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灯台守

「こいつぁいけねぇ‥」
灯台守はピカピカに磨かれた真鍮の望遠鏡で
朝の漁から
船が全部帰ったことを確認すると
急いで灯台の灯りを消した

今夜は満月だ
おまけに季節外れの大風ときたもんだ
時化るぞ


灯台守は誰より海も町のことも知っていた
灯台守には代々続く三つの約束事がある

灯台の手入れを怠らないこと
灯台から出ないこと
灯台の鍵は閉めないこと


漁から帰った漁師たちが
「おぉぉい!今夜は酒盛りだ!一度っくらい顔出してもいいだろぉ!」
「お疲れさん。おれは遠慮しとくよ」
「こちとら海風で冷えっちまった!あとでおっかぁ達に持ってこさせっから!」
「いつもありがとよ。あんまり深酒するとまた怒られっぞ」
「毎度のことよ!わはははは!」

灯台守のところへ漁師のおっかぁ達が毎日
入れ替わり立ち替わり食事を届ける
「灯台守さん、いつもありがとさんねぇ
今日は冷えっからあったかいうちに食べてな」
「いつもありがとよ。みんなの無事が何よりだ」
「ほんとにねぇ。まぁた深酒叱らなくっちゃ!あはは!」
「ほどほどにな」
「あいよ!また頼むね!」

おっかぁ達は大忙しだ
いつ時化るか分からねぇ
大漁の時に塩漬けしたり干したり
畑の手入れに
穫れた作物を地下へ運んだり
塩漬けしたり干したり
果実酒も仕込んで
みんなで順番に子守もして
じいさんばあさんの世話もする

灯台守はぜぇんぶ知っている


熟れた漁師は海が時化たら酒盛りだ
だが海が時化ると海より荒れるやつが出てくる
血気盛んな時をみんな通る
太陽と月と風と山と海と
大っきなもんのごきげんに振り回されるのは
若い漁師だ

ダンダンダンダン
「おいっ!灯台守!なんで灯り消すんだ!
オレだってもう漁に行けるんだ!灯り点けてくれ!」

ほれやってきた
若い漁師の話しを聞くのも灯台守だ


さぁて今夜は長くなりそうだ
灯台守はランプに灯りを点けて
椅子をふたつ果実酒をひとつ用意した




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