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最寄り駅


「次は、祐天寺〜、」

瞼が反射で開く。

大丈夫、今日は乗り過ごしていない。

ホームに到着する数分で、前髪を整え、口紅を塗り直す。
まつげがすこし下向き。

午前中は大学の講義を受けて、午後イチのゼミでのプレゼンも問題なく終了。夕方からは塾のアルバイト。

アイシャドウのラメもだいぶ落ちてる。

「右側のドアが開きます」

すこし背筋を伸ばして、ホームに足をつける。

この後の予定は、無い。
まっすぐ家に帰るだけだ。

エスカレーターをくだる。
私の視線は改札のその先。

地上に足がつく。
私の心は記憶のその先。

改札に定期券が触れる。
眠りながら見た記憶に浸る。

“同じ”高校の制服姿の男の子が目に入る。

どきり、と高鳴る胸も虚しく、
化粧を顔に施した自分の顔がガラスのドアに反射する。


あぁ私、また、明日も同じ夢を見るんだな。





今はもう何も思っていないはずなのに、思い出すことが癖になっている人、物、こと、風景。

「また」を心待ちにしているようで
現実になってしまったらその価値も消えてしまうものなのかなと。

そういう記憶、気を抜くと溢れてきてどうしようもなくなった日がある人は
きっと豊かな日々を送れていたのかなと考えたりする今日この頃です。

正夢 / スピッツ


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