家賃の安い物件には変な奴も住んでいる

安アパートに住んでいたときの話。

共用ポストに入るチラシの処理、かなり面倒臭い。興味のないフードデリバリーのプロモーション、絶対ここの住人に縁はないだろうという煌びやかな新築マンションの案内、どうせぼったくりな水道業者のマグネット。入れてくれるな。

一応管理会社の好意でそのスペースには共用のゴミ箱も設置してくれているので、郵便受けを開けるたび不要な中身をそちらへポイポイ移す作業をすればいいだけなのだが、それすらしたくない。

ある日たまらなくなって「チラシを入れないでください」と書いた注意書きを自分のポストのところに貼ってみたら効果はてきめん。それ以降ビラの類は入らなくなった。実際、昔やったピザ屋のバイトで郵便受けにそういった注意書きのあるところへはビラを投入するなと口酸っぱく言われたのを思い出した。

しかしある日、事件は起きる。いつも通り帰宅しポストを確認すると共用ゴミ箱に捨ててあったと思われる全世帯分の大量のチラシがぐちゃぐちゃになって無造作に突っ込まれていたのだ。

いや、何してんのよ。しょーもない悪戯をする奴がいたもんだな。チラシを入れないで、と書いてあるのがムカついたのか？ビラ投入バイトが仕事のだるさから腹いせにやったのか？それなら気持ちはわかるけどさ…。

それも一度では終わらず、数日続けて発生していた。

これは常習性のある誰かがやっているぞ、と思う。よし、通報しよう。郵便法第78条、郵便専用の物件又は現に郵便の用に供する物件に対し損傷その他郵便の障害となるべき行為をした者は、これを5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。他人のポストにゴミを入れたら（それを本人がゴミと主張しそれが認められれば）犯罪です。

幸いにもこの共用ポストスペースには（安アパートながら）監視カメラがついているので、まずは管理会社に一件を連絡。「映像を確認しておきます」との回答をいただいた。

お次は自信満々で警察署の相談ダイヤルへコール。実際に現場を確認したいとのことで警官の方が物件まで来てくれた。

共用部分を確認し「こういうトラブルはよくあるんですよね、この張り紙を貼ってると悪戯されると思うんで、剥がしてはどうですか。」と言われるも毅然と自身の正当性と立派な犯罪である点を主張。するとしぶしぶという雰囲気で記録をとりはじめ「事件現場を押さえてはいないのでパトロールをするくらいの対応にはなるのですが、一応把握しておきます」とひとこと残した。若干の肩透かし。頼りないなあ。

その後すぐ、張り紙には文言を付け加えておいた。「ゴミを入れた方、犯罪ですので通報いたしました。」と。

すると翌日になって予想外の展開。その張り紙の上に重ねる形でこんな張り紙がしてあった。　　

反応が返ってきた！オモロすぎる！！！っていうか絶対ここの住人じゃん。通報の二文字に焦ったのか、なんだかよくわからんフワっとした内容で応戦してきたぞ。

そして字が汚い。なよっとしてオタク臭い字を見るだけであぁ、いい大人になっても低収入の独身男性なんだなとわかってしまう（それは自分もそう）。

順番としては左←右に読んでください

それからというもの、依然として「チラシ不要、ゴミを入れたら通報」の貼り紙をやめない私の郵便受けには毎日のように怪文書が届くようになった。時には郵便受けに、そして時には私の部屋のドアの横に糊付けしてあるのだ。

「管理会社に連絡したもんね！」と書き残したと思ったら、その翌日にはスターツアメニティー（管理会社）の名を騙るお願いの文書が。いや手書きで罫線メモに連絡事項を残す管理会社がどこにいるんですかね。っていうかそもそもどう見ても筆跡が同一人物だが本人的によかったのだろうか。

拙い幼さの残る香ばしい言葉遣いと投函（かん）のルビがほのかなシュールさを醸し出す。漢字が難しくて読めないことを配慮する謎の丁寧さ。まあ君にとっては読めない漢字なのかもね。

無敵の人的に何をやらかすかわからない怖さこそあれど、正直この幼稚なレベルで来られてもなんの脅しにもなっておらず嫌がらせの方法としてはいまいちだ。ポストに動物の死骸を入れるとか、鍵穴にセメダインを注入するとか、ドアノブの裏に画鋲を貼り付けておくとか、そういう攻撃性を持てない時点で三流。あなたは一生そのままです。私のような粘着神経質ニチャニチャINTPを敵に回してる時点で詰んでます。

それから1、2週間ほど経った頃だろうか。警察署から一本の電話があった。

「先日ご相談いただいた郵便受けの件ですが、同じアパートの住人の方だと判明しましたのでお宅に伺って厳重注意処分となりました。」

おお！きちんと解決した！どうやら管理会社の方で映像を確認し、警察へ引き渡してくれたようだった。どんなに小規模な犯罪であれど明確な証拠があれば動かないわけにはいかない。外堀から巻き込むことで正式な事件として処理されるに至った様子。

「本人に話を聞くと、チラシ不要の張り紙が面白くなかったようで…。」と警察署の方が語る。予想通りせせこましい人間によるせせこましい人間へのちょいっかいだったということか。警察の方には最大限の感謝を伝え、一件落着となった。