夫と暮らすこの部屋の中で、異質な存在がある。 それは本棚だ。 私が一人暮らしの時から使っていたものをそのままこのアパートに持ってきた。こじんまりとしたサイズで、高さは自分のおへそぐらいの、薄ベージュ色の棚。4段に並ぶ、お気に入りの作家たちの文庫本、そして棚の上に適当に飾っている雑貨たち、これらは全部、めちゃくちゃ私だ。 なんでわざわざこんなことに目が向いたかというと、先日うちに遊びに来た夫の兄がきっかけだった。リビングの扉を開けて、ちらりと部屋全体に目をやり、一
数年前に死んでしまった友人の婚約者は、今どうしているだろう。 ラインで、どうしてる?と一言だけ打って、送ってしまいたくなる。でも、そんなことをすべきではないからやめる。 彼のことが気になるのはなぜなのか。別に彼と彼女の思い出話をしたいわけじゃない。彼が多分、まだ大丈夫ではない気がするからだ。 友人は一つ年下で、その婚約者は友人と同い年だった。つまり二人とも一つ年下。 彼とは三回会った。 一回目は、友人が癌になってから、治療が一旦明けた彼女が地元から遊びに