報い
月に数回お手伝いに行く現場にアルバイトで来ているK大生が、この春めでたく就職をすることになった。
弟のように感じていた彼と現場でもう会えなくなることは個人的には決してめでたいことではないが、彼の人生にとっては間違いなくめでたいことだ。
だからおめでとうと心から思う。
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彼と一緒になるこの現場は、それほどハードな仕事内容ではないが、車が走り回っていることもあり、ピリピリとした緊張感が漲っている。
人が運転しているからか、想定通りに進むことの方が少なく、いくら準備をしていても、誘導する側が臨機応変に動かざるを得ない。
時代は自動運転へと向かっているが、機械が運転する方が統制を取れるのかもしれないが、まだまだ不安しかない。
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緊張感の割にギャラがだいぶ安く、慢性的に人手が不足している現場へ、彼は学校の友人や後輩を何人も連れてきてくれた。
さすがに天下のK大生の頭脳は例外なく明晰で、言葉足らずのこちらが言うことを一発で理解してくれる。
でも想定外のことに対応できる子はまずいない。
そら、そうだ。
もしそれをやられたら不明晰な我々がいる意味など皆無だ。
とはいえ実際にはその瞬間にはその対応を求めてしまい、怒号が飛び交うこともしばしばで、2回来れる子は相当メンタルが強いか、どうかしてるかだ。
もし自分が大学生だった頃にここに来ていたら、昼には消えている。
そんな現場であるにも関わらず、彼は学生の間ずっと勤務を続けた。
理不尽な怒号に傷つけられた友人のフォローもしてくれていただろうし、連れて行った責任を感じたりもしただろう。
彼自身もきっと少なくない傷を負ったと思うし、自分もその傷をつけた一人だ。
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昨日、彼の送別会をした。
お世話をしていたようでお世話になっていた7人と彼で、特に盛り上がりもしないいつも通りの食事会だった。
帰りの電車が偶然彼と二人だけになったので、少しだけ話すことができた。
話し始めると15分じゃとても足りないと感じるのに、可愛い弟の門出に添えるべき助言の一つも伝えられなかった。
そんな歳だけ上の恥ずかしい男との別れ際に、彼はこう言った。
「お世話になりました。大好きです。」と。
こなしているだけの日常に出会う何気ない一言に、全てを救われることがある。
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日本を代表する大学を卒業し、世界有数の大企業へ就職する彼の未来は、輝かしいものだと信じたい。
でも、辞めたくなったら、辞めればいい。
ほとんど全ての日本人が思い描く最高の形を、あなたはあなたの力で手に入れられたんだから、きっともう大丈夫。
何があっても私はあなたの味方だと伝える方法を見つけられたら、恥ずかしがらずに伝えに行こうと思う。
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