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エリスンの名作「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」を読んでゲーム版をやろう!

 ハーラン・エリスンの「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」はコンピュータが反乱を起こし、人間を支配下に置くという短編SF小説。
 AMというマシーンが人類をせん滅した未来。AMは最後に生き残った5人に不死を与え、そして残酷な幻覚を見せて弄ぶ。死ぬことを許されない5人を、AMは109年もの間、閉じ込め続けるのだった。

 テーマは古典的でありますが、むしろ今の時代にこそ顧みられるべき古くて新しいテーマでもありますし、表現も極めて暴力的なのですが、緊張感があって巧みな文章が光る傑作であります。

 『死の鳥』(ハヤカワ文庫)で翻訳を読むことのできる本作ですが、今日ご紹介したいのは、この小説を原作にしたゲームのほう。タイトルは同作の原題と同じく「I Have No Mouth, and I Must Scream」で、1995年発売とやや古い作品なのですが、原作者のハーラン・エリスンも制作に参加し、なんと敵役であるコンピュータ、AMの声まで担当しているのです。そしてこれが何ともすばらしい熱演! 実におどろおどろしい演技で、この声が作品全体の調子を決定づけているとすら言えます。エリスンの愛読者ならプレイ必須ですね。

冒頭のAMのセリフ。C.V.ハーラン・エリスン


 ゲームはAMが支配する5人の中から一人を選択し、それぞれの物語を進めていく流れとなります。ジャンルとしてはポイント&クリックといって、対象にマウスカーソルを合わせてクリックすることでアイテムを入手するなどして話が進展していくという趣向。

登場人物のひとり、ゴリスターのシナリオは船内の探索から始まる


 ゲームとしては、原作の設定を踏襲しながらも登場人物の過去や内面を掘り下げていくという方向に話を膨らませていまして、このあたりは原作者の意見もかなり取り入れられているのかな、と感じさせられます。また映像もさすがに時代は感じるもののかなりハイレベルで、幻想的だったり残酷だったりと原作の雰囲気をうまく取り入れていますね。むしろ制限があるがゆえに説明的でない映像が行間を感じさせるところもあって、本作のムードを盛り上げている側面もあるとも言えます。

荒野での謎めいたジャッカルとの出会い

 また、AMから逃れるような行動を取ろうとすると、AMから警告を受けたうえでゲームオーバーとなってスタートに引き戻されるところなど、原作小説の要素をうまくゲームに取り入れていて原作愛に満ちている部分でもあります。

 かなり残酷な描写も多いのと、難易度がメチャクチャ高い! それに加えて英語版しかないというところで人を選ぶ作品かもしれませんが、小説の魅力を損なうことなくさらにそこに肉付けしているという点で、原作のゲーム 化という点では百点満点と言える名作。ぜひ原作小説とあわせて楽しんでみてくださいね。

死の鳥 | 種類,ハヤカワ文庫SF | ハヤカワ・オンライン (hayakawa-online.co.jp)

※ゲーム版はSTEAM等で販売中。

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