羊ライオンの話

妊娠中のライオンが、羊の群れに躍りかかった。そのとき、力み過ぎたためにお腹の中にいた子どもが生まれて、母ライオンは死んでしまった。子どもは、羊の群れの中で羊と一緒に「バァ、バァ」と鳴きながら草を食べて育った。やがて、彼は大人のライオンになったが、自分は羊だと思い込んでいた。
あるとき、別のライオンが獲物を求めてやってきた。そして、羊の群れの中にライオンがいて、羊たちと一緒に「バァ、バァ」と鳴いているのを見て驚いた。ライオンはこの羊ライオンに「君は羊ではない、ライオンだ」と教えてやろうと思った。しかし、近づくと臆病な羊ライオンは逃げてしまう。
ライオンはやっと羊ライオンを捕まえて言った。「君はライオンだぞ。」羊ライオンは言った。「そんなはずありません。僕は羊です。」
羊ライオンがなかなか理解しないので、ライオンは彼を池のふちへ引っ張っていった。「ここをよく見てごらん。こちらが僕で、こちらが君だ。」羊ライオンは水面に映った二つの姿を見比べた。こちらが隣のライオンで、こちらが自分。突然、羊ライオンは自分が何であるかを理解した。そして、「ウオー」と力強く咆哮して、もう「バァ、バァ」とは鳴かなくなった。

  / ウパニシャッド


限りある肉体や心や知性と自分自身を同一視しない

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