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水平線の彼方

父が癌で亡くなった時の密葬とお骨の行方に悔いを残した。
生前希望を聞いていなかったのだ。
今思えば父の考え方に密葬と合祀はぴったりだったと思い直す。
だが悔いが残る若かった私は母を捕まえては
「ねぇねぇ、お母さんの時、どうしたい?」
努めて明るく聞いた。
母は
「そうねぇ」
間を置いて
「◯◯先生と◯◯先生に送ってもらいたいなぁ」
「お骨は?お父さんと一緒がいい?」
夫婦仲は最悪だったが時折見せる表情と数少ないやり取りで相思相愛な事に気付いていた。
不器用な二人だった。
「お母さん、お骨はあの海に散骨して欲しいなぁ」
声は明るいが遠い目だ。
調べるとそこそこお金が掛かる。
母の数少ない願いだ。
母は癌になってからあっという間だった。
有難い事に希望通りの見送りは叶ったが残念ながらお骨の事はきょうだいで揉めて散骨まで話し合えなかった。
いつか母のお骨をあの海の水平線の彼方へ散骨したい。

2023年5月17日(水) Twitterより

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