2022年2月23日

威力を失った魔法のように歴史書のなかに封印されていた出来事が最近、相次いで蘇っているような感覚に囚われている。ひとつはスタグフレーションである。筆者は小学生であった1970年代の前半に経験した。

石油危機が引き金となり、流言飛語でトイレットペーパーの買いだめが全国的に広がったことから、スーパーは販売を「1人1袋」に制限した。母親に言われて時々、レジに別々に並んだことを覚えている(ちなみに筆者の住んでいた田舎には当時、下水が普及しておらず、トイレの紙はロール式でなく表面がひだ状の四角い落とし紙であった。山奥の親戚の農家では新聞紙や雑誌を便所紙に使っていた)。床屋で順番を待つ間に開いた週刊誌には特大フォントの大袈裟なタイトルが並んでいた。大人たちは経済学では説明できない現象と言っていたような気がする。

かれこれ50年近く前の亡霊をもう一度、経験するかもしれないとは思ってもいなかった。歴史的な低金利で一般市民の預金にもマイナス金利が適用されている現状は困ったものだが、スタグフレーションは勘弁してほしい。

しかし、最近よく見聞きする歴史用語「融和政策」ははるかに不吉だ。英仏がナチスドイツの国際法違反を容認し続け、挙句の果てに1938年のミュンヘン協定でチェコスロバキアにズデーテン地方を割譲させた悪名高き外交である。味を占めたヒトラーは協定を無視してチェコスロバキアを全面占領。さらに、ポーランドの侵攻を受けたとする「偽装工作」で第2次世界大戦を勃発させた。偽装工作も融和政策と並び、現在のウクライナ危機で頻繁に使われる言葉だ。

融和政策は第1次大戦後の国際秩序崩壊の大きな原因の1つとなった。ウクライナ危機への対応を米国、NATO、EUが誤れば、第2次大戦後に民主主義諸国が構築した国際秩序も土台が掘り崩される懸念がある。

米国主導の戦後秩序には問題も多いが、その空洞化は世界の不安定化の加速につながる。G7の無力さがもし証明されるようであれば、ロシアだけでなく中国も強気の姿勢を強め、歯止めがかからなくなるだろう。人権と自由、民主主義を基調とする戦後秩序は、プーチン氏と習近平氏にとって障害物以外の何物でもない。

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