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羽化とは世界と向き合うことである polly『FLOWERS』レビュー

4人組ロックバンド、polly。前作『Clean Clean Clean』とは異なる表情を見せる彼らの素晴らしい最新作『FLOWERS』。前作との違いは何か、彼らの何が変わったのか。


この作品のレビューを書くためにnoteに登録しました。よえくと言います。1st mini Album『青、時々、goodbye』以前から彼らのことを追っていたので、わりと初期ファンだと言えるのではないでしょうか。

「pollyというバンド名を知ってはいるが聴いたことはない」「pollyの過去作を聴いたことはあるが、現在進行形では聴いていない」という人たちには、現在のpollyについて少しでも興味を持っていただけたら。「現在進行形でpollyを聴いている。大なり小なり好んでいる」という人たちには、pollyの現在地について再認識し、これからのpollyによりいっそうの期待を持っていただけたら。そんな目的のもと、彼らの変化と彼らの最新作『FLOWERS』について書いてみようと思います。

pollyとは

2012年宇都宮でバンド結成。ボーカルギターの越雲龍馬、ギターの飯村悠介、ベースの須藤研太、ドラムの高岩栄紀からなるロックバンド。

2015年6月、ファーストミニアルバム「青、時々、goodbye」をリリース。
2016年7月、セカンドミニアルバム「哀余る」をリリース。
2017年4月から2ヶ月連続で会場限定シングル「愴」と「想」をリリース。
2018年5月、ファーストアルバム「Clean Clean Clean」をリリース。

2019年9月から二か月連続で「Starlight Starlight」「Hymn」を先行配信。
2019年11月6日、小林祐介(THE NOVEMBERS)プロデュースによる、サードミニアルバム「FLOWERS」をリリース。

以上、公式サイトからの引用でした。越雲の透き通るような声と、シューゲイザー/ドリームポップの影響が感じられるサウンドが特徴です。彼らの今までを振り返ると、ファーストミニアルバム『青、時々、goodbye』~セカンドミニアルバム『哀余る』が第一期、シングル『愴』『想』~ファーストアルバム『Clean Clean Clean』が第二期、といった区切りでサウンドに変化が起きていてます。そして今作『FLOWERS』においても、第三期pollyが始まりを感じるサウンドの変化が起きています。

第一期はいわゆるインディーっぽいプレーンなギターロック。第二期になるとシューゲイザーやドリームポップ、ポストパンクの要素が強まり、第三期では……なんでしょうね?僕はすごくJ-POPっぽさを感じました。同時に、この作品が4ADからリリースされていても違和感はないだろうなと思えます。普遍的だけど唯一性があるような印象を受けました。

前作『Clean Clean Clean』について

第二期pollyと第三期pollyでは何が違うのか、『Clean Clean Clean』と『FLOWERS』の比較をして解釈しようと思います。

『Clean Clean Clean』は多くの音が重なりつつもレイヤー感が薄い、あるいはレイヤー同士が密接に位置しているような、ひとまとまりの轟音に包まれている作品です。精神から生まれたものがさらに精神の奥に入っていくような、世界に迎合しない冷たさが感じられるサウンドコンセプトだなと思いました。鋭さも感じられますが、轟音に包まれる程度に殺された結果、ざらついたような質感として全体に広がっています。

当時の越雲のライブやSNSでの様子、サウンドの傾向から想像してみると、第二期pollyはすごく苦しかったのではないかと思います。作品の出来に対して自信はあったけど、それがどう届いていくかまでは自信がなかったのではないかと。期待はあったと思いますが、未知だったと思います。内向きというか後ろ向きというか、日に照らされたときに浴びている光のほうを見ずに影のほうばかり見ているような精神の昇華として生まれた作品なのではないかと思って聴いています。

ちょっと悪口みたいになってきましたが……そうではありません。この作品でpollyによるpollyの自己認識が成されて苦しい状態を抜け出せたのではないかと思っています。通過儀礼です。『Clean Clean Clean』の制作で得た一番の武器は「轟音にも負けない強いメロディのよさ」です。コンセプトを実現するサウンドメイキングの成功体験と、その上で崩れることの無かった武器。つまり影響を影響のままにせずに体言する手段と、自分たちの軸が何なのかということを明確に得るまでが第二期pollyだったのだと思います。

『Clean Clean Clean』はpollyにとって、蛹としての機能を果たした作品です。逃げられない「過去」をどろどろに溶かし、再構築するものでした。そしてそれは聴き手にとってもそうだと思います。自分の中に殺せない自分がいて前に進めないとき、この作品を聴くことで僕は救われています。

蛹の中でも特に蛹っぽい曲『狂おしい』

蛹状態の終わりを感じさせる『生活』 この曲に到達していなければ『FLOWERS』も生まれなかったと思います。「わかったんだ」って歌詞、つまりそういうことでは?


『FLOWERS』で何が変わったのか

『Clean Clean Clean』という蛹状態を経て羽化したpollyが生み出した作品が『FLOWERS』です。蛹が素晴らしいなら蛹でいいんじゃないの?と思いますが、優劣ではなく明確な違いがあります。今作はとても「届ける」ことを意識したサウンドになっています。自分の内にあるものを内でどろどろさせるのではなく、外に羽ばたかせていくような方向性の違いがあります。polly、また進化したな、と思える1枚です。

進化の理由はふたつ考えられます。第一に、ソングライティングを行いサウンドの軸を担うフロントマンである越雲や各メンバーの成長、バンドとしての成長がありました。ライブを見ていると、今までは越雲の「自分のやりたい表現・思想をどのようにバンドに落とし込もう?」という姿勢が感じられましたが、現在では「pollyとしてどう表現していくか」という、バンド全体で前を向けているような姿勢の変化が感じられます。バンドにどう向きあうか、バンドとしてどこを向くのか、という違いですね。第二に、プロデューサーにTHE NOVEMBERSの小林祐介を迎えたことで世界との接続が生まれ、外への意識を保ったまま制作することができたのではないでしょうか。

前作と比べると、繊細なニュアンスを殺さずに活かす音作りをしています。1曲目の『Starlight Starlight』でその特徴を掴んでみましょう。冒頭に入ってくる打ち込みの音の高低に対するリバーブのかけ具合の調整で既にレイヤー感を演出しています。その後に入ってくるギターのアタックに合わせて鍵盤が鳴らされており、シンプルなコード弾きが上に鳴っている音に溶けていくような効果がもたらされています。この2点だけでもアタックと減衰、奥行きの中での音の配置にこだわって制作されていることが伺えます。ベースが入ってきて一気に曲の世界観が開ける部分なんてその極致ですね。ボーカルが入ってくるパートでは余計な音を鳴らしていないのも凄く良いです。

今までのpollyと比べると、演出力・音のデザイン力が格段に増しています。端的に言うと、すごく聴きやすいです。ボーカルは鮮明に聴こえるしバンドの演奏と打ち込みが混在していても互いを邪魔していないし、リバーブなどのエフェクトはかけられた意味を感じやすい、わかりやすさがあります。聴きやすいけど薄いわけではなく、随所にこだわりのある演出がほどこされており、厚みのある音の中にいるような浮遊感も健在です。全曲にわたって音の置きかたにこだわりが感じられるので、こちらが能動的に入り込まずとも伝わってくるものの多い、自然に浸透していくような作品だと思いました。


「届ける」ということを意識した作品

『FLOWERS』というタイトルの通り、この作品は「届ける」ということについて意識されています。質感としての冷たさは感じられますし、ネガポジ入り混じってはいるのですが、全体的に今までのpollyよりも優しくてやわらかい感じを受けました。『Clean Clean Clean』では主観で内側を見ていたものが、『FLOWERS』では外を向いた主観になったような印象です。生きることは過去を振り返ることではなく未来に進むことであって、未来は世界の中に広がっていて、世界に向き合うことによって未来を認識し、自己や他者を信じることができるんだと思います。今、pollyは他者=聴き手を信じることが出来ているからこそ届けようとしているし、届けようとした結果としてのやさしさがこの作品を包んでいるのではないでしょうか。この作品はきっと、いろんな人にやわらかい祝福のような光をもたらすのだと、自分や誰かの幸せを祈りながら聴いてしまいます。

影は背中を押してくれるし、光は進むことのできる先を照らしてくれるし、どちらも生きるうえで必要なものだと思います。その両方を表現することのできたpollyが、来年どのような姿を見せるのか非常に楽しみにしています。

最後に、リリースに寄せての越雲氏のコメントを引用して終わります。散々書いたけど、このコメントが『Clean Clean Clean』から『FLOWERS』におけるpollyの変遷を表している全てだと思います。

花は、嬉しいときに手渡したり、葬儀など別れの時に供えたり、人の門出には必ず添えられるもので “始まりや終わり” は心が大きく動き、喜びや哀しみを与えます。そういった目には見えないものを形としてあらわし、最大の心を渡せる存在だと思っています。
今作は深い場所にある心を、誰かに渡す花のような作品が完成したと思っています。
polly Vo/Gt 越雲龍馬


polly 3rd Mini Album『FLOWERS』

2019年11月6日(水)発売
収録曲
1. Starlight Starlight
2. 泣きたくなるような
3. Hymn
4. 触れて
5. 同じ花を見つめながら
6. Plastic
7. 遠く
UKDZ-0206|1,700円+税
DAIZAWA RECORDS / UK.PROJECT inc.

Linkfire https://polly.lnk.to/flowers/
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