階の五 「それは人が支えし宮殿」
4000年をかけてそれは創られた
100年に一人の逸材を100年に一人ずつ用い
10の建材で構成された施設を1000年と見立て
4000年を4つの区画で表す宮殿
それは四季ではない――それは脳幹の頭蓋である
それは四方位ではない――それは心臓の肺腑である
それは四神ではない――それは背骨の踵である
それは四君子ではない――それは内耳の目蓋である
設計士は永遠の象徴を生命の意趣に代えた
芸術家は郷愁の風景を神秘の意訳に換えた
建材は健在であったころの名を忘れられ
新たに名付けられまたその名を忘れられた
記憶は奥底にはない大気に霧散し
ありもしない歴史の闇に葬られた
逸材たちの身は葬られもせず
散りゆくことも許されぬまま
これは単なる加害妄想
前に進んだあとで後ろに戻ったときに
これまで歩んだ道を二度と辿れないような
出口ではない穴の空いた袋小路でしかない
はじめの人から300年が経過したころ
宮殿が燃え
4人が失われた
――100年かけて4人を集めなおした
その600年後
宮殿が燃え
11人が失われた
――100年かけて11人を集めなおした
その200年後
宮殿が燃え
13人が失われた
――100年かけて13人を集めなおした
その2600年後
宮殿が燃え
40人が失われた
――100年かけて40人を集めなおした
これは単なる加害妄想
前に進んだあとで後ろに戻ったときに
これまで歩んだ道を二度と辿れないような
出口ではない穴の空いた袋小路でしかない
実際のところ100年に一人の逸材が
何人費やされてきたのか知る由もないが
この宮殿は幾度も遭った大火にもめげず
建て直されてきたのである
味気のない歴史解説の自動音声は途切れ
名も知らない建材の彫像の目が
名も知らない君の目を見つめて
「ただ行くままに先へ進め」と告げる――
そんなわけはないのだから
君は君の肋骨が告げるまま
人の支える道を足蹴にして
ただ行くままに先へ進め
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