2022年11月16日

ドイツの大手企業8社の社長が『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に共同声明を寄稿した。ショルツ首相(社会民主党)の訪中が巻き起こした活発な議論を受けたものである。対中経済関係の見直し論議がデカップリングの方向に向かいかねないことに強い危機感を示している。

8社はBASF、シーメンス、メルク、ボッシュ、トルンプ、ヘレウス、シェフラー、ハンブルク港湾会社である。VWなど自動車大手は含まれていない。
声明文では中国がここ数年で大きく変わり、台湾情勢の緊迫や新疆ウイグル自治区における人権侵害など問題を引き起こしていることを指摘。こうした懸念を踏まえ、半導体や電池、希土類などの調達でリスクを分散し、中国依存を低減することの重要性がきょう強調されている。この認識は大手企業の強い対中依存を批判するハーベック経済相(緑の党)などと違いがない。

ボッシュは9日、希土類を使わないモーターの開発を、量子コンピューティングを活用して加速する計画を明らかにした。プレスリリースには中国の国名は一切、出てこないが、中国依存の引き下げ策の1つであることは明らかである。強く依存していれば自由に活動する余地が狭められることは、外部からの批判を待たずとも当事者が一番よく分かっているのである。中国やロシアの近年の振る舞いを見てリスクはないと考えるほど、世界的な企業のトップは愚鈍ではないだろう。
リスクを承知しながらもサプライチェーンと市場の両面で中国への関与を重視するのは、同国を回避すれば企業の競争力が低下し、ドイツ国内の雇用も数多く失われるためだ。

共同声明では欧州が競争力を高め、技術的な主導権を握ることも対中依存を引き下げるうえで重要だと強調している。当事者として問題を総合的に判断していることがうかがわれる。
それでも気がかりなのは、中国が台湾に軍事侵攻した場合、企業はどのような危機対策を取れるのだろうかという点である。声明文は「台湾海峡の緊迫」に懸念を表明したうえで、「平和的に解決されなければならない」と記すにとどまる。対話と各種の圧力、中国の暴走を許さない国際環境の構築といった包括的なアプローチに期待をかけているのだろう。ただ、そうした状況下にあっても為政者が誤った判断を下し得ることは、プーチン氏の例を見ると排除できない。イエスマンに囲まれた野心家の習近平氏が同じ過ちを犯すことは十分に考えられるシナリオである。

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