー。

  • 第5章:探偵の物語 →サイバーパンク。ギブスンの「ニューロマンサー」。

  • 第6章:領事の物語 →ウラシマ効果。ガイナックスの「トップを狙え」。

作品全体では、4部作の中で仕込まれた伏線が収束していきます。それはそれで面白いのですが、当時の私が驚いたのは、過去の小説のパターンやSFアイデアを再利用し、それに新たな要素を付け加えている点でした。

よく考えてみれば、SFアイデアは20世紀後半でほぼ出尽くしています。小説のパターンもいくつもあるわけではありません。しかし、今でもSF小説が面白いのは、そうした定石に作者がプラスアルファのアイデアを付け加えて、新たな作品を作り出しているからです

つまり、SF小説は、過去の蓄積を再利用しながら進化しているのです。そして、この「再利用と進化」というSF思考は、仕事でとても役立ちます。

では、どう役立つか、自分の経験をもとに説明します。

再利用


経営戦略を立案する仕事を長年やってきました。経営戦略と聞くと、凄い知識や知恵が必要な高度な仕事と思われるかもしれません。でも、実際はそれほど高度な仕事ではありません。

基本はシンプルです。外部環境を理解して、内部環境を把握、経営課題を特定して、それに対する取り組みを導出するだけです。

そして、この「外部環境の理解」、「内部環境の把握」、「経営課題の特定」、「取り組みの導出」には、先人達が考え出した色々な定石があります。

  • 外部環境の理解:一般的なマクロ経済分析、ポーターのファイブフォース、プロダクトポートフォリオ(市場成長率と市場シェア)など

  • 内部環境の把握:プロダクトポートフォリオ(市場成長率と自社利益率)、社員の人口ピラミッド予測(人口統計分析)など

  • 経営課題の特定:一般的な財務分析、SWOT分析など

  • 取り組みの導出:他社の経営戦略のケーススタディ、M&A・アライアンス、事業再編・清算など会社法スキームなど

経営戦略の構築は、自社が目指したい姿(ビジョン)に向けて、こうした経営の定石を「再利用」して作り上げるのが一般的です。これは、SF作品が過去のSFアイデア・小説のパターンを再利用するのと同じなのです。

進化

ところが、経営戦略を作っただけでは、成果は出ません。また、外部環境や内部環境は変化するので、永続する経営戦略はありません

ここで必要になるのが、「進化」の発想です。

①自社の社員が実行する内容への進化
他社の経営戦略と実行計画を、自分の会社にそのまま当てはめることはできません。社員が違うからです。自社の文化・風土・DNAを理解して、社員が納得する内容に進化させて発信する必要があります。また、最新のテクノロジーなども取り入れて、効率的に実行できる内容に進化させる必要があります。

②環境変化に合わせた継続的な進化
経営の定石は年々増えていますし、過去の定石もブラッシュアップされています。また、テクノロジーも進歩しています。さらに、社員も世代が変わり、価値観が変わっていきます。経営の安定や持続的な成長には、そうした動向にアンテナを張り、用いる定石を少しずつ進化させることが必要になります。

これはSF作品の「進化」と同じです。SF作品は、社会や科学の進歩に合わせて、ターゲットとする読者の変化に合うように、SFアイデアの定石も少しずつ変えています。

例えば、ロボット、タイムトラベル、コミュニケーション、サイバースペースなども、20世紀の作品と21世紀の作品では内容が変わっています。

SF作品の進化と同じような発想で、経営戦略も過去の定石を再利用した上で、自社や時代に合わせて、進化させる必要があるのです。

まとめ

SF作品には、アイデアやストーリーの定石があり、それを再利用されています。そして、SFは科学技術を扱うことから、社会や科学の進歩に合わせて、その内容を進化させています。

この「再利用と進化」のSF思考は、経営戦略を構築し、実行に落とし込む時に役立ちました。最初は意識していたわけでなかったのですが、振り返ると、SF思考が土台にあったことに気づいた感じでした。

この「再利用と進化」のSF思考は、時代が異なるSF作品を何冊も読むと、なんとなく身につきます。20世紀中盤、20世紀後半、21世紀の3区分くらいで、代表作品を是非読んでもらえればと思います。




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