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20cmとクッキー

人が死ぬということは、 例えばあなたの友達があなたにクッキーを手渡してくれるとしよう。 あなたの友達はあなたの前に立つ。 あなたとあなたの友達の距離は20cmくらい。 あなたの友達がクッキーをあなたに差し出す。 クッキーを持つ、友達の手を見る。 いつもある、親指の付け根のやけどの跡が見える。 あなたは受け取る。 クッキーはあなたの手に渡った。 顔を上げると、あなたの友達はほほえんで、そして消えてしまう。 クッキーだけがあなたの手に残り、あなたの前にはもう、誰もいない。

    • めちゃくちゃ私なもの

       夫と暮らすこの部屋の中で、異質な存在がある。  それは本棚だ。  私が一人暮らしの時から使っていたものをそのままこのアパートに持ってきた。こじんまりとしたサイズで、高さは自分のおへそぐらいの、薄ベージュ色の棚。4段に並ぶ、お気に入りの作家たちの文庫本、そして棚の上に適当に飾っている雑貨たち、これらは全部、めちゃくちゃ私だ。  なんでわざわざこんなことに目が向いたかというと、先日うちに遊びに来た夫の兄がきっかけだった。リビングの扉を開けて、ちらりと部屋全体に目をやり、一

      • 彼について

         数年前に死んでしまった友人の婚約者は、今どうしているだろう。  ラインで、どうしてる?と一言だけ打って、送ってしまいたくなる。でも、そんなことをすべきではないからやめる。  彼のことが気になるのはなぜなのか。私は別に彼と彼女の思い出話をしたいわけじゃない。気になるのは、彼が多分まだ大丈夫ではない気がするからだ。  友人は一つ年下で、その婚約者は友人と同い年だった。つまり二人とも一つ年下。  彼とは三回会った。  一回目は、友人が癌になってから、治療が一旦明けた彼女

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