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階の九 「美術館のモモ」

あたしこんなところにいるはずじゃないのよ
ほんとはもっとステキなところにいるはずなのよ
なんてったってあたしがいちばんステキなんだから
真っ赤なおべべが目立っているわ 目立ちすぎているのだわ
まわりの絵なんか目じゃないわ こいつら生きちゃあいないもの
平べったくって 仰々しくって やってられないわ
澄ましたようで 苦々しい表情も 見ちゃいらんないわ
そんなに鼻を近づけて 食い入るように見つめるもの?
あたしのことを見なさいな 吐息がかかるほど近づいて
風に揺れる髪のリズムを その指先で感じてよ
ここが舞台の上なら あたしはディーヴァ
辛気臭いあなたたちも 観客としてなら認めてあげる
豪華な縁に囚われて 壁際に並びなさいな
大きなホールの中心で なんてったってステキな
あたしが立っているのだから
どうして眉をひそめるのかしら
あたしのおべべが目立ちすぎなのかしら
あたしの声がキレイすぎるのかしら
まっすぐ見られやしないから 
確かめようのない 歴史や 考えや 概念に
言葉を尽くして うなずいて
わかったようなふりをしているのね
景色がみたけりゃ 窓から外を見ればいいのに
自分がみたけりゃ あたしの瞳を覗き込めばいいのに
なぜなのかしら なぜなのかしら 
あたしにはわからないわ
わからないあたしが 
いちばんステキだってこと以外は

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