2022年11月23日

ヴィルヘルムスハーフェン港でドイツ初のLNG受け入れターミナルが完成したことを受け、ハーベック経済・気候相が出した「驚くべきスピードだ」との声明を読んで思わず笑ってしまった。ドイツでは官民を問わず、プロジェクトが予定通りに進むことはまずないためだ。例えば飲食店を開く場合でも計画の1.5倍の時間を想定しておかないと、痛い目を見ることになる。施工業者の都合で工事は当然のごとく先送りされる。
大型のインフラプロジェクトとなると実現のハードルははるかに高い。当局の審査手続きに膨大な時間がかかるうえ、当該地域の住民や環境保護団体が反対運動を起こすためだ。福島原発事故の発生後に始まった送電網の拡充計画や、シュツットガルト中央駅の再開発計画は典型的な例と言える。

そんなドイツでLNGターミナルが計画発表からわずか半年で完成したというのはただごとではないのである。エネルギー危機という例外状態ゆえに反対の声は小さかった。国民の大半が実利を取ったとも言えるが、「やれば出来るじゃん!」と思った次第だ。
独裁国家であればことは簡単である。中国のゼロコロナ政策を見れば明らかなように、命令1つであとは官僚機構が動きだし、反対があれば力で押さえつける。コロナ禍の経済的な打撃から他の国に先駆けて回復したこともあり、社会主義の優越性を誇らしげに喧伝していたが、これに感化されて中国に住みたいと思う外国人はほとんどいないであろう。隣国アフガニスタンの難民が目指すのは現在も遠く離れたドイツなどの欧州であり、中国ではない。

近代の民主主義は個人の尊厳を前提とするゆえに、国家が巨大な権力の濫用しないよう憲法を頂点とする法体系で厳しい制約を加えている。公共の福祉に寄与するはずの大型インフラプロジェクトが滞るのはその負の側面かもしれないが、市民が反対の声を自由に上げられるわけだから、民主化の度合いのバロメーターでもあるだろう。

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